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第20話 変質

 一旦落ち着こう。俺は今、感情の整理がついて来てない。こんな状態ではまともな判断は難しいだろう。まあ、正常でも異常でも何も事態は好転しないだろうな。きっと。


「それで、なんだ?また金借りて賭けたのか?でも質草になりそうなものなんて持ってないだろ?俺達。」

 ディッドの懐へは目をやらず、奇跡の石には気付いてない体で話を進める。


「いやさ、もしかしてアルならこうゆう事もあると思ってヘソクリとかあるんじゃないかな〜、ってさ。」

 石の存在を回避できたと感じたのか、調子上げて来やがったな、こいつの頭が奇跡だよ。

 で、ヘソクリね。それを含めて全財産強奪されたんだよな………犯人は、お前だよ!


「大体どれ位の額なんだ?それが分からなきゃどうしようも無いだろ。」


「分かりやすく言うと………龍の卵売ったじゃん、あれの半分あれば足りるくらい……かな。」

 なるほどね、あの時大金持ちになったから半分だと小金持ち位か。イヤイヤ、結構な大金持ちだから半分減ってもまだまだ大金持ちだな。




 なんでコイツら見捨てて街を出なかったんだろう……人生の選択肢間違えちゃったよ、俺。

 


「御話の途中で申し訳御座いませんが、此方の方の御身内の方で御間違いに無いでしょうか?」

 間違ってます。赤の他人です。来世で会ってもシカトします。

 厳ついスーツ男にそう答えたかったが、そんな事を言える訳が無かった。もう俺のクソ力は綺麗さっぱりトイレに流れちゃったよ。


「はぃ。」 上手く言葉が出ない。


「御貸しできる額が限度額を越えましたので、一度御清算して頂いた後で引き続き御遊びして頂きたいのですが?」

 ぁぁ、命で清算ですね。父ちゃん、母ちゃん。先立つ不幸をお許し下さい。


 言うにこのカジノは、半国営で運営しているらしい。従ってここで支払いができないと、国家からは犯罪者として扱われ、また取り立てに関しては、裏社会の人間からあの手この手で最後の最後まで搾り取られるとの事だそうだ。 


 なんだ、龍とか鳥とか獣とかって人間よりか全然余裕じゃん。可愛いじゃん。……人間って怖いな。


 兎にも角にも、三人仲良く拘束だとさ。





「どうする?無理矢理突破してみる?」

 これ以上、罪を重ねるのはやめて欲しいんだけどな、駄目リーダー。俺は冷やかな目で言動を制しておく。


「ん〜…やることないし、ちょっと疲れたから横になってるね。」

 この状況でなんでそんなに落ち着ける?隣のデカブツはパニック状態で挙動不審になっているし。小刻みにプルプルしててさながら小動物だな。可愛くないけど。


「実際どうにかしないといけないだろ?やっぱりアレを………」

 !おおっと、背中を向けて横になってるのにかかわらず物凄いプレッシャーを醸し出してきやがるな。何の達人だよ、全く。

 ダメだな解決策が見当たらない。



 煮るなり焼くなりどうにでもしてくれ!と投げやりになり始めた頃、王国の特殊機関から俺達へ尋問があると報告された。

 なんだよ特殊って?そんな所に知り合いも接点もないぞ?まあいいか、今のままじゃどうにもならないし藁にも縋る思いだ。後はもう、流れに全て任せよう。なんなら身の安全を保証してくれるのなら、あの石の情報も教えてもいいかな、とさえ思う。



 …イヤ…それだけは駄目だ。絶対に世界の果てまで追いかけてきて確実に地獄に引き摺り降ろされる。誇張ではなくコイツの執着は本気で恐ろしい。今まで間近で見てきたがコイツへの戦慄はいつまでたっても収まらない。むしろ日々強大になっている。

 俺の中の希望が一欠片も無くなった時、一人の男が対峙し尋問が始まった。


「自分はぁ〜、王国特殊研究機関〜、特別上位研究員のぉ〜マグと申しますぅ〜。以後〜お見知り置きをぉ〜。」

 なんだか良く分からないが何でも従いますよ、と思いながら顔を上げる。その男は俺の隣のデカい小動物を眺めていた。



「えっ、あっ、ええっ、あああっ!?えええ?ななななな!?」

 どうしたデカブツ。人間やめたか?言葉を喋れよ。


「何であなたがここにいるんですか!?」

 面識があるようだな、悪い方で。即ちコレがアレか?


「久し振りだねぇ〜ラックバード君。ずっと探してたんだよ〜。またこうして会えるなんて運命だねぇ〜。光栄だよ〜。」

 



間違いない。ストーカーだ。

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