第16話 王都にて
「凄いな、流石だな王都は。これ程栄えているとは……じっくりと観光でもしたいものだな。」
おお、久し振りのキリッとディッドだ。
これだけ周囲に人が溢れていると常に気を張ってないといけないから大変だな。いい気味だ。
「そうですね。王都はスポーツとか格闘技とか娯楽が栄えているんですよ。上流階級の人達は暇を持て余しているようなので色々な遊びが発展したらしいです。」
ラックバードは結構世界の情勢に詳しい。今まで一人で旅をしていただけはある。俺なんてディッドに引っ張り回されてるせいで、現在地すら何処かも分かってない時が多々あるのにな。
「でもさ、ラックさんは球技とか得意なんじゃない?あんだけの球投げられたら何かしらのスター選手になれると思うけど……」
素直にラックバードの能力を褒めたのだが、余り浮かない顔になっていった。
「いえ、実はですね、昔はその様な夢を持っていたんです。でも、気付いて無いかも知れないですが、興奮すると自分を抑えきれない所があるんです…」
気付いてたな、俺。二匹の悪魔が雄叫び上げてるのとか見たことあるしな。
「それで過去に球技の試合中に本気の投球を相手に当ててしまい…‥」
本気って……ちょっと待って、背筋が凍る。あの鳥を爆砕したあの投球を人に………
ダメだ、想像してしまった。胃がムカムカする。
「相手は一応防具も付けていたおかげで命には問題なかったのですが、選手生命は…」
軽く振った話が何十倍も重くなって帰ってきた。返す言葉もなく黙っていると。
「それで個人技で記録を残したく旅に出たんです。その先でディッドさんがヒトガタを倒してるのを見かけて、興味を持って…‥
…それで、今こうして一緒にとても楽しい旅がさせて貰い、心から感謝しています!」
良かったな。俺が登場人物に入ってないけど、幸せそうでホント良かった。何か引っかかったけど。まあ、俺、何もしてなかったし。
「なんだ、世の中貧弱者ばかりなのか?力足らないものが同じ土俵にいるなんて不遇だな、ラックは。」
そうだな、不遇だなディッドは。目の前にいる俺は力足らないよな。土俵から下ろしてもらって構わないんだよな。
「でも、やはりチームで勝利を目指すことが大好きなんです!皆で力を合わせお互いに高みに上がる!そこに自分の存在意義を感じるんです!」
分かるよ、大事だな存在意義。俺も探してる、俺の存在意義。
「ここに来るまでは最高でした!私の力が最大限に発揮でき、尚且つディッドさんの能力を私の力が後押しをしてあんな事ができるなんて……」
思い出し武者震いやめてくれないか?ちょっと周りの人もどよめいてるぞ。
正面切って話を聞いてると、俺の心の声が煩わしくなってきた。そっと心を閉ざす。
「私に問題がなければ、この先ずっとついて行くつもりです!何か問題があれば遠慮なくぶつけてください!何が何でもついて行きますから!」
「ふふ、頼もしいな。ならラックは今現在心残りとかは無いのか?本格的に動き出す前に終わらせたいことがあるなら遠慮なく言ってくれ。」
キリッとディッドが俺にはかけない相手に気を遣う言葉を放った。…ほっとけ、開くな俺の心。
「ありがとうございます。特にそのようなことはないのですが、一つだけ……実は、以前異様に自分に執着し、つきまとう者がいまして、、、」
「ストーカーか?スポーツマンはモテそうだしな。」
俺は素直にそう思った。
「いえ、とても怪しい男で……逃げても逃げても追ってきて、研究対象にさせて欲しいと迫ってくるのです。そしてこの王都で絡まれてる時に、警備隊と問題を起こし拘束されていきました。
私はその隙にここから離れて逃げてきたのですが……もうかなり時間が経ったので流石に諦めたと思います。大丈夫だと思いますが、一応伝えておきます。」
呆れた顔をしたディッドが呟く。
「ふんっ、そんな者、ラックなら一捻りだろう。」
「お前らがやったら人殺しだからな。」
「……軟弱者め。」
俺を含めた弱者に怒りを向けるみたいに聞こえたんだけど?確かに俺は弱いけど、軟弱と言うほどでもないぞ。
俺のことじゃないと分かってるけど、なんか毎度引っ掛かるんだよな…………まったく……
俺の心の扉は速攻でこじ開けられていた。




