第10話 待ち受ける瞳
苦が無さすぎる。
余りにもあっさりと進んでく。
ディッドがラックバードを誘ったのも納得がいく。
この二人には今の所、隙が伺えない。
先見の明があったのか、はたまた怪物同士通ずるものがあるのか?
ここ暫くはテーブル状の平地を進んでいた。
そこに出てきた魔物は、デカい蛙や凶暴な獅子などがいた。
この閉鎖された大地には群れで生活する種族が多かった。
が、あの二人は必勝パターンを編み出したらしく、淀みなく頂上へ登っていく。
順調に進みすぎて俺の感情は冷めてしまってる。箇条書きの様な淡々とした感想しか思うことができなくなっていた。
そんな中での遭遇だった。
「ディッド、流石にヤバいんだけど……」
「う〜ん、アルはなるべく後ろで防御姿勢で警戒しててくれる?」
「私も近づき過ぎたら一発でやられてしまうかも知れません。」
世間一般では〈龍〉と呼ばれる魔物だった。
ここまで警戒しながら山を登ってきたのなら、魔物に気付かれることなく潜伏できただろう。
だが、今迄余りにも余裕があったので堂々と龍と対峙することになってしまった。
「二人で何とかすれば倒せるんじゃやない?」
ディッド、根拠は何なんだ?
「挑戦のする価値はありそうですね。」
おい、デカブツ。気まで大きくなってんじゃない。戦いに覚醒してんじゃないよ。
俺が怖くて小走りで岩陰に向かうと同時に空気が震える咆哮が轟いた。
「硬い!弾かれる!」
この龍は翼がない。蛇に足を付けた風体であり、鱗で全身覆われている。崩しようにも刃が通る場所が表に出ない。
刀が効かないのであれば、尚更石など意味が無さそうだった。
ディッドが果敢に攻め抜いているので俺達への龍の意識ははぐらかされている。
「効くかどうか分からないけど石を投げる準備はしといてくれ。
ディッドが噛みつかれそうになった時は口めがけて思いっ切りぶっ込んでみて欲しい!」
「!はいッ!分かりました!」
やることが決まったせいか、ラックバードの顔付きが集中状態になった。ディッドは激しく動きながら一箇所一箇所刃が入る場所を探し攻撃を続けている。
(噛みつかれる!)
俺がそう思った瞬間だった。ラックバードは大きく振りかぶって龍の顔面に狙いを定めた石を投じた。
流石に龍の顔は爆ぜることはなかった。
が、効いてはいる。脳震盪を起こしたであろうことは見た感じ確実だった。
一瞬龍の動きが止まったのだが、それと同時に悲痛な龍の叫びが聞こえた。
「多少は時間が稼げそうだ、そのまま龍の動きが止まるように当て続けてくれ!」
「はい!でも石の個数も限界あるんで、それまでになんとか‥…」
確かにこれ以上時間がかかったら絶望的だった。色々と考えを巡らすが、俺は特に何も能力を持ち合わせていない。不安で心臓が爆発しそうになっている……と。
「ふふふふふ。」
何か光明が見えたのだろうか?ディッドが微笑んでいる。俺にとっては不気味でしか無い。
?ん? 龍の体の一部分、拳大がピンク色になっている。
「はははっ♪」
…削いでる……鱗を一枚ずつ丁寧に削ぎ剥がしていく……
深い玉虫色の鎧が散った分、時間と共に広がってゆく桜の花。刀が通るであろう肉が表面に現れていく。
「フンッ、フンッ。」
一心不乱に頭部に命中させられる石の衝撃音。こちらも確実に相手の嫌がるところに攻撃を加える。
あぁ、何か一連のムーブに入ったらしい。
今なら逃げても追ってこないと思うのだけど……
「ラッキー!アレ頼む!」
龍にとっては命には関わらないのだろうが、生爪を剥がされるような物だろう、痛みは凄いっぽい。
「はい!行きますよ!」
相性が良すぎないか?この二人。多分考えてることも大体同じなのだろう。
ラックバードが何かを空高く投げ上げた。
連続して石を龍の上顎を目がけて__アンダースロー__でカチ上げた。
龍が天を仰いだ先に飛び上がったディッドが太陽を背にシルエットを描く。
その手には青柱が握られていた。




