表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第一部【王都クーデター編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/127

第十二話:宿場町の一夜と、三人部屋【前編】

 日が落ちる頃、俺たちの隊列は街道沿いの大きな宿場町に到着した。

 宿に着くと、イザベル隊長はまず部下の一人を呼び寄せ、蝋で封をした命令書を渡し、

「これを、騎士団本部の副団長へ。ヴァロワ公爵家のご令嬢、シャルロッテ様を道中で保護したこと、護衛は壊滅、我々が護送任務を引き継いだことを報告しろ。そして護衛の援軍を至急求むと伝えろ。良いな!馬を乗り潰しても構わん」

 と命じた。騎士は力強く頷くと、馬を走らせ、王都へと続く闇の中へと消えていった。

 その様子を、俺はただ黙って見ていた。物事が、俺の知らない場所で、とてつもない速さで動いている。


 その後、俺たちは宿の、奥まった場所にある個室へと通された。他の客たちからは隔離された、静かな部屋だ。イザベル隊長は、その部屋の扉の外に部下の騎士の一人を立たせ、見張りを命じた。

 運ばれてきたのは、肉の煮込みやパンといった食事だった。もちろん、そば粉のようなものはあるはずもない。俺、何も言わず水と、添えられていたパンを少しだけ口にした。ロッテは、昼間の惨劇が思い出されるのか、ほとんど食事に手を付けず、相変わらず俺の服の裾を固く握りしめている。

 張り詰めた空気の中、俺たちは黙々と食事を済ませた。


 食後、イザベル隊長は宿の主人に、隣り合った一番奥の部屋を三つ、確保させた。

 問題が起きたのは部屋割りについてだった。


「……ライル様と一緒がいいです……」

 ロッテが、俺の外套の裾を固く握りしめたまま、離れようとしない。

 ギデオン殿が「シャルロッテ様、今宵はセレスティアと……」と言いかけるが、ロッテは怯えた目でブルブルと首を横に振るばかりだ。

 流石のイザベルも怯える小さな子供の扱いには困り、「どうしたものか」という雰囲気が濃くなった時、セレスが、はっとしたように言った。

「皆様、少しお待ちください。ロッテ様は、お疲れなのです。まずは、お風呂に入って体を温めるのがよろしいでしょう」

「貸切風呂をすぐに使えるように貸し切っております」

 イザベルがホッとした口調で応じた。


 セレスはロッテの前にそっと膝をつくと、優しい声で語りかけた。

「シャルロッテ様。わたくしがお手伝いしますから、一緒にお風呂へ行きませんか?きっと、気持ちも落ち着きますよ」

 ロッテは、俺の顔をじっと見上げた。俺がこくりと頷くと、彼女も小さな声で「……はい」と答えた。

 俺は、彼女の機転に感心した。


 ***


 湯気が立ち込める、石造りの貸切風呂。セレスは、大きな湯船の中で、シャルロッテの小さな背中を優しく洗っていた。昼間の戦闘でついたのであろう、腕や足の細かな擦り傷が痛々しい。

「……痛みますか?」

 セレスの問いに、彼女は小さく首を振った。

「……アンナが、いつも洗ってくれました」

 ぽつりと、亡くなった側仕えの名前を口にする。その瞳に、また涙が浮かんだ。セレスは、その背中をさする手を止めず、静かに言った。

「……そうでしたか。アンナさんは、最後まであなた様を守ろうとした、立派な方でしたね」

「……はい」

 シャルロッテは、こくりと頷くと、今度は別のことを尋ねてきた。

「……ライル様は、怖くなかったのでしょうか」

「え?」

「あの人たち、とても怖かった……。でも、ライル様は、少しも怖そうではありませんでした」


 セレスは、脳裏に浮かぶライルの姿に、少しだけ考え込んだ。常識外れの強さ、理解不能な戦闘理論、そして、子供を抱きしめるあの優しい姿。

「……ええ。あの方は、とても不思議で、そして、とても勇気のある方です」

 セレスはそう言うと、シャルロッテの髪を優しく洗い流してやった。

お読みいただき、ありがとうございました。

「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は本日の23時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