第二十一話:剣士と騎士と魔女の、危険な潜入作戦【前編】
突然窓辺に現れた女を相手に、イザベルがレイピアを構えたままセレスに尋ねる。
「セレスティア殿! これはどういうことです?」
セレスが慌てて説明する。
「イザベル隊長、大変申し訳ありません!これは私の妹のルナです」
「妹?」
ここでルナが割って入る。
「そうなんです、イザベル隊長。私はセレスティアの妹のルナリアでございます。どうぞルナとお呼びください。いつも姉がお世話になっております。剣の腕前はともかく、それ以外は鈍いところがあるのでご迷惑をおかけしていませんでしょうか?」
「あ、あなた!何を言い出すの!?」
思わずカッとなったセレスが口を開いたところで、状況を察したイザベルが軽く頭を振りながら、『もう十分だ』という様子でレイピアを収めた。
セレスは、イザベルの前で姉妹喧嘩を見せてしまったことを恥じて、顔を赤らめて俯いた。
「……そ、それでルナ、さっきのは、どういう意味です?」
セレスが、かろうじて声を絞り出した。
「言葉通りの意味よ、お姉様」
そう言うとルナは唸り声を上げているカールスに向かい「あなたはちょっと寝てなさいね」と眠りの呪文を唱えると、途端に唸り声は収まった。ルナはおとなしくなったカールスを顎でしゃくった。
「この男が言う通り証拠の帳簿は、警備が厳重なダリウス商会の執務室の金庫の中。間違いなく魔術的な警報装置もかかっているはず。それを開けられるのは魔法使いのわたくしですわ」
イザベルが、厳しい目でルナを見据えた。
「……その前に、一つよろしいかな、ルナリア殿」
彼女の声は、先ほどよりもさらに低い。
「なんでございましょう?」
「なぜあなたは、我々の様子や、この宿のこの部屋にいることまで知っているのですか?」
イザベルの鋭い問いに、ルナは、楽しそうに金の瞳を細めた。
「簡単なことですわ、隊長様。わたくしの『小鳥』たちは、お喋りが大好きなんです。この街の至る所でいろいろなお喋りに耳を澄まし、沢山のことをわたくしに教えてくれるのです」
その答えに、イザベルは少し驚いた表情を浮かべた。目の前の少女が魔法の腕が立つだけではなく、使い魔を介した、独自の諜報網を持っていることが分かったからだ。しばしの間、ルナを見ていたイザベルだが、やがて静かに頷いた。
「……それで、本当にあなたにできるのですか? ベルンシュタイン公爵家と繋がりのある商会の警備です。生半可な魔法ではないはず」
「あら、疑り深いのね、隊長様」
ルナはくすくす笑う。
「わたくしを誰だとお思いですか? こう見えても、王立魔法学校では、学年主席を一度も譲ったことのない優等生ですのよ。……まあ、素行不良で、何度も退学寸前になってはいますけれど」
その言葉に、セレスは頭を抱えたくなった。しかし今、この絶望的な状況を打破できる可能性が、目の前のこの妹にしかないこともまた事実だった。
そんなセレスを見た後、ルナはイザベルを見ると挑むような目で、
「それとも、そのサイレンみたいな男を連れて侵入して、金庫を開けるおつもりですか?」
と言った。
イザベルはその蒼い瞳で、じっとルナを見つめたまま口を開いた。
「いいでしょう。私たちは見張りの兵士を担当します。ルナリア殿、あなたは魔術的な防御の解除を。……よろしいですね?」
「ええ、お任せてください。隊長様」
ルナはそう答えると振り返り、途方に暮れた様子のセレスに向かって、悪戯っぽく片目を瞑ってみせた。
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