第二十五話:国家転覆(クーデター)計画と、変わる時代【後編】
「国家転覆。ベルンシュタイン公爵家は、ヴァレンシュタイン公爵家とアウレリウス王家の一部貴族と密かに結んで、多くの者が注目する場で、国王陛下や対立する貴族たちを一網打尽にするつもりですわ」
「何を大義に!?」
ギデオンが語気鋭くルナに問う。
「恐らくはヴァレリウス陛下の健康問題でしょう。ですがそんなことはどうでもいいのだと思います。手段とチャンスがあるからやる。それだけのことでしょう」
ルナがギデオンの視線を真っ向から受け止めてそう答える。
「馬鹿なことを言うな。大義なくして兵が立つか!」
「お父様は古いのです。そんな時代はもうとっくに終わりました。いまは戦場で武を競うだけが戦いという時代ではありません。いまの戦は、お父様の思う戦場の外で始まり終わっているのです」
「なんだと!」
ルナの言葉に思わず語気を荒げたギデオンに向かい、イザベルが静かに口を開く。
「ギデオン殿。私も騎士団の一人として残念ですが、いま起きていることについてはルナ殿の言が正しい」
ギデオンがイザベルを見て口を開きかけるが、そのまま悔しそうに閉じる。
「恐らく彼らはシャルロッテ様を誘拐たうえで救出して、ランカスター家に恩を売ってから事を起こす気だったのでしょう。しかし、それが失敗したことから本来の計画を早めて、ライル殿を襲撃事件の犯人として急遽『御前試合』を仕組んだのだと思われます」
ギデオンが驚いた顔でイザベルを見る。
「そうすることで、試験の影響で疑心暗鬼のランカスター家の動きが鈍く、また遠方のヨーク家とアイゼンハイド辺境伯家が不在で行われることを見越して、一気に王都での権力奪取を目論んでいるのでしょう」
ダン!とギデオンが机を叩く音が部屋に大きく響いた。伏せられた顔のその表情は見えない。
心配そうに父を見ているセレスには、ずっと大きく、仰ぎ見ていたその背中が、急に小さくなったように感じていた。
他の二人もいまは黙って彫像のように固まったギデオンを見つめている。
やがてギデオンが顔を上げると、イザベルに向かい、
「見苦しいところを見せた」
と頭を下げた。それからルナに向かい、
「成長したな」
と声を掛けた。ルナは珍しく照れたように笑った。
そして最後にセレスに向かう。目の前には自分が鍛えた愛娘が心配そうに立っていた。その姿はいつになくか細く脆く見えた。
ギデオンが何か言おうと口を開いた瞬間、セレスが抱きついた。ギデオンはそのまま口を閉じると、娘をしっかり抱きとめた。
ギデオンもセレスもそれぞれ、時代と、自分たちの守ってきたアークライト家が変わり始めるのを感じていた。
久しぶりに父に抱きしめられながら、セレスは、
(ライル様は変化の兆しなのかもしれない)
と思っていた。
(第二十五話 了)
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