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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】元病弱の俺が見つけた世界の理 ~無名勇者の一振りが世界を慄わす。魔法大陸群像劇~  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第三部【深淵の盟約・北伐奪還編】

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第百十話:アルドス・レイトンの館【後編】

「隣が姪御さんだね。シャディーナさん、だったかな? 君にそんな大きな姪御さんがいるとは知らなかったよ」

「はい、地方に嫁いだ年の離れた姉の娘です」

「そうだったのか」


 アルドスは目を瞑ったまま、横に座るルナリア嬢の方を見た。


「初めまして、シャディーナ嬢。アルドス・レイトンです」

「こちらこそ初めまして。タイドリア随一の魔術師であり、学会の長である高名な方にお目にかかる機会をいただき、誠に感謝しております」


 ルナリア嬢は軽く目を伏せたまま、重ねた両手を胸に押し当て礼をした。公式な場ではないが、アルドスの立場を考えれば、この場に最もあった対応だった。


「実に美しい方だ。声だけで分かるよ」

「ありがとうございます。お声だけでお分かりなるのですか?」

「ええ、もちろん。私は生まれた時から目が見えませんが、その代わり、見えるものがたくさんあるのです。あなたは間違いなくお美しい。しかもそれだけじゃない」


 ヒヤリとしたものが走る。ちらっとルナリア嬢を見るが、薄いベールの下で、彼女は変わらず微笑んでいた。


「あら、なにがお分かりになっるのかしら?」


 アルドスがちょっと驚いた顔で私を見た。


「おいおいエリオット。困るな、私は焦らされるのが苦手なんだ。早く始めてくれないか?」


 横に座るルナリア嬢の体が僅かに固くなる。避けられないのは承知していたが、もう少し彼女が心の準備をする時間が欲しかった。


「ルチルはこう見えて、こうした場所に来るのは初めてなんだよ」

「なんだ、そうなのか! じゃあ、緊張を解く良いものを用意しよう。ケビ、あれを頼むよ」


 彼はそう言うと、側に控えた男に合図をした。すぐに目の前のテーブルにグラスが三つ並んだ。


「どうか許して欲しい、折角のお客様に飲み物も出さずに。これは私が調合した特別なものでね。どんな緊張もすぐに解ける、それこそ魔法の飲み物なんだよ」


 よく冷えたグラスには金色のに輝く液体が入っていた。少なくとも私は見たことがないものだ。中身は死ぬような毒ではないだろうが、もちろん怪しい。素早く目を走らせて、グラスに何か目印がないかを確認する。どれも同じ形、同じ色だ。ここであまり怪しむと却って事態が面倒になる。かといって、彼女におかしなものを飲ませたくはなかった。ふと、ラターナとイザベルの顔が浮かんだ。

 まず自分から動こうと、グラスに手を伸ばしたところに、隣のルナリア嬢が動く気配があった。


「叔父様、わたくしは大丈夫ですわ。すぐにでもできます」


 間髪を入れず、


「それは嬉しい!」


 と応じるアルドスの声が聞こえた。


「では、お目汚しを」


 ルナリア嬢はスッと立ち上がると、優雅に一礼して舞台へと向かった。私はその姿をグラスに片手を伸ばした不恰好な姿で見送っていた。


 ***


 舞台に近づくと、さっき私たちを案内した男が、すぐに寄って来た。


「その輪の中にお入りください」


 そう言って軽く私に手を差し出した。彼の足元を見ると、そこには青白く輝く魔法陣が床に書かれていた。中央には小さな魔石が埋め込まれている。


(なんとまあ、贅沢な使い方)


 私はそう思いながら軽く彼の手を取り、魔法陣に踏み入れた。

 スッと体が浮き、舞台の高さで止まる。魔法を使った自動昇降機だ。原理は分かるし、お城や学校の一部にはあるものだが、ただ舞台に登るために使うようなものではなかった。少なくとも我が国、アウレリアでは。


(まあ、私なら飛べるしね)


と思った。

 まだ舞台を照らす魔法石は輝いていなかったが、さっきの二人組が再びそこにいた。薄暗闇の中で楽器を構えた彼らが、私を探るように見ているのが分かった。

 振り返ると客席が見えた。

 入ってきた時よりもずっと大きく感じた。舞台を中心に扇状に客席が広がり、奥に行くに従って高くなっている。客席はそれぞれ丸テーブルを四、五人で囲むようになっていて、五十人以上はいそうだ。テーブルで輝く魔石がそこにいる多種多様な人間を妖しく映し出している。ほとんどが女性連れのようだ。


