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病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第一部【王都クーデター編】

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第十九話:路地裏の戦い。セレスの変化【前編】

 翌日。十分睡眠をとった二人は、目立つ行動を避けるために昼の間はほとんど部屋から出ず、酒場が開く夜を待って行動を開始した。この間、ギデオンからの連絡はなく心配もあったが、ここは信じて今できることをするしかなかった。


 夜になると、セレスとイザベルは昨日同じように再びフード付きの外套で姿を隠し、商業地区へと足を踏み入れていた。港湾地区の雑然とした雰囲気とは違い、石畳の道は掃き清められ、街灯が明るく夜道を照らしている。

 目的の『赤鶏(あかどり)の酒場』は、その一角にあった。昨夜のような荒くれ者の集まる酒場ではなく、裕福な商人たちが静かに酒を酌み交わす、比較的高級な店だ。

 そのため一度は入店を断られそうになったが、イザベルが素早く給仕長に金貨を握らせて店に入ることが出来た。二人は、店の隅にある目立たない席を選んで座った。


 しばらくするとイザベルがセレスに目配せをする。彼女の視線の先、店の奥まったテーブルで、一人の男が女性を含む数人の取り巻きを相手に上機嫌で酒を飲んでいた。中肉中背で、上等な服を着た、どこにでもいるような商人風の男。どうやらそれが、ダリウス商会の会計担当・カールスのようだった。

 それが分かったのは、昨夜の老人が言った通り、カールスは周囲でへつらう男を小馬鹿にし、女たちに威張り散らしていたからだ。なるほど、確かに嫌な奴だった。一時間ほど経っただろうか。カールスは取り巻きたちを帰すと、そのまま一人で酒を飲み続けていたが、やがて満足したのか、おぼつかない足取りで店を出た。

「……行きますよ」

 イザベルの囁きに、セレスは頷く。二人は少しだけ間を置いて店を出ると後を追った。


 カールスは、上機嫌に鼻歌などを歌いながら、商業地区の裏通りへと入っていく。人通りが、まばらになってきた。

(……そろそろか)

 イザベルが、セレスに軽く頷いてみせた、その時だった。

 カールスが進む先の路地の暗がりから、屈強な体つきの男たちが二人、ぬっと姿を現した。

 イザベルとセレスの位置からは見えなかったが、彼らが胸につけた紋章を見たカールスの顔から血の気が引き、酔いが一瞬で吹き飛んだ。


 男の一人が、カールスの腕を掴み、低い声で囁く。

「……閣下がお呼びだ。先日の件、しくじったそうだな。……大人しく来てもらおうか」

「ひっ……!ま、待ってくれ!あれは、猟犬どもがしくじったんだ。俺のせいじゃない……!」


 その会話から、男たちの狙いが口封じであることに気がついたのは、ほぼ二人同時だった。

 シャルロット誘拐の計画が失敗した今、ベルンシュタイン家にとって、裏の財布を管理する金庫番であるカールスは危険な存在だ。

 計画では連れ去る好機を待つ予定だったが、今、ここで動かなければ、唯一の手がかりが、永遠に闇に葬られる。


 イザベルは、隣にいるセレスに、短く、しかし鋼のような意志を込めて囁いた。

「……計画変更です。やりますよ」

 セレスは無言で頷くと、息を合わせたように二つの影が男たちに迫った。


「なっ!?」

 突然現れた人影に、男たちが剣を引き抜く。その様子を見たイザベルは、相手が訓練された兵士であることを確信していた。無言のまま右手でレイピアを引き抜くと、まず男と自分の間でうろたえるカールスを左手で自分の後ろに引き倒しながら、鋭い突きを入れる。

 イザベルのレイピアのしなる突きが、身構えようとした相手の長剣をかわすような軌道を描き、固い装甲の隙間を縫って左の脇の下から滑り込んだ。

「ぐあああっ!」

 激痛に胸を押さえて崩れ落ちた。

お読みいただき、ありがとうございました。

「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は本日の23時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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