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病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第一部【王都クーデター編】

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第三十五話:エピローグ【前篇】

 事件から一月が経った。


 王都は、クーデター未遂事件の後処理で、未だ落ち着かずにいた。

 ベルンシュタイン公爵家は、主犯である長男のゲルハルトは処刑となった。当主のウルリッヒは爵位剥奪の上、辺境の修道院へ終身幽閉、次男のダルハリウスは爵位継承権剥奪の上、国外追放となった。だが、三男のユリウスについては、御前試合の場で、事情を分からないなかでも王を守ろうとライルに立ち向かおうとしたことが評価された他、道場でライルを暴行を受けたと訴えた件についても、調査の結果、本人の知らないところで兄ゲルハルトにより為されていたことが分かった。この結果、「ユリウス本人に王家への反逆の意思なし」と見なされ、彼が家名を継ぐことでベルンシュタイン家は公爵家から侯爵家へと格下げの上で存続は許された。一部からは「断絶すべし」という意見も上がったが、影響の大きさや事後処理の煩雑さに加え、今後の各家の力関係が大幅に変わることへの警戒もあり、こうした処分に落ち着いた。それでもこれまで王家に次ぐ存在から、アイゼンハイド辺境伯家より下の最下位となり、領地もその四分一を王家直轄地とランカスター公爵家領に割譲され、家中から少なからずの浪人を出すことになった。


 ヴァレンシュタイン家もまた、ベルンシュタイン公爵家との関係が疑われたが、当主のカルドリッドは、一部の文官・武官の関与は認めたものの、自身への容疑を全て否定し、僅かでも疑いがある「不心得者」については、処刑を含む厳重な処罰をヴァレリウス王に求めた。また、自家出身の騎士団員で、帳簿に名前が記されていた者については、全員騎士の身分を取り上げた上で国外追放とし、自身についても、王家へ疑念を抱かせたことと、クーデターの現場での対応が遅かったことの責任を取り、家督を弟のアラリックに譲り、隠居することを宣言した。これにより一時は家格を下げ、ランカスター公爵家と入れ替えることも検討されたが、これを回避することができた。


 ヴァロワ家では調査の結果、ゲルハルトにそそのかされた第二婦人のロザムンドが、ロッテ襲撃に加担していたことが判明した。その結果、彼女は離縁され、実家へと送り返された上で、自裁じさいすることとなった。そのヴェロア家の主筋にあたるランカスター公爵家は、今回の騒動に当たり最後まで王を守った働きが高く評価され、先にも記したように、ベルンシュタイン家の領土の一部を割取(かっしゅ)された。


 王家もまた無事ではなかった。ヴァレリウス王の周辺にいたゲルハルトの息のかかっていたものは一掃され、王宮には粛清の嵐が吹いた。一方で、王自身も盟友と信じたゲルハルトに騙され、国を危うくした自らの責任を痛感していた。実際この騒動で国は甚大なダメージを負っていた。


 その反省の表れとして、王は一つの決断を下した。六王家だけでなく、国の忠臣たちから広く意見を聞くための、新たな「王政諮問会議」の設立である。

 その人選は王都を驚かせた。 まず、軍事の最高顧問として白羽の矢が立ったのは、騎士団の伝説と謳われるレオポルド元帥であった。マルディーニのような派閥争いを嫌い一線を退いていた老雄だったが、これはギデオン・アークライトの強い推薦による復帰だった。 内政と財政を司る文官のトップには、平民出身の切れ者、クレメンティウス財務卿。 貴族からは、王家派として最後まで戦ったランカスター公爵ボールドウィンと、その補佐役であるヴァロワ侯爵テオドールが名を連ねた他、地方からも若手でも優秀な文官・武官が集められた。


 これにより、アウレリア王国の政治的体制は、建国以来、大きく変わることになり、もはや、六王家であるというだけで、全てを意のままに動かせた時代は終わった。


 こうした変革が進む中、ある意味で壊滅的なダメージを負ったのは騎士団だった。

 元団長のマルディーニは未だ行方不明であり、一部上層部の腐敗ぶりが明らかになったことで、改めて貴族社会の根深い問題に直面することになった。本来は王家を守る最も重要な盾であり、戦いにおいては鉾となる騎士団が、世襲や家同士の調節により、公然の秘密にもなっていた、爵位売買や推薦の際の口利き料などで、莫大な金銭が動くことも改めて問題視されることになった。こうした不名誉な運動は、マルディーニが団長となった前後から加速していたことも明らかになった。彼はそうした経緯の多くを、異常とも言える記憶力でその頭に収めていたため、残された文章は事の大きさに比して少ないことに関係者は驚かされた。それでも彼がその立場を利用し、騎士団はもちろん、貴族社会や六王家についての情報にも精通していたことを辿るには十分であった。

