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病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第二部【王都陰謀編】

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第二部開幕! 第三十八話:王太子からの招待状と王家【前編】

 俺の王都での新しい日常が始まって、一月が経っていた。城の一角に用意してもらった、従者用の小さな部屋は、最初に思っていたより快適だった。山の暮らしに比べて、風や木、生き物たちの音がすっかり聞こえないのは寂しかったが、これは慣れるしかないだろうと思っている。

 食事についても徐々にではあるが、肉料理以外は他の人が食べている物も口に入れられるようになってきていた。それでも、

(自分がこんな生活をするとは思わなかった)

 と思わない日はなかった。


 その日の午後、いつものように稽古を終えて城の自室に戻ると、従者のヘッテが緊張した面持ちで待っていた。ヘッテは四十絡みの馬のような顔をした男で、家族とともにこの城で働いている。最初は従者など俺にとっては煩わしいだけで、必要がないと思ったが、実際に城での生活が始まると、俺には知らないことばかりで、結局、彼が俺と城と間を取り持ってくれる大事な人だということが分かった。

 ヘッテの方も、最初は俺が「近くに洞窟はあるか?」「蕎麦粉が欲しい」「一月ほど山に入りたい」などと言う度に右往左往していたが、しばらくすると慣れたようで、この城で暮らすために必要な決まりや、話し方、振る舞い方などを根気よく教えてくれた。

 正直に言えば、ここの自然と俺の自然には随分違いがあることに辟易することが多く、やっぱり出ていくことも考えた。ただその一方で、それは逃げているようにも思えた。何から逃げているのかは分からなかったが、師匠が『山を下りろ』と言ったことと関係している気がした。それともうひとつ、ここにいることで何かが近づいてきている予感があった。

 部屋の外に足音が近づき、コンコンコンと扉が叩かれた。その足音と叩き方で相手が分かった俺は声を掛ける。


「ヘッテさん、入ってください」

 ドアを開けて入ってきたヘッテは何かに驚いた様子で、その手には豪奢な封蝋で封をされた、一通の手紙が握られていた。

「ライル様。王太子殿下より、ご招待状が届きました」


 ヘッテから手紙を受け取り、その封を解くと、中には美しい文字で書かれた手紙があった。ただ俺には、山に入るまでの知識しかないので、貴族の書く独特の言い回しが分からなかったので、ヘッテに見てもらった。ところが彼も自信がないようだったので、奥さんに読んでもらうことになった。エイムという名の彼の奥さんは、貴族の側仕えをしていたことがあったため、彼らの文章を読めたのだ。

 その結果、手紙の内容は、王太子であるアレクシウスからの個人的な「お茶会」への招待状だということが分かった。


 ***


 翌日の午後。

 俺は、騎士団の訓練所で稽古をつけているギデオンとセレスを訪ねて、招待状のことを相談することにした。ギデオンは俺の後見人であったからだ。

「……王太子殿下自らのお茶会へのご招待、か」


 ギデオン殿は、招待状を手に、難しい顔で腕を組んだ。

「ライル殿。これは、我々だけで判断できることではない。陛下のお耳に入れた上の方が宜かろう。すぐにワシの方から正式な謁見を要請しておこう」

 どうやら俺が思っていたよりも大変なことらしい。

「俺にはよく分からないが、王太子殿下からのお茶会のお誘いに、ヴァレリウス陛下のご許可が必要なのですか?」

 俺の問いを聞いたギデオンはセレスと顔を合わせてから、ちょっと考えた後、俺の顔を見た。


「今後のためもあるのでライル殿も知っていた方が良いだろう。この招待状の送り主であるアレクシウス王太子は、ヴァレリウス陛下の実のお子ではない。陛下の叔父であるエルハンゼ様のご子息なのだ」

「……つまり、陛下にとって従兄弟ということですか?」

 ギデオン殿が頷いた。

「本来はな。だが産後の肥立が悪く母君がすぐに亡くなり、その2年後にエルハンゼ様もお亡くなりになられてな。そこでヴァレリウス陛下の父君で、当時アウレリア王国第五代国王であった、前アウグスブルグ陛下のお考えで、当時は王太子であったヴァレリウス陛下の養子としたのだ」

「なぜご自分の養子にしなかったのでしょう?」

「……実は元々、前アウグスブルグ陛下と弟のエルハンゼ様との間では王統の継承についてある【約束事】があったのだ」

「【約束事】ですか?」

「そう。前アウグスブルグ陛下と弟のエルハンゼ様は、ただの兄弟ではなく、同じ日に生まれた双子の兄弟であった。仲の良いご兄弟であったが、成長するとともに、どちらが次の王となるかについて様々な思惑を持つ者が現れ、ご本人たちの思いと関係なく緊張状態が生じたのです。他の五王家の中にもこの状況を自家にとって有利に運ぼうとする動きもあり混沌としましてな、お二人の父である前前王であるアルベリヒ様も、なかなか決められずに困ったそうです。どちらを選んでも争いになると……」


 普通の兄弟であれば兄が継ぐことに問題はないはずだが、双子ということでそれを承知できない者がいたようだ。

「その時、混乱を恐れた弟君であるエルハンゼ様は、自ら王位の継承権を正式に返上し、兄である前アウグスブルグ陛下への忠誠を誓ったのだ。これにより王位を巡る無用な争いを避けることができました。ただその時に、エルハンゼ様はひとつ、兄君と約束を取り交わした。それが先ほど口にした【約束事】です」


 俺は頷いて話を促した。

お読みいただき、ありがとうございました。

いよいよ第二部開幕です。


「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は本日の23時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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