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病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第一部【王都クーデター編】

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第十八話:眠り薬の夜と、師を想う稽古【後編】

「それは構わないのですが……」

 と答えながらセレスは困惑していた。

(騎士団の団長ともあろう人に、私がライル様の稽古を教えていいものだろうか?)

と思っていたのだ。セレスは困った顔で見返すと、蒼い瞳には真剣な光があった。

(この人は、強くなることに妥協しない人なんだ)

 それを悟ったセレスは、自分なりに精一杯伝える決心をした。


「……ライル様の稽古はどれもとても、その、……とても地味なものです。なかでも一番基本的なのがこれです」

 そう言うとセレスは部屋の真ん中で両手で胸の前に輪を作って立ち始めた。

「自分の前にある大木を抱えるようなイメージで、膝を軽く曲げて、お尻から頭までを真っ直ぐにして立つのです」

 イザベルも立ち上がりセレスに並ぶと、見よう見まねで同じような姿勢をとる。

「こうですか?」

「そんな感じです」

「……これはなんという稽古ですか?」

「……名前は無いそうです」

「そうですか……」

「はい……」


 5分ほど経った頃、イザベルが再び口を開いた。

「これを毎日やっているですか?」

「はい」

「ふむ」

 再びイザベルが口を閉じる。それほど広くない部屋の中央で、手を輪っかにした妙齢の女性が並んで立つという、奇妙な光景となった。どこかでトカゲが鳴いている声が聞こえた。


 セレスが立ったまま横目でそっとイザベルを見る。初めて立つはずなのに肩も落ちていて安定感がある。(流石は騎士団の隊長だ)と思った。肩までかかった亜麻色(あまいろ)の髪の毛が、部屋を照らすランプに輝いている。蒼色の瞳は半眼に閉じられ、高い鼻筋の下に少し厚みのある形の良い唇が軽く開いている。セレスは自然に(綺麗な人だな)と思った。


 騎士らしく鍛えられてはいるものの、全体にはすらっとした姿だ。しかし胸当てが外された胸は、服の上からでも、豊かでかたちの良く膨らんでいるのが見て取れる。(私より大きいなぁ)そう思ったところでセレスは慌てて視線を前に戻す。

(何を考えているの!?)そう思ったが、次々に雑念が浮かんでくるのを止められない。ライルの稽古の姿や、初めて会って活を入れられた時に間近にあった顔、少し自信なさげな笑顔などが次から次へと浮かぶ。そして、そんなことを考えているうちに、今こうしている間にもライルが何処かに閉じ込められて、酷い目に遭っている可能性を思い体が強張る。


 そんなセレスの横に立っていたイザベルが、20分したところで、ふと立つのを止めるとベットに向かう。

「……なんだか分からない稽古ですが、気持ちが休まるものですね。私も寝る前に少しでも稽古ができて良かった。感謝します」

 そう言うと、「薬が効いてきたので先に寝ます。セレスティア殿も疲れているのだからあまり遅くならないように」と言い残してベットに入った。セレスは黙って頷き、そのまま立ち続ける。暫くするとセレスの耳に、イザベルの静かな寝息が聞こえてきた。


 意地を張るようになんとかそのままさらに20分ほど頑張ったセレスだったが、結局気持ちの立て直しはできなかった。テーブルに置いたランプを消そうと腕を伸ばすと、強張った肩が軋んだ。先ほどもらった薬を水で流し込むと、すごすごとベットに入った。

 セレスはこれまで味わったことのない敗北感を感じていた。

 自分の心に負けたようだった。薬が効き始めるまで彼女の頭にあったのは(ライル様に合わせる顔がない)という思いを抱えていた。情けなくて泣きたくなったが、なんとかこれを堪えていると、溜まっていた疲労のせいか、薬のせいかは分からないが、泥のような深い眠りに入っていた。


(第十八話 了)

お読みいただき、ありがとうございました。

「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は明日の11時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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