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病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第一部【王都クーデター編】

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第十九話:路地裏の戦い。セレスの変化【後編】

 一方、セレスも片手に長剣を構え、もう一人の男に無言で迫る。相手は片手剣を体に引き付ける、防御的な構えを取っていた。

(……以前の私なら、速さと力で押し切ろうとしていた)


 セレスの頭は、不思議なほど冷静だった。

 彼女は、ライルの言葉を思い出していた。『構えを取ってもらうと、沢山のことが分かる』『意識の濃いところを避けて、薄いところへ』。


 目の前の兵士の気配は、防御に集中して固く閉じ籠もっている。自分からは攻撃せずに、相手の動きに対応して時間を稼ぐつもりだ。つまり、他の路地に仲間がいて、彼らが応援が来るのを待つつもりなのだ。

 セレスは、構えを見ただけでそんな風に考えている自分に驚いていた。以前の自分なら思いつかなかったことだ。(それなら早く倒さなければ)と思いながらも、不思議と焦りはなかった。


 あと一歩で相手の間合いに入る、というところで、自分の持っている剣を斜に構え(剣先を後方にする構え)、自分の体で相手からは見えないようにして、半歩踏み出した。それは攻撃のためではない。相手との『間』をずらすための半歩だった。

「!?」

 男が一瞬躊躇った。

 ほんの僅か手を伸ばせ斬れそうなところに迫った女は、右手に持った剣先を後ろに向け、左肩を前に無防備に突っ込んできているように見える。防御を固めるか、それとも打って出るか、彼の中で迷いが生じた。後者を選んだのは、体に染み付いた兵士としての訓練が作り上げた反射だろう。


 その反射こそ、セレスが望んだものだった。

 男が反射的に真っ直ぐ突き出してきた剣に対し、セレスは左足前の左半身から右足前の右半身へ、体を右反転させる。真っ直ぐ前に出たわけではない。右半身に変わる時に右足を相手の左脇へ踏み出すことで、男の突進する力を邪魔せず、自らの左側へと受け流していたのだ。 体が半回転する動きで振られた剣が、男の剣を横からシャリンと軽い音を出して打ち流す。彼女には相手の動きが不思議なくらいゆっくりに見えていた。逆に受けいなされ、前のめりになった体勢を立て直そうと男が焦る。 セレスは、いなし終わった剣をひらりと頭上で回転させると、剣の横面でがら空きになった男の後頭部を打った。 ドサリ、と音を立てて男が倒れる。


「お見事です」

 イザベルにそう声を掛けられた瞬間、セレスは時間の流れが戻ったように感じた。


(第十九話 了)

お読みいただき、ありがとうございました。

「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は明日の11時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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