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【連載開始3ヶ月でPV10万達成!&第三部開始!】元病弱の俺が見つけた世界の理 ~無名勇者の一振りが世界を慄わす。魔法大陸群像劇~  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第三部【深淵の盟約・北伐奪還編】

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第百九話:魔法使いと魔術師【後編】

 小半刻ほどしたところで、向かいの席に座るエリオットが口を開いた。


「ルナリア様、ラターナから我が国の魔術について、凡そのところは把握していただけましたか?」

「もちろんです」


 タイドリアの魔術については、ラターナに教えてもらわなくても基本的なことであれば把握していた。私は自分の魔法に絶対的な自信と誇りを持っている。だからといって、魔法学校の偏狭な教師陣とは違い、私はタイドリアの魔術の有用性を認めていた。


(――特にあの子が来てからは)


 私はいま頃は店番をしているであろう、カインのことを頭に浮かべていた。


「タイドリアの方は、原則的に大きな魔力を持つ人が少ない一方で、魔石や魔木については大陸随一の産出量を誇っています。そこから、少ない魔力で効率よく魔石や魔木に働きかけ、効率よく大きな魔力を得る技術の研究が進んでいる、ということですわね」


 エリオットが表情を変えることなく小さく頷いた。こんな一般論に興味がないのだろう。私は軽く鼻を鳴らし続ける。人に試されることが好きではないのだ。


「――そうしたことから、タイドリアでは、魔法と呼ばず魔術と呼ぶ。あなたたちタイドリア人にとっては、魔力は技術によって抽出され、扱われるものだから。その是非はともかく、技術力の高さについては私も認めています。実際、あなたからいくつかのタイドリア製の魔術具を見せてもらったけれど、どれも一般的なアウレリアの術式よりも優れています。まあ、そもそも質の良い魔石のお陰で研磨や加工といった生成技術が全然違うのだから当然とも言えますが、いずれにしろ極めて高度なものだと思います」


 ここで彼はニヤリと笑った。


「アウレリアの天才魔法使い、ルナリア様にそう言っていただけるとは、光栄です」


(まあ、私の研究室は負けてませんけどね)


 と思ったが、もちろんそんなことは言わなかった。

 彼はまた口を噤んだまま、私を見ていた。まだ彼の望む話をしていないからだ。さっきよりも強めに鼻を鳴らした。


「――そのタイドリアの魔術を司る、魔術学会の長がこれから私たちが会う、アルドス・レイトン。卓越した術式の書き手として十代の頃から注目を集め、二十歳を前に特例として学会に入会。その後も、画期的な術式を発表。三十歳を前に学会の副代表となり、四十歳を前に現在の地位、学会長に就任。現在は二期目だったかしら?」

「そうです。ラターナは彼について他にどんなことを説明しましたか?」

「まず、彼の術式の特異さ――、でも、私に言わせると決して特別なことじゃない」


 灰色の瞳がスッと細められる。


「ほぉ、と、言いますと?」

「魔術式は得てして奇抜なものが注目を集めるものです。アウレリアでも奇を衒ったものが好まれる傾向にあり、それ自体はタイドリアにも共通して言えることでしょう。だけど――」


 ここで私は少し自分の中で言葉を探した。あまり人を褒めるのに慣れていないのだ。


「アルドスの書いた術式は、当たり前ですがとても複雑で高度なものです。ただその根本について言えば、原理的なごくシンプルなものをベースにして組み立てられたもので、術者個人の能力と関係なく普遍的に使えるものが多いことが特徴と言えるでしょう」


