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病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第二部【王都陰謀編】

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第四十五話:『魔女と影の騎士』【前編】

(……何?)


 わたしは即座に手を止め、感覚を研ぎ澄ませた。この工房には、三重の防御術式を張っている。一つ目は店の入り口。二つ目は地下へ続く階段の扉。そして三つ目は、この工房そのもの。いま反応したのは……二つ目。階段の扉だ。


(誰かが、扉を開けた?)


 でも、警報は鳴っていない。つまり、術式を『解除』したのではなく、『無効化』した。それも、わたしが気づくかどうかのギリギリの精度で。


(……カインが裏切った? いえ、あの子にそんな技術はない。それに、一つ目の警報が反応していない。つまり、店の入り口を通らずに……?)


 わたしの思考が駆け巡る中、カツン、と。石の階段を、誰かが一人、ゆっくりと降りてくる音がした。その足音は、恐ろしいほど静かで、計算されていた。一歩ごとに、石を踏む位置が微妙にずれている。音を最小限に抑えるための、暗殺者の歩き方だ。


(……嘘でしょ!?)


 わたしは、即座に攻撃魔法を手のひらに集束させた。火球(ファイヤーボール)では派手すぎる。氷の槍(アイススピア)。これなら、相手の動きを封じつつ、致命傷は避けられる。

 階段の影から、黒装束の人影が、ゆっくりと姿を現した。松明の明かりが、その蒼い瞳を、冷たく照らし出す。


「――やはり、あなたも気づいたようだな、ルナリア嬢」


 イザベル・アドラー。

 わたしは、目を見開いた。


「イザベル副団長様……!? でも、どうやって、ここに!?」


 この工房の場所は、誰にも教えていない。お父様にも、お姉様にも。なのに、なぜ彼女が。イザベルは、まるで最初からそこにいるのが分かっていたかのように、静かに立っていた。その右手には、いつでも抜けるように、短剣の柄が握られている。


「どうやって、と聞かれても困るな」


 イザベルは、淡々と答えた。


「あなたの『小鳥』が、この数日、港湾地区に異常なほど集中していた。そして、夜ごとに、あなたは学校の寮を『魔法で』抜け出し、王都のどこかへ消えていた」


「……尾行されていたのですか?」

「ええ。三日前から」


 彼女は、わたしの工房をゆっくりと見回した。


「あなたは優秀だけれど、私を撒くには、まだ経験が足りない。特に、地上からの尾行は警戒していても、『上』からの監視には無防備だった」


 わたしは、はっとした。

(……屋根伝い?いえ、それだけじゃない。もしかして、鳥? 本物の鳥を使って……?)


「それに」


 イザベルは、店の天井、つまりわたしたちの真上を指差した。

「この店の『防御術式』は優秀だけれど、あくまで『地上から侵入する者』を想定したもの。屋根の瓦を一枚だけ外し、隙間から煙のように入り込めば、警報は鳴らない」


 わたしは、ぐっと歯噛みした。

(……やられた)


「それと」


 イザベルは、階段の扉を振り返った。


「二つ目の防御術式。あれは『魔力の流れを感知して警報を鳴らす』タイプだ。だから、魔力を極限まで抑え、物理的な鍵開けの技術で扉を開ければ、反応は最小限に抑えられる」

「……イザベル副隊長様は、魔法を使わずに、あの術式錠を開けたの?」

「ええ。ある人から教わった技術。世の中にはそういうことが得意な人もいる」


 イザベルは、そこで初めて僅かに口の端を上げた。


「それに、ルナリア嬢。あなたは優秀すぎる。この王都で、『記憶の水晶』の術式を完全に解析できる魔法使いは、わたしの知る限りあなたしかいない」


 わたしは、作業台の上に置かれた水晶を見た。


「……最初から、分かっていたのね。わたしがあれを解析するために、どこか設備があるところにいくと」

「ええ。だから、あえて『依頼』という形で、あなたに渡した。そして、あなたが必ず、そのためにどこかにある秘密の工房に行くと分かっていた。とても魔法学校の設備で手に負えるものではないから」


 イザベルはその質問に答える代わりに小さく笑うと、一歩、工房の中へと足を踏み入れた。


 わたしは、負けを認めるしかなかった。完敗だ。だけどこの緊張感のある関係は悪くない。わたしは、手のひらに集束させていた攻撃魔法を、ゆっくりと解いた。


「……で、イザベル副団長様はわざわざこんな手の込んだ尾行をして、わたくしの秘密基地に押し入った理由はなんでしょう? まさか、ただのご訪問ではないでしょう?」


 わたしがそう聞くと、イザベルの表情が、一瞬だけ、厳しくなった。


「協力してほしい。魔法学校の失踪事件……あれには、タイドリアが絡んでいる」


 わたしは黙って頷いた。否定しても意味がない。


「私の調査では、失踪した三人は全員、『魔力の高い平民の子』。そして、港湾地区で姿を消している。……加えて、失踪現場に残された魔力の残滓(ざんし)は、タイドリアの術式と酷似している」

「それは、わたくしも同じ結論に達していますわ」


 わたしは作業台の上の『記憶の水晶』を手に取った。


「この水晶、副団長殿から解析を依頼されたものですけれど……表面的な情報だけではなく、もっと深いところに、別の情報が残っていました」


 イザベルの蒼い瞳が、鋭く光った。


「……何が記録されていた?」

お読みいただき、ありがとうございました。

「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


 次回は本日の23時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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