表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第一部【王都クーデター編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/128

第十三話:眠る少女の側で、音もなく暗殺者は消える【前編】

(……眠れない)


 理由は、分かっていた。

 隣のベッドで眠るロッテの穏やかな寝息に混じって、すぐそこのベッドから聞こえてくる、もう一つの静かで、穏やかな寝息が、やけに耳につくからだ。

 ライル・アッシュフィールド。この数日で、私の常識を何度も覆した、謎の師範代。

 鬼神のような強さと優しさが、彼の中では当たり前のように同居している。考えるうちに知らず知らず彼女の思考は、普段とは違う軌跡を描き始めていた。


(ライル様はわたくしのことは、どう思っているのだろう。「剣のことしか頭にない、可愛げのない女」だと、そう思われているのかしら……。稽古では褒められることもあるけど、自分ではまだ全然分からない。本当は呆れられていなければ良いのだけれど……)


 いつか、必ず。いつか、彼の言う「感覚」を、少しでも掴んでみせる。そう決意したところで、またライルの静かな寝息が耳に届く。

(明日も早い。寝なければ)と思い目を瞑るが、自分の鼓動がやけにうるさく眠れない。

 セレスは、暗闇の中で一人、顔が熱くなるのを感じていた。


 彼女の、そんなあてどなく彷徨っていた思考が、ふとした物音で断ち切られたのは、その時だった。


 チリ、と窓の外で、何かがガラスを引っ掻くような、ごく微かな音。

 そして、それまで鳴いていた夜虫の声が、ぴたりと止んだ。


(……!)


 瞬間、セレスの頬に集まっていた熱が、すっと引いていく。柔らかく、戸惑いに満ちていた心の表面が、一瞬にして凍りつき、研ぎ澄まされた刃のような感覚だけが残った。それは、子どもの頃から剣と共に生きてきた彼女の、魂に刻み込まれた本能だった。

 彼女は音もなくソファから身を起こし、すぐそばに置いた愛用の剣へと手を伸ばす。窓の外の静寂の中に潜む、明らかな「殺気」。


(ライル様は!?)

 そう思って視点を転じた先には、先程まで静かな寝息を立てていたはずのライルが、音もなくベッドから抜け出し、低い姿勢で窓へと向かっている姿が、雲の切れ間からわずかに射した月あかりに浮かび上がった。

 彼の目は、闇の中で、まっすぐに窓の一点を捉えている。

 そのままセレスを見ることもせず、静かに人差し指を口元に当て、「静かに」と、無言の合図を送ってきた。


 カチリ、と。

 窓の鍵が、外から外される音が響いた。

お読みいただき、ありがとうございました。

「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は本日の23時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