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病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第一部【王都クーデター編】

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第十四話:別れ。仕組まれた罪と、囚人護送馬車【後編】

 俺たちの馬車が停まると、その混成部隊の中から、指揮官らしき壮年の騎士が前に進み出てきた。

 ギデオン殿とイザベル隊長が馬車から降りると、その騎士は右手の指先を伸ばし、手のひらを上にして、自らの心臓の下に当てて敬礼した。

「イザベル隊長、ご苦労。ギデオン師範もご苦労さまです」

 ギデオン殿とイザベル隊長も、同じ仕草で敬礼を返す。イザベルが口を開く。

「ゴードン隊長。……どうして、ここに?」


 ゴードンと呼ばれた隊長は、俺たちの馬車を一瞥すると、厳しい顔で言った。

「ベルンシュタイン公爵家より、騎士団へ緊急報告があった。『アークライト家に身を寄せるライル・アッシュフィールドという素性不明の男が、ヴァロワ公爵家に対する陰謀に関与している疑いが強い』、と。我々は、その身柄を確保すべく、急ぎ派遣されたのだ」


「……!?」

 イザベル隊長が息を呑む。ギデオン殿が厳しい声で抗議した。

「なんだと!それは事実とは異なる!ライル殿は、今まさに、襲撃されていたシャルロッテ様を救ったぞ! そもそもライル殿は虚偽の告発で王都に向かう最中で、この襲撃に加担することなど不可能だ!」

 イザベル隊長も「私がその様子を見ています」とギデオン殿も続く。


 しかし、ゴードン隊長は静かに首を振った。

「ギデオン師範、イザベル隊長、あなた方の証言は承知した。だが、六王家たるベルンシュタイン公爵家からの正式な申し立てだ。無視することはできん。それに護送中のその男が都合よく襲撃の現場に居合わせていること自体が疑わしい。シャルロッテ様を救ったと言うが、それ自体が仕組まれたものではないか」

「なにを馬鹿な! ライル殿は昨夜も宿でシャルロッテ様を襲ってきた者を倒しているのだぞ!」

 いきり立つギデオン殿をイザベル隊長が制する。

「昨日の襲撃者は10人近くいたと聞く。それをたった一人で撃退するなど、そもそも出来すぎている。実際、襲撃者がひとり残さず逃げていることからも、そもそもグルであったと考えるほうが現実的ではないかな。昨夜の夜の襲撃については私は知らんが、報告書によると、容疑者の男は数日前に山から下りてきてギデオン師範の道場に現れたとなっている。それ自体が計画のうちであったとも考えられる」

 イザベル隊長が黙ってゴードン隊長の話を聞いている。それはただ聞いているというより、何か話の背後にあるものに思いを巡らせているように見えた。

「ゴードン隊長」

「なんだ?」

「どうしてここへ?」

 その質問に、それまで一方的にまくし立てていたゴードン隊長が用心深く答えた。

「どういうことか?」

「シャルロッテ様襲撃について私が早馬が出したのが昨日夕方。その報告を受けて王都からここに来るには、どんなに早くても二日は掛かるはずです。しかしあなた方は既にここにいる。あまりに早すぎるのではないですか?」

 一瞬言葉に詰まったゴードン隊長だったが、それを糊塗するように大きな声を出した。

「ヴァロア公爵の娘が襲われた緊急事態だぞ! 通常の早馬などではなく、魔道具を使って知らされたのだ!お前が何を考えているのか知らんが、騎士団の一員であるのであれば黙って命令に従え!」

「……念のためですが、このご命令を出されたのは?」

「マルディーニ団長に決まっているだろう!」

 ゴードン隊長は、その名前を出すことで自分の絶対的な立場を思い出したようだ。

「団長のご命令だ。それでもまだなにか不服があるのか?」

 イゼベル隊長が彼を見る蒼い目が、すっと細くなり、周囲の温度が下がったような気がした。思わず気圧されたようにゴードン隊長が後退りする。やがて、彼女が視線を外すと、ほっとした顔をしたゴードン隊長が威厳を取り戻し、冷ややかに言い放つ。

「よって、国家への反逆及び陰謀の重要容疑者として、騎士団団長より、ライル・アッシュフィールドへの拘束令状が出ている」


「馬鹿な!」

 ギデオン殿が、怒りに声を震わせた。「全てはベルンシュタインの讒言にすぎん!」

 だが、ゴードン隊長は揺るがない。

「これは決定事項だ。イザベル隊長。騎士団団長のマルディーニ様ご命令書がここにある。分かるな?」


 勝ち誇ったようにゴードン隊長が突きつけた羊皮紙の印璽を見て、イザベル隊長の唇が固く結ばれた。騎士団団長の命令は、絶対だった。


 俺は、抵抗しなかった。俺が抵抗すれば、この人たちに、さらなる迷惑がかかる。

 馬車を降りると、駆け寄ってきた騎士に静かに差し出し両手に、冷たい枷がはめる。

 足首にも枷をはめようとした騎士に、イザベル隊長が声を掛けた。

「いや、それは要らん」

 声を掛けられた騎士は、ゴードン隊長の方を見る。彼はチラッとイザベル隊長を見た後、仕方がないという表情で小さく騎士に頷いてみせた。騎士は少し不思議そうな表示で手に持った足枷をそのまま持ち帰った。


「ライル様!いやっ!いやです!」

 ロッテが、俺にしがみついて泣き叫ぶ。だが、彼女はヴァロワ家の騎士たちに、優しく、しかし有無を言わせぬ力で引きはがされ、別の馬車へと連れていかれた。

 セレスは呆然とした様子で立ちすくんでいた。


 俺は、家畜を運ぶような、窓もない鉄格子のはまった囚人護送用の馬車に、乱暴に放り込まれた。

 最後に見たのは、ギデオン殿の無念そうな顔と、イザベル隊長の悔しげな顔。

 そして、我に返り騎士たちに押さえつけられながらも、必死に俺の名前を呼び続ける、セレスの姿だった。


(第十四話 了)

お読みいただき、ありがとうございました。

「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は明日の11時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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