 またこうした腐敗の背景には、ここ30年近く大規模な戦争がなく、戦場で武勲を競えないことがあったことは否めない。

 その結果、一部の競技化した個人技術が重要視された反面、騎士団にとって最も重要とされていた王家への忠誠と名譽がおざなりにされていた実態に、多くの関係者が衝撃を受けることになった。一方で中級以下の王立騎士アカデミー出身の若手の騎士たちには、こうした状況に問題意識を持っていた者も多く、これを機会に騎士団内にあった各王家による派閥の影響力の是正や、騎士団への入団の過程から訓練の方法なども全面的に見直されることになった。


 一方で団長の逃亡という不名誉な事実は公には秘されることとなり、対外的にはマルディーニはクーデターの鎮圧活動中に負傷、職務の遂行が不可能となり退官という扱いにすることが決まった。また空席となった騎士団の団長については一旦、ヴァレリウス王が就任することになった。とはいえ、国王自らが現場で指揮を振るうことは当然のことながら現実的ではなく、実際は新たに選任された副団長と、四人の副団長補佐が運営を担うことになった。四人の内二人は上級騎士から選ばれたが、残りの二人は、これまで中級以下で燻っていた騎士から選抜され、これを新たに上級騎士として任命されることになった。これによりアカデミー出身の平民であっても、上級騎士への門が開かれることとなった。


 そして彼らを率いる副団長に選ばれたのが、今回特に功績があったイザベルだった。彼女はクーデターの最終局面で長距離弓射でヴァレリウス王を守っただけではなく、ゲルハルトが計画していた、王都各地での騒乱に関する情報を、事前に衛兵と一部の騎士に伝えるとともに、自らもこの鎮圧に活躍したことも評価されたのだ。

 若い女性を頭上に頂くことになった年配の騎士たちからは不満の声も上がったが、長年に渡って、マルディーニの専横を黙認していたことと、王から発令された人事であること、そして彼女のその蒼い瞳を前に公に批判する者はおらず、新生騎士団はこの新体制のもとで動き始めることになった。


 ギデオンは今回の功績により、新たに騎士団特別教官を任じられた。そのため彼は自分の道場をコンラッドに任せ、自身は王都に留まり、新生騎士団と騎士を養成する王立アカデミーの指導にも関わることとなった。当初は王立諮問会議への参加を打診されたが、「自分の戦場は政治の場ではなく、あくまで訓練場にあります」とこれを固辞し、代わって先輩であるレオポルド元師を推薦した。レオポルド自身は「隠居を愉しんでいる老人に、面倒な仕事を押し付けおって」とぼやいたと言うが、後輩の意を汲んで就任している。


 ギデオンは今回のクーデター騒動で、闘い方が試合や決闘を前提とした個人戦に特化していることを痛感していた。そのため集団戦における連携や役割分担などを改めて考え直すとともに、古典と呼ばれる戦術書の再検討と、より現実的な3〜4人からなる戦闘集団の再編成や、魔法使いとの密な連携なども視野に入れた新たな戦術書の作成を目指して動いていた。

 またセレスも、世間を知る良い機会として、王都でギデオンの補佐をすることとなった。これにはライルが王都で生活することが決まったことが影響していることは言うまでもなく、本人は否定したがルナに散々からかわれることになる。

 一方のルナは、度重なる許可のない外泊や学外活動、魔道具の使用や不適切な改造など、本来であれば魔法学校からの除籍が当然であったところを、ヴァレリウス王からの特別な要請により、これを全て不問とされた。その代わり、卒業まで首席であることを誓わされたが、これについては、「いとも容易きことを選んでいただいた陛下のお優しさに、ただただ感じ入っております」とにっこり笑って受け入れた。もともと素行に問題があるものの、入学以来、常に首位であったことから全くプレッシャーになっていないようで、父ギデオンはその様子に頭を抱えていた。


 そしてライルは……。

お読みいただき、ありがとうございました。

「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は本日の23時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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