 私は心の中で、(それと――)と続けていたが口には出さなかった。手の裡を全部ここで晒す必要はないのだ。

 エリオットは嬉しそうに笑みを浮かべて、感嘆に耐えないといった風に軽く首を振った。もちろんそのまま受け取ることはできないが。


「いや、お見事です。魔術についてはラターナからご説明させる必要はありませんでしたな」

「まあ、そうですわね。どちらかというと、日常品の中に魔石が使われていることに驚きましたわ」


 私はそういって客車の中を照らしている、天井にハメ込まれた魔石を見上げた。


「アウレリアでも火が使えない場所や、公式の会見場などではこうした魔光石が使われていますが、まだまだ蝋燭が一般的です」

「そうですね」


 そう言って彼は笑った。密偵である彼にはその辺りの事情がよく分かっているのだ。ちょっとカチンとくる。

 そんな私の気分を知ってか知らずか、彼は再び真顔になった。


「では、彼について、魔術以外のことについては?」

「……聞いています」

「結構です。そちらについての備えの――」

「嫌です!」


 私は彼の言葉が終わる前に答えていた。思わず膝を軽く叩いた腕からジャランと腕輪の音が客室に響いた。それだけに後に残った沈黙が重く感じた。


「……お嫌ですか?」


 答える必要はない。私は窓の外を見た。もうすっかり暗くて何も見えなかったが構わなかった。


「ラターナの話では、ルナリア様は覚えも早く、とても素質があるということでしたが?」


 私は黙って外を見続ける。遠くに家の光が見えたので、そちらに意識を集中することにした。


「ルナリア様。お気持ちはお察ししますが、アルドスに接近するためには他に方法がないのです」


 もうさっきの家の光は見えなくなっていたが、幸いなことに新しい光が見えた。たぶんこれも誰かの家だろう。違う国に来ているのだということを改めて感じていた。


(月はどっちの方向かしら)


 そう思って視線を上に彷徨わせたけれど、見えなかった。


「どうぞご堪忍いただけませんでしょうか?」

「嫌ですわ」


 私はにべもなく答えた。

 横目にエリオットが大袈裟に頭を抱えるのが見える。


(その手に乗るものですか!)


 私は憤然として、無視を決め込んだ。


「――ラターナもそうでした」


 自分の耳がピクッと反応するのが分かったが、なんとか振り向かずいた。


「いまでこそあんな感じですが、私と初めて会ったのは、そう、ちょうどいまのルナリア様くらいの頃でした」


 頭の中で彼女の妖艶な姿を思い浮かべる。どこからどう見ても大人の女性で、アウレリアの社交界に現れれば、万人の注目を集めることは間違いない。第二夫人や後妻、ことによると正妻に迎えたいと言い出す貴族もいそうだ。そんな彼女が私の頃――、とても想像できなかった。


「最初の時は彼女も同じで。〝死んでもやらない〟との一点張りで。私も若かったのでどうして良いものやら分からず、ただオロオロしていました」


 ここで彼は言葉を切ると、チラッとこちらを見た。目が合った私は急いで窓の外に戻した。


「まあ、いまもそれは変わりませんが……。でもそれがよかったのかもしれません。結局最後は彼女は勤めを果たしました」

「何も言わずに?」


 思わず私はそう聞いていた。


「ええ、私は何も言いませんでした。彼女は最後は自分の意思でやり遂げました」

「……どうして?」

「それが必要だと思ったからでしょう」


 そう言うと彼はそれきり口をきかなくなった。私も黙っていた。

 やがて馬車の往く街道に光が灯り始めた。最初は魔光石を下げた柱が街道の左右に並んで配置されていたが、次第に街道の中央が輝き始めた。魔光石が埋め込まれているのだ。

 もちろん話としては聞いていたが、実際に見るとアウレリアとの魔石事情との違いを思い知らされる。


(これは凄いわね)


 深くなっていく闇の中で輝くそれは、幻想的な光景だった。


「そろそろ、パンタラに入ります」


 エリオットの声がはっとなった。目を上げると窓の外には、そこは様々な色が輝く世界だった。


「バザールです。今日は星の日ですから」

「――綺麗」


 思うとなく言葉が溢れた。赤、青、緑、黄色、白、紫、ありとあらゆる色が軒先に並び、揺れながら輝いている。その下では、肉や魚、野菜、ドライフルーツなどの食料を始め、衣服やアクセサリー、生きている家畜などもやりとりされている。なかでも私が目に入ったのは魔石だ。一見して低品質なものも少なくないが、アウレリアではなかなか見られない質のものも並んでいる。こんな場合じゃなかったら一軒一軒見て回りたいくらいだ。


