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病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第一部【王都クーデター編】

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第十三話:眠る少女の側で、音もなく暗殺者は消える【後編】

窓が、そろりと開く。

月は再び雲に隠れた暗い部屋に、黒装束のひと際濃い影が、音もなく部屋に滑り込もうとしていた。一人、そしてもう一人、窓の外に控えている気配があった。

侵入者の手には、闇に溶け込むように黒い刀身の短剣が握られている。その殺意の『線』が、一直線に、眠るロッテのベッドへと向かっていた。


(まずい……!)

ソファにいたセレスが、剣を抜こうと身を乗り出す気配がしたからだ。

俺は大変な一日を乗り越えて折角よく寝ているロッテを起こして、これ以上怖い目に遭わせたくなかった。

俺は彼女に(動かないで)というゼスチャーを送ると、低い姿勢のまま侵入者に近づく。


先に入った侵入者が、入ってきた窓からロッテのベッドへと一歩、踏み出した。

その瞬間、床を滑るように距離を詰め、男の背後へと回り込むと、両腕を首に絡めて絞め落とす。落ちた相手が自分に寄りかかるようにしながら、持っているナイフを落とさないように握った右手を捉え、ゆっくり床に寝かせる。

続いて入ってきた侵入者も同じ様に眠らせ、先に寝かせた男の横に並べた。こちらは入ってきたところを狙って仕留めたので簡単だった。


部屋の中に小さくロッテの寝息が微かに聞こえる。

どうやら起こさずに済んだようだった。


俺は剣を握ってソファに座っているセレスに近づき、自分の顔を彼女の耳に寄せた。

「すみません」

そう言うと彼女は初めてそこで俺が近くにいたことに気がついたような顔をでビクリとした。どうやらひどく驚いているようだ。

「あっ、……はい」

俺はロッテが起きないようにさらに彼女の耳に顔を近づけると、できるだけ小さな声で囁いた。

「ロッテちゃんが起きないように、この二人を静かに運び出すのを手伝ってくれますか?」


***


セレスは、動けなかった。

その手は、汗ばんだ愛用の剣の柄に、まるで縫い付けられたかのように固まっていた。

室内はあまりに暗く、ライルの動きはあまりに早く、静かだった。

窓から滑り込んできたはずの二つの影はかなりの手練だったはずだ。しかし、気づけばライルは、襲撃者に一声も上げることすらさせず、子供を寝かしつけるかのように、静かに床に横たえていた。


それは剣技ではなく、武術ですらない。もっと、別の……。音もなく一方的に獲物を制圧する、残酷な夜の捕食者。伝説に聞く夜の森を彷徨う亡霊のようだった。

そんな存在が、ついさっきまで、自分のすぐ側で穏やかな寝息を立てていたのだ。

だから耳元で不意に感じた彼の体温と、「すみません」という囁き声に、彼女は悲鳴を上げそうなほど飛び上がった。

ようやく目の自由を取り戻したセレスは、自分の顔のすぐ近くにあるライルの顔を認めた。その表情はいつもの通り穏やかの中に、ちょっと困ったような色合いが混じっていた。

「……え……あ、はい……」


なんとか声帯の機能を取り戻し、辛うじて言葉らしいものを発した。

その一方で彼女の頭には、ライルと出会ってから何百回となく繰り返されてきた問いが、それまで以上に強く浮かんでいた。

(あなたは一体、何者なの?)


ライル様がそんな私の問いに答えるわけはなく、すまなそうに小さな声で、

「ロッテちゃんが起きないように、この二人を静かに運び出すのを手伝ってくれますか?」

と言った。


(第十三話 了)

お読みいただき、ありがとうございました。

「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は明日の11時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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