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病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第一部【王都クーデター編】

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第二十一話:剣士と騎士と魔女の、危険な潜入作戦【後編】

 夜の王都の商業地区は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

 そのなかを三人の女が、音もなくダリウス商会の建物の裏手にある路地へと滑り込む。

 事前にカールスから建物の内部については詳しく聞き出していた。目的の金庫がある執務室は、二階の奥。最短で辿り着ける侵入経路は、裏手の路地に面した執務室の隣の部屋の窓からだった。


「……待て」

 建物の影に身を潜め、イザベルが小さな声で制止した。 彼女の視線の先、目的の窓の真下にあたる路地を、一人の見張りがゆっくりと往復している。街の衛兵ではない。ダリウス商会の私兵だろう。

「……どうしますか?」

 セレスが、緊張に声を潜める。

「眠らせましょうか? 距離があるので少し時間はかかるけれど」

 ルナの魔法の提案に、イザベルは静かに首を振った。

「いえ、何があるか分かりません。魔力はできるだけ大事にしたほうがいいでしょう。……ここは、わたしが」

 イザベルはそう言うと自分たちから反対方向へ歩き出した見張りの男の後を追い、物陰から物陰へと身を潜ませて音もなく忍び寄る。その動きは、騎士というよりは、夜に紛れる獣その再びこちらへ向き直ろうとした瞬間、イザベルは素早く背後に回り込むと、右腕を男の首に巻きつけつつけ一瞬で意識を刈り取る。彼女は、崩れ落ちる男の体を静かに抱え止めると、路地の暗い場所へと引きずり込んだ。

「これでいいでしょう。行きますよ」

  涼しい顔で戻ってきたイザベルの姿に、セレスとルナは、ただ息を呑むしかなかった。


 予定通り目当ての窓の下まで辿り着く。

「……では、計画通りに」 イザベルの低い声に、ルナが頷く。

「まず、わたくしが行きます」

 心配そうに見るセレスに向かいて、ルナが軽く微笑む。

「大丈夫。魔法でちょちょっと魔法警報を破ってから窓を開けて、部屋の中に誰もいないのを確認して二人に知らせるだけ。簡単よ」

 ルナはそう言うと、ふわりと宙に浮き上がり「いってきま〜す」と二人に手を振ると、音もなく二階の窓へと近づいていった。


 彼女は窓の外で静止すると、指先で空中に複雑な文様を描く。すると、窓を覆っていた、目には見えない魔力の膜(警報魔法)が、一瞬揺らぎ、霧散した。

 次に、彼女は窓の鍵穴に、そっと指先を触れる。小さな銀色の火花が彼女の指から鍵穴へと飛ぶと、 ――カチリ、と、耳を澄まさなければ聞こえないほどの小さな音がした。解錠の魔法だ。


「鮮やかなものだ」

 イザベルが感心したように呟く。

 ルナは、室内を慎重に確認してから窓を開くと、音もなく部屋の中へと滑り込んだ。 下で待つイザベルとセレスに、緊張の時間が流れる。 数秒後、窓から顔を出したルナが、二人に小さく手招きをした。


「……よし」 イザベルは懐から鉤縄を取り出し、鉤を軽く回転させると、寸分の狂いもなく二階の窓枠の縁へと投げかけた。何度か綱を引いて確認すると、セレスに向かい「お先に」と声を掛け、音を出すことなくあっという間に窓まで登り、部屋の中に姿を消した。

 最後に残ったセレスが覚悟を決めてロープを掴んだ。その時、窓からルナがそっと手をかざし、「――羽のように、軽く」と呟きながら指先で術式を描く。次の瞬間、 ふわり、とセレスの体が軽くなる。彼女は驚きながらも、ほとんど腕力を使うことなく、静かにロープを登りきることができた。


 ルナは緊張気味に部屋に入ったセレスに向かってニッコリ笑うと、

「お姉様、重そうだったから、サービスです」

 と言った。

 思わず、

「あなたねぇ……」

 と言いかけたところにイザベルが「静かに」と声を掛ける。

 ルナは二人に向かって、

「大丈夫です。部屋全体に防音魔法を使っているから、こちらの声は隣の部屋には聞こえないわ」

 と言った。イザベルはルナを見る。

「あちらの声は?」

「ばっちり聞こえます」

 イザベルが隣の部屋へと続くドアに近づき耳を当てる。

「……本当だ、聞こえる」

「でしょ?」

 自慢げに答えるルナの様子にセレスの表情が曇る。(私だけ役に立ってないみたいじゃない)そんな感情が彼女の中に湧き上がっていた。


 イザベルは、扉にそっと耳を当てると、中に複数の人間の気配があることを察知した。彼女はしばらくすると扉からそっと耳を離した。

「中にいるのは3人。全部男だ。武器は恐らく長剣で魔法使いはいないようだが、いずれもそれなりに腕が立つようだ」

「音だけでそんなことが分かるんですか?」

「慣れれば大体のことは見当がつくものです」

 改めてセレスがイザベルを見直す。昨日から今日までの一連の行動を振り返ると、とても普通の騎士ではできないことを彼女はまるで当たり前のようにこなしている。(一体この人は何者なの?)そんなセレスの疑問を察したように、イザベルはついと視線を逸らす。


「で、どうするの?」

 ルナが相変わらず楽しそうにイザベルに聞く。

「恐らく下にも何人かいることを考えると、戦闘を避けたいところだが……」

 イザベルが難しそうな顔をしたのを見たルナがにこりと笑う。

「じゃあ、またまた私の出番かしら」


(第二十一話 了)

お読みいただき、ありがとうございました。

「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は明日の11時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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