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病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第一部【王都クーデター編】

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第三十三話:再会と、癒やしの手【後編】

 ここで、ロッテと娘たちの会話にやや呆気にとられていたギデオン殿が話を戻した。

「それで、マルディーニの件はどうしたのだ!?」

「あ、そうでした。先程言いましたようにどうやら魔道具を使ってこの場から逃げ出したようです」

「後は追えるのか?」

 ルナは少し難しい顔をして、

「使っているのは恐らく姿を変える魔道具で、出来にもよりますが、マルディーニ氏の団長という立場を考えると、それなりの出来のものかと思いますので……」

「うーむ」

 とギデオン殿が唸る。ことが魔法となると手に負えないようだった。


 俺は振り向くとそこにいる人物に声を掛けた。

「イザベル隊長であれば追えるのではないですか?」

 その場にいる全員が驚いた視線の先に、背中に大振りの弓を背負ったイザベルがいた。先程の正確無比な弓射きゅうしゃは恐らくそれで射たものだろう。イザベルは黙って俺を見返すと、小さな声で「やはり駄目か」と呟いた。

「イザベル殿、いつからそこに!?」

 驚いた様子のギデオン殿が尋ねると、彼女は、

「驚かせてしまったようで申し訳ありません。今しがたこちらに到着したところです」

 と答えた。セレスがマルディーニのことを説明しようと口を開くと、彼女は心得ていると言った様子で、

「マルディーニのことは分かりました。私であれば問題なく追えるはずです」

 とこともなげに言う。次にルナの方に近づくと、

「これをお返しします。大変役に立ちました」

 とベルトに付いている物入れから、片眼鏡モノクルを渡した。

「弓と矢への強化魔法も素晴らしい効果でした」

 その言葉にルナはにっこり笑うと、

「それは良かったです。それと、どうぞ片眼鏡モノクルはそのままで」

「……良いのですか?」

「はい。魔力が切れたら仰ってください。弓矢も一緒にいつでも補充しますので。……その代わり、一つお願いがあるのですが」

 イザベルがやや警戒した様子で、

「お願い……とは? 内容によりますが」

 ルナはすすっと彼女に近づくと、耳元で何事か囁く。イザベルは驚いた様子でルナを見返すが、ややあって納得したようで、

「承知した」

 と言った。その様子をいぶかしんだセレスが、

「ルナ、一体何をイザベル隊長にお願いしたの?」

 と聞くが、ルナは。

「お姉様には秘密です」

 と笑って取り合わない。ギデオン殿もそんな様子を苦笑気味に見守っている。そこへ、

「イザベル隊長!」

 とロッテが駆け寄ると、彼女の前で居住まいを正し、右手を自分の胸に当てると軽く頭を下げ、

「助けていただいてありがとうございます。ヴァロア家の人間を代表して、お礼を申し上げます」

 と言った。その態度と言葉に少し驚いた様子の彼女だったが、優雅な物腰で片膝を着くと頭を下げ、

「もったいないお言葉です。シャルロット様がご無事で何よりです」

 と応えた。その時、ロッテの胸から白いものが飛び出した。

「モモ!お前もイザベル隊長にお礼が言いたいのですか?」

 モモは「きゅ〜」と鳴くとイザベルの肩に飛び乗った。その瞬間、頭を下げた状態で彼女の体が固まった。思わずギデオン殿の笑いを堪えて下を向くと、状況を察したルナが(あ〜)という感じで片手で口元を隠してにやにや笑う。セレスは父と妹の様子を怪訝な表情で見るが、何が起きているのかは分からず、答えを求めるように俺の顔を見てきた。俺はそれに気が付かないふりをした。

「モモはイザベル隊長が好きなのですね」

 と無邪気に言うロッテにイザベルは下を向いたまま、

「……それは大変うれしいです」とぎこちなく答える。モモはその言葉に気を良くしたのか、肩から彼女の頭の上に駆け登る。イザベルの体が小刻みに震えてきたところで、ルナが助け舟を出した。

「あら月のテンですか。珍しいですね」

 そう言って近づくと、モモはさっと彼女の肩に飛び移った。ルナが指先でモモの喉を撫でると、気持ち良さそうに目を細める。

 イザベルが立ち上がる時、一瞬、俺の方を恨みがましく見たような気がした。


(第三十三話 了)

お読みいただき、ありがとうございました。

「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は明日の11時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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