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病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第一部【王都クーデター編】

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第三十二話:王の帰還と、反逆者の凶行【後編】

 玉座には、先ほどまでの病に侵された男の姿はどこにもなかった。

 そこに立っていたのは、背筋をまっすぐに伸ばし、その目に力強い光を宿した、壮年のヴァレリウス王の姿だった。その姿と佇まいには、自ずと頭を垂れさせる力があった。


「そ、そんな馬鹿な……!」

 ゲルハルトが、ありえないものを見たかのように、顔を青ざめさせている。

 クーデターの最大の大義名分であった「病弱な王」が、目の前で、全快してしまったのだ。

 腹心と言えるマルディーニの姿を探すが、どこにも見えない。

 会場のあちらこちらで剣を捨てる音が聞こえる。同時に彼が雇った傭兵たちは素早く会場から抜け出すべく動き始めていた。


 しかし彼には既に引き返すという選択肢はなかった。くわっ目を剥き、彼はライルを指差すと叫んだ。


「ま、惑わされるな!妖術だ!陛下は、あの妖術師に操られている!そしてあの陛下は既に陛下にあらず!妖術に惑わされた妖魔の類である。逆賊の小僧もろともお打ち取りするのだ。それこそが王家を護る忠臣の道である!」

 そう言うと、その勢いに乗せられた周囲の部下たちと玉座へと殺到した。

 不意を突かれたこともあり、ギデオンも間に合わず、ヴァレリウス王とゲルハルトの間にはランカスターの近衛兵はもうほとんどど残っていなかった。その間隙を黒装束に身を包んだゲルハルトとその一団が、不吉な黒雲のように迫る。


 その時、黒装束の集団から「ぎゃあ!」「ぐあ!」といった悲鳴が上がった。どこからともなく弓矢が打ち込まれているのだ。

 それは遥か遠く、街の北側にある高い塔に設えられた鐘楼から飛んできたものだった。


 鐘楼に立つイザベルは、ルナから借りた遠見の魔力を籠めたモノクルに映る姿を元に、彼女用の強弓に、さらに強化魔法を加えた青白く輝く弓と、同じく強化魔法で薄く緑に輝く弓矢をつがえて、淡々と矢を射っていた。距離は凡そ2,000スワックから的中させるその腕前は、もはや神がかりであった。


 しかしゲルハルトも必死だ。部下を撃ち倒されながらも凶行を果たすべく前進を続ける。

 玉座まであと5スワックに迫った時、ゆらりと音もなく男が立ちはだかった。

 ライルはその男が先程階段ですれ違った、不思議な気を持つ男だとすぐに気がついた。


「……フォルカー!」

 男の名を呼んだのはヴァレリウス王だった。

「陛下に、指一本触れさせん」

 そう言うとゲルハルトが抜き打ちに連れた二人の部下を簡単に倒す。その様子に驚いたゲルハルトが叫ぶ。

「フォルカー!貴様、なぜここに!? 何年も前に貴様らは馘首(くび)にしてやったはずだ!」

「王を護るのは、我々(王の影)に与えられた聖なる契約によるものである。何人たりとも、これを邪魔することはできん」

「世迷い言を!」

 やけくそ気味にゲルハルトが突き出した長剣を、フォルカーは簡単に捌くと、剣を握る右腕を左脇に捉え、足をかけると簡単に地面にうつ伏せにした。


「殺せ!」

 そう叫ぶゲルハルトに向かいフォルカーは馬乗りの姿勢で、

「個人的には言われなくとも望みを叶えたやりたいが、お前には王の裁きが待っている」

 なおも何かを言い募ろうとするゲルハルトの顔にフォルカーは右の手のひらを当てると、

「眠れ」

 と言った。その途端、ゲルハルトの舌が止まった。


 王の権威の復活と首謀者の無力化。

 ゲルハルトのクーデターは完全に失敗に終わった。


(第三十二話 了)

お読みいただき、ありがとうございました。

「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は明日の11時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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