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病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第一部【王都クーデター編】

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第十一話:騎士隊長の意外な弱点と、可愛い使い魔【前編】

 どうやら彼女は、俺のあの投石を魔法の一種だと考えているようだった。俺は、ただ事実を答える。


「いえ、魔法ではありません。普通に石を投げただけです」


 俺の答えに、イザベル隊長は一瞬、何を言われたのか分からないという顔をした。

「投げただけ、だと?ほう……。あの精度でか。まるで、枝に止まった鳥を射る、凄腕の狩人のようであったが」

 ギデオン殿の言葉に、俺は少し考えて首を振った。

「鳥を打ったことはありません。師匠は、無益な殺生は禁じていましたから」

 俺の答えに、今度はイザベル隊長が尋ねてきた。

「……では、何を的に?」

「最初は、太い木の幹です。確実に当てられるようになったら、だんだん細い木になって。……次は枝に、最後は、葉っぱになりました」

「葉っぱ!?」

 イザベルが驚いた声を出した。

 俺は、石投げで一番大変だった稽古を思い出して、続けた。

「そういえば一度師匠が、大きな木を指差して、『あの木の葉を、全部落とせ』と言ったことがありました」

 今度はギデオンが口を開いた。

「それでどうなった!?」

「その時は風も強く大変で、結局、四日掛かって、なんとか」


 俺がそう言うと、馬車の中の沈黙がさらに深くなった。イザベル隊長はもちろん、ギデオン殿も目を見開いて俺を見ている。俺が話を続ける。

「それに、左右同じようにできなければならない、と。俺は右利きなので、左は苦手で……。だから、左は、右の三倍やるように、と師匠に言われました。ですから右手で一本、左手三本ということで、左は二十日以上かかりました」

 ギデオン殿が絞り出すような声を出す。

「……それは大変だったであろうな」

「ええ、投げるのもですが石を探すのも大変で。近くの沢まで何度も往復して。おまけに師匠に『石の使いすぎだ!』と怒られて。後で投げた石をできるだけ集めて元の場所に戻しました」

「……そうか」

 ギデオン殿はそう言うと口を閉じた。


 イザベル隊長は、腕を組んで俺を見たまま深く考え込んでいた。

 問題は、その視線だった。

 それまでの「嘘つきを見る目」とは違う。かと言って、信じたわけでもないだろう。もっと深く、冷たく……まるで、俺という生き物の内側を、隅々まで暴こうとするかのような目。

 彼女から放たれる気配が、それまでとはっきりと変わっていた。ただの疑いや警戒ではない。もっと根本的な、俺という存在そのものを値踏みし、分類しようとするかのような、冷たい圧力を感じた。

 その沈黙が、先ほどまでのやり取りよりも、俺を居心地悪くさせた。


 口を閉じたイザベル隊長に代わって、今度はギデオン殿が口を開いた。

「ライル殿、どうして奴らはお主が近づくのを止められなかったのだ? わしにはお主はただ真っ直ぐ突っ込んで行くように見えたのだが」

「それは間を外しているからです」

「間?距離のことか?」

「それを含むのですが……。タイミングとか拍子とか意識という意味もあります」

 ギデオン殿が顎を撫でながら「ふ〜む」という顔をする。

 俺はなにかうまい言葉がないかを探しながら説明を始める。

「戦いというものは両者の距離とタイミング、そして気と間があった時に始まるものです。逆に言えばこれを外せば戦いは始まらないわけです」


「ううむ」

 ギデオン殿がなんとも言えない顔になっている。俺はもっと良い言葉がないかを必死で考える。

「俺がやっているのは、こういうものを相手と合わせないということなんです。先程のことで言えば、まず最初に俺のことを通りすがりの人間で害意がないと思わせることから始まっています。相手の意識が自分に向かうことを避けたまま近づきました」


「なるほど」

 そう言うギデオン殿の顔が少し明るくなった。さっきの光景を思い出して納得したのだろう。

「また大事なのは動きを止めないことです。足を止めるとそこで意識を合わせやすくなるからです」

 俺がそう言うと、ギデオン殿が目を丸くした。


 ここで話を聞いていたイザベル隊長が、俺をその蒼い瞳で見据えながら口を開いた。

「お主はどうして人質に取られていたシャルロッテ様が危険なのを無視して近づいたのだ?」

 その声には、適当な返事は許さないという響きがあった。

お読みいただき、ありがとうございました。

「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は本日の21時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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