 パッと魔光石の鋭い光が私を照らした。

 一瞬目が眩んで体が揺れる。なにしろ今日は人生で一番高いヒールを履いているのだ。できるだけさりげなく体勢を立て直すと、最前列に座る笑顔のエリオットとアルドスが見えた。エリオットの固い笑顔と対照的に、アルドスは心底楽しそうにこちらを見て笑っていた。カチンときたが顔には出さなかった。

 アルドスは立ち上がると後ろの観客を振り返った。


「それでは皆さん、今宵のゲストをご紹介しましょう。我が良き友、エリオット・ヴェスパー!」


 そう言うと彼は横のエリオットを見て、小さな声で、


「これって本当に君の本名なのかい?」


 と囁くと、再び観客を見渡し続けた。


「の美しき姪御、ルチル・シャディーナ嬢です! なんと今宵が記念すべき初舞台とのことで。どうぞ暖かい拍手を!」


 うわっと拍手が全身を包む。魔法学校の行事で浴びるのとは全く違う、明確にこちらを品定めするようなその感触に、ゾワっと全身の毛が逆立つ気がした。また体が揺れた。ただ今度はふわっと目が霞み、膝から力が抜けそうになった。(いけない!)と思った瞬間、ガクンと視界が揺れた。そのショックのせいか、嫌がる私に、困りながらも踊りを教えてくれたラターナの声が蘇った。


(ルナちゃん。舞台に上がったら、自分が一番大事な人のことを想って、その人のために踊るのよ)


 思わず左腕に着けている銀のブレスレットを見る。

 ラターナに教えられたように、息を大きく一つ吸い、ゆっくり吐く。

 目を瞑り、静かに両手を頭上で合わせる。そこで強く両手首につけた飾りを強く鳴らす。


 シャン!


 豪奢なその一音で、まばらに残っていた拍手の音が消えた。

 そのままゆっくり、両手首を軽く揺らしながら胸の前へと下す。


 シャララララ……


 柔らかな鈴の音が会場の隅々まで響き渡るのが感じられた。この部屋がよく考えられて作られていることが分かる。パッと腕を強く左右に開く。再び、


 シャン!


 と強い音が響く。ザブルが低音でリズムを刻み始める。私はそれに合わせて腕の鈴を振り鳴らす。


(まだだ)


 と思う。それが何かは分からないけれど、まだなのだ。

 ザブルのリズムが次第に複雑にうねるように走り始める。グッと胸が圧迫されるような感じがする。それは不快じゃない。私の中で暴れ出そうとしているなにかを感じてむしろワクワクする。自然に強く、弱く、複雑に両手の飾りを鳴らしていることに気がつく。ぐんぐんリズムが早くなる。


(あっ!)


 と体が動き出すのと、ケマンチェの胸を切り裂くような高音が響くのは同時だった。複数の魔光石が舞台を照らし出す中、私は激しく踊っていた。何も考える必要はなかった。ラティーナが教えてくれた数種類のステップと手の動きを自然に組み合わせるだけで、永遠に踊れるような気がした。

 ザブルの低音に体の芯が痺れ、ケマンチェの高音に全身が悦ぶのを感じる。気がつくと全身につけられた飾りの魔石が輝いていた。

 スッとそれに合わせて舞台の光が抑えられる。私の動きに沿って光る軌跡が幾条にも交差し、舞い輝いている。ただ音に乗って体を動かすことがこれほど楽しいとは思わなかった。全身の細胞が沸き立つようだ。

 私は体のままに、夢中で踊り続けた。あれほど嫌だったのが嘘のように、体をくねらせ、爪の先からつま先まで、音が奔るままに踊り続ける。客席から歓声とリズムに合わせて足を踏み鳴らす音が聞こえた。その凄い熱気に少し驚く。だけど体は止まらない。自分の格好はもちろん、ここがどこなのか、誰が見ているかなんか、もう気にならなかった。


 どの位踊ったのだろう。気がつくと、会場全体が輝いていた。それぞれのテーブルに置かれた魔光石がそれまでになく強く光っているのだ。それだけではない、観客席の女性がつけているアクセサリーの魔石が輝き、驚いた顔でそれを見つめていた。

 さらに光が強くなる。吊り下げられた魔光石はもちろん、天井自体が輝き始めた。

 音も凄いことになっていた。さっきの演奏の時の倍は軽く超えている。ザブルの低音でテーブルが揺れ、ケマンチェの高音でピシリっと、グラスにヒビが入った。


 思わずエリオットを見ると、私に向かってなにか叫んでいるのが分かったが、全く聞こえない。隣のアルドスは目を瞑ったまま、相変わらず楽しそうにこちらを見ていた。


(なんとかしなきゃ!)


