第二十二話:眠りの魔法と、開かずの金庫【後編】
三人の間に、緊張が走る。
セレスとイザベルは、素早く剣の柄に手をかける。
扉の向こうから声がする。
「……おかしいな。鍵がかかっている。中の奴はどうしたんだ? どうする?」
「構うな、壊せ。会長の命令だ。カールスが消えたらしい」
「なんだそれ、どういうことだ?」
「俺も詳しくは分からんが、金庫を守れということだ」
扉の向こうから聞こえてきた声に、二人が顔を見合わせた。
「……もって、十秒」
ルナが囁くと同時に、扉全体が薄青い輝きに包まれた。彼女が、一時的に鍵を魔法で強化したのだ。
直後、ガン!と扉に重い衝撃が加えられる。
「さっきの窓へ!」
そう言いながらイザベルは、金庫から奪った帳簿を、素早く自分の外套の内側に隠し走り出す。
三人は、最初に侵入してきた隣の部屋の窓へと殺到する。
ガン!ガン!と、扉が破壊される音が背後から迫る。
「セレスティア殿、先に!」
イザベルに促され、セレスが窓枠に足をかける。振り返り一瞬迷ったが、声を掛ける。
「ルナ!」
「はい、お姉様」
セレスが夜の闇へと飛び出すのと同時に、ルナが短い詠唱を終えた。
「――羽のように、軽く」
ためらうことなく窓から飛び降りるイザベルにも、同じ魔法をかける。
最後に、ルナがひらりと身を躍らせた。
三人の体は、まるで羽毛のように、ふわりと宙を舞い、音もなく裏路地の石畳に着地した。
その直後、三人がいた執務室の扉が、凄まじい音を立てて蹴破られる音が響いた。
「……早くこの場を離れましょう。まだ終わっていません」
イザベルの言葉に、三人は現れた時と同様に、再び王都の闇の中へと姿を消した。
(第二十二話 了)
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