 馬車はやがてバザールを抜け、街の中心へと進む。喧騒が遠くなるとともに、自分の中に、硬いしこりのように緊張感が高まってくるのが分かった。こと、魔法のことであれば、緊張などしたことがない私だが、今回は違う。

 大きな館の前で馬車が止まった。外から扉が開けられる。そこには身なりはいいががっしりとした体格の男が立っていた。


「エリオット様ですね」

「そうです」

「こちらは?」

「シャディーナ。ルチル・シャディーナです。私の姪です。今日はアルドス・レイトン様にぜひお目にかかりたく伺いました」


 私はこちらを見た男に向かって、にっこり笑って見せる。男の頑丈そうな顎が僅かに緩むのが分かった。


「承知しました。リストにもあります。どうぞお入りください」

「ありがとう」


 エリオットは先に降りると、私が降りるのを助けてくれる。


 それは大きな館だった。アウレリアとは全く違う建築様式で、壁自体が薄く金色に輝いている。恐らく粉状にした魔石を混ぜた漆喰を使っているのだろう。左右を見回しても、同じような建物がないことを考えると、飛び切り豪奢な建物だということが分かった。


「こちらへどうぞ」


 扉の前の男が金属製の大きな両開きの扉を開ける。片方だけでも普通の扉より二回りは大きい。中は薄暗く一瞬進むのを躊躇する。それを察したのか、エリオットがサッと私に寄り添いエスコートしてくれる。

 一歩館の中に入ると、小さくドンドンと唸るような低い音と、高い弦楽器の音が聞こえた。どうやら防音魔術をこの館全体にかけているようだ。恐らくあの金色の漆喰に仕掛けがあるのだろう。そう思っていると、エリオットの手が私の肩に触れた。


「お召し物をこちらへ」


 その声に促されて私は羽織っていたショールを預ける。空調は良く効いているけれど、ヒヤリと感じる。たった一枚の薄い布切れのようなものだったが、いざなくなるとひどく心許ない。幸い館の中は暗く、自分の格好を見ずにすんだ。


「こちらへ」


 私のショールを男に預けたエリオットが、軽く肘に手を添えて前に導く。普段はセレスとイザベル様以外の人間に体を触れさせたりしないが、彼はとても上手で、自然に足が進んだ。

 分厚い緞帳(どんちょう)をエリオットが開けると、それまで内側に封じ込まれていた音楽が耳を圧倒した。

 目の前には巨大なすり鉢状のホールがあった。高い天井からは様々な色の魔光石が嵌め込まれた球体のランプが何個か吊り下げられ、回転しながら舞台を照らしていた。お陰でさっきに比べれば明るかったが、ホール全体の様子は分からなかった。それでも部屋の奥の方から半円形だということは分かった。一段高い舞台では、激しく光が交錯する中で、なにやら楽器を演奏している二人組が見えた。


「これはなんの音?」


 音に負けないように、大きな声で尋ねる。


「ザブルとケマンチェという楽器です。それよりもあれを見てください」


 そう言ったエリオットが指を指したのは、舞台の一番近くの席だった。そこは特別な席なようで、ホールに合わせた半円形のソファがあり、一人の男とそれを囲むように女性が数人座っているのが見えた。


「あれが魔術学会の長である、アルドス・レイトンです」


 天井の赤い魔光石が一瞬、照らしたその顔は、とても白かった。


(第百九話 了)

こんにちは、佐藤峰樹です。

今週から朝7時台から夜21時台へのお引越ししました。

お初の方もいらっしゃるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。


馬車に揺られるルナとエリオット。向かっているのはタイドリアの首都・パンタラです。ルナはやっぱり書いていて楽しいキャラクターです。


面白いと思っていただけましたら、ぜひブックマークに加えていただければ嬉しいです。評価も大歓迎です。

すでに文字数が57万文字を超える長編となっています。気長にお付き合いいただければ幸いです。

よろしくお願いいたします。


一話からお読みになりたい方は、こちらとなっています。

https://ncode.syosetu.com/n4674ld/


自分でも読み返しても、〝思えば遠くに来たものだ〟という感想です。


次回は明日の21時前後の更新を予定しております。またお会いできることを楽しみにしています。


https://x.com/minegi_satou

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