 と思うのだけど、もう私自身、自分を止めることができなかった。こんなことは魔法を覚えたての頃以来だった。()()()()()()()()()()()()。その時、私は気がついた。自分の魔法が漏れていることに。

 体を弾ませる度に、手の一振り一振りに、ステップの一つ一つに、瞳の色と同じ、金色の自分の魔力が輝いていた。

 なんとか止めようと後ろの二人を振り向いたけれど、無駄だった。

 ザブルの奏者は狂ったように両手で太鼓を叩いていた。手の平、指、手の甲、肘、ありとあらゆる方法で夢中で太鼓を打ち鳴らしている。その動きはあまりに早くて、何をしているのか分からないほどだった。ケマンチェも同じだった。高速で弓を動かしながら、片手で三本の弦を目まぐるしく操っている。恍惚の表情で一心不乱に弾く彼女の姿は、赤いドレスに白い肌が映えて壮絶な光景だった。

 私の方も人のことを言えなかった。(止めなければ!)と思っているのは体のほんの一部で、私の体のほとんどはこのまま踊り続けることを望んでいたのだ。


 シャン!


 一際大きなその音で会場全体がミシリといった。パラパラと天井から漆喰の破片が輝きながら落ちてくる。

 そして、それは始まった時と同じようにやって来た。

 ザブルのうねるようなリズムが再び速度を増す。それに合わせてケマンチェの高音が複雑に折り重なる。私の中にはこれまでにない高まりが迫り上がってきていた。胸が苦しい。


(吐き出したい!)


 そう思った瞬間、ザブルとケマンチェは最高潮の高まりへと至った。

 一瞬の静寂。


「――ァォアォァァァァァァァァァァァァァォアアアアァ!」


 私の喉から信じられないような絶叫が溢れていた。

 会場のあちこちでグラスが砕ける音がして、吊るされた魔光石が目も開けていられないほど眩しく輝き、天井にビシリというヒビが走る音がした。あまりの衝撃に恐怖を感じた観客が、悲鳴を上げ、扉に飛びつき、我先に逃げていくのをぼんやり感じる。


「――アアァアァアァアァァァァッ……」


 最後の声を絞り出した時、部屋から全ての光と音が消えた。

 暗闇の中で、最初に聞こえたのは、


 パチパチパチ


 という誰かの拍手の音だった。次に、パッと小さな光がその人物を照らした。

 アルドス・レイトンだった。


「素晴らしい! 本当に素晴らしい! ようこそ我が館に。ルナリア・アークライト嬢」


 彼は目を瞑ったまま、私を真っ直ぐ見てそう言った。


(第百十話 了)

こんにちは、佐藤峰樹です。

今週から朝7時台から夜21時台へのお引越ししました。

またタイトルも、

『病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい』

から

『元病弱の俺が見つけた世界の理』 ~無名勇者の一振りが世界を慄わす。魔法大陸群像劇~

に改題しました。こちらの理由は以下に書きましたので、よろしければお読みください。

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2963732/blogkey/3593154/


本日がお初の方もいらっしゃるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。


ルナのダンスシーンは思いがけずスラスラと書けました。やっぱりルナリア嬢は凄いです(笑)。


面白いと思っていただけましたら、ぜひブックマークに加えていただければ嬉しいです。評価も大歓迎です。

すでに文字数が58万文字を超える長編となっています。気長にお付き合いいただければ幸いです。

よろしくお願いいたします。


一話からお読みになりたい方は、こちらとなっています。

https://ncode.syosetu.com/n4674ld/


自分でも読み返しても、〝思えば遠くに来たものだ〟という感想です。


次回は明日の21時前後の更新を予定しております。またお会いできることを楽しみにしています。


https://x.com/minegi_satou

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