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第17話 必須項目

 現在、王都はお祭り気分で溢れている。


 今年は色々な球技のトップを集めて優勝を競う祭典が催されているらしい。俺はスポーツなんてからっきしだし、見たりするのもあまり興味がない。でも街に活気があるのはいいな。意味無くワクワクしちゃうよ、俺。

 ラックバードも何年か前に大会に出場したことがあるということだ。何かしらの選手だったそうなのだが、選手として活動してたのは1年位らしい。

 その時も王都で優勝決定戦があり、先程の話に繋がっていくとのことだった。メンタルがやられた挙げ句に変質者に追われたので、逃げるように王都を離れたそうだ。


「ラックさんは体が大きくて目立つから、この街であんまり人目につかないようにしていて貰いたいな。数年たったと言っても選手として活躍してたなら、知ってる人と出会うこともあるんじゃないのか?」

 街中を行き交う人々の雑踏の中で、偶然出会ってしまわないとも言い切れない。


「当時はほとんど競技場から出ることは無かったですし、見た目のイメージも今とかなり違いますから大丈夫です!」

 どうだろう?結構ズボラな感じしかしないんだけど。

 

「髪の毛の長さが全然違うので気付かれることなどありませんよ。当時はほぼ坊主頭でしたから。今なんて伸ばしっぱなしで肩まで着いてしまってますし。」


 …そ こ だ け かよ!!


 信じた俺が馬鹿だった。このデカブツはそこでしか人を区別してないのか?

試しに一つ聞き返してみた。

 

「俺、街の外じゃ兜被ってるけど、街中で外して見失われたら迷子になっちゃうかな?」

 すぐ様、ラックバードが返してくる。

「はっはっはっ。そんな事無いじゃないですか!顔見れば一瞬で…………あっ……」

 おや、何かに気付いた?


「隅っこで身を隠してます。」

 よろしい、正解。


 一仕切り用事を済ませた後、河川敷で昼食を取ることにした。中々手頃な食べ物も充実している。目移りしてしまうが、あまり時間をかけたくないので適当に3人分見繕う。また今度ゆっくり選ぼう。それくらいの暇はできて欲しいよ。


 それにしても大きい街はいいな、楽しめるものが沢山溢れている。川沿いは丁寧に整地されており、その広場では子どもたちが楽しそうに遊んでいて平和そのものだ。競技大会もあるくらいなので、やはりボールを持って遊んでいる子が多い。


「すいませーん。」

 遠くから少年の声が聞こえる。俺達の足元に飛んできたボールの持ち主だろう。


「いいよー、投げ返すから受け取っくれるかーい。」

 いい兄ちゃんだよな、ラックバードは。人当たりもいいしな。きっと面倒見もいいことだろう。


「あぁ〜!力み過ぎた〜!ゴメンよ〜〜〜。」

 加減は覚えた方が良いな。デカブツ。


「スゲー………あんな遠くまで余裕で………

って、あの人………!?」

 

 …もしかして、ラックバードってその界隈では有名なんじゃないの?

よくよく考えれば、その身体能力で無名って事は無いよな。周りもほっとかないだろうし。ちょっとした事件も起こしてるし……


 これ以上目立つことを良しとせず、そそくさと宿屋に帰ることにした。






 〈ヤバイ!大事な事を忘れてた!!〉


 記憶の中ではまだ宿屋の部屋に入ってすぐのはずだった。だがもう外は暗くなってる。一息ついて居眠りしてしまった様だ。虚ろな頭で現状を洗い直してみる。


 ラックバードの過去話とか日用品の買い出しとかで、この広い王都で考えたり動いたり、と忙しい一日だった。お祭り騒ぎの中浮足立っていたのだろう。思った以上に楽しんでたらしい。


 「あー、疲れた。ラックさんも少し休めばいいんじゃない?」

「私は大丈夫ですよ。スタミナだけは人一倍なんです。」

 だけ、じゃないよ。体の大きさも身体能力も人一倍恵まれてるよ。頭はどうかは分からないけどな。


 備え付けのソファーに座り一息つく。この後もう少し用事を片付けなきゃいけない。だが、座り心地が良すぎたのか意識がぼんやりとしてきた。

 …気が付くとベッドに移動されていた。ラックバードにしてみりゃ俺なんて子どもみたいなものだろう。全然運ばれてるの気付かなかったよ。ああ、ふかふかする。いいや、このまま朝まで………って、


(ダメだ、ダメだ!まだあれが終わってない!あれをきっちりやっとかないと!凄く面倒だけど俺しかできないことだ。俺のために!)

 気合を入れて起き上がろうとする。が、思うように体が動かない。体力バカと同じ動きしてたもんな、今日。

 だからといって、それは言い訳にできない。なぜならこれからの旅にも関わってくる重要な事だからだ。


 自分の身体の不甲斐なさに悔しくなる。もしかしたら大丈夫かもしれない、俺の杞憂で終わる事だろう、と万に一つの確率を神様に祈る。そろそろ少しは報われてもいいんじゃないか?


 (いかん、気を落ち着かせよう。飲み物、飲み物…)

 ベッドの脇にあるランプを持ち、部屋の中を見渡す。目が慣れて周囲の把握ができるようになったのだが、



…誰もいない! まさか…既に………っ!





部屋からは金目の物が運び出されていた。






あのバカ二人に。

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