第十七話:王都の裏通り【前編】
王立騎士団の本部を出た後、セレスとイザベルは、ギデオンが手配した王都の宿の一室にいた。
既に夜も更け始めている。
「……行きますよ、セレスティア殿」
部屋に戻るなり、イザベルは行動を開始した。彼女は馬車から運んでいた荷物の中から、飾り気のない、フードのついた濃茶の外套を二着、取り出した。
「これを。我々の身分は、これから向かう場所では邪魔になる」
セレスは、黙ってそれを受け取った。
「行く先は、王都の港湾地区です。荒くれ者が集まる場所ゆえ、決して一人では動かないこと。そして、私が話すまでは、むやみに口を開かないように。……よろしいですね?」
「……はい」
イザベルの、指揮官としての厳しい口調に、セレスは緊張した面持ちで頷いた。
二人は顔を隠すようにフードを深く被ると、宿の裏口から、夜の王都へと足を踏み出した。
貴族街の、街灯が照らす明るく清潔な大通りから、次第に狭く、暗い裏通りへと入っていく。建物の影が濃くなり、潮と、安酒と、得体の知れない何かが混じり合った匂いが鼻をついた。
やがて、イザベルが一軒の酒場の前で足を止めた。掲げられた看板には「冒険者ギルド」とあるが、その紋章は、騎士団が公認している大通りにある「表ギルド」のものとは異なっている。ここは、表沙汰にできない依頼を扱う、もう一つのギルドだ。
「……ここです。この奥に、信頼できる情報屋がいる、と聞いています」
「よくご存知ですね?」
セレスの素朴な疑問に、イザベルは、
「……人にはそれぞれ、いろいろな過去があるものですよ」
と言って微かに笑った。
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