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病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第一部【王都クーデター編】

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第九話:その少年は、ただ歩くだけで戦場を切り裂く【前編】

 戦場に近づくにつれて、襲撃者たちの何人かが俺の存在に気づいた。彼らは、剣を一本持っただけの、何の変哲もない俺を一瞥すると、すぐに興味を失ったようだった。ただの通りすがりの馬鹿か、あるいは状況が分かっていない子供だとでも思ったのだろう。いずれにしろ無害な存在で、わざわざ近づいてくるとは思わなかったようだ。


 馬車に付いていた四人のうち馬車に近い三人は既に倒され、やや離れたところで奮戦していた最後の一人も、黒装束に身を包んだ屈強な男によって地面に引き倒されて、止めを刺されまいと最後の抵抗を試みていた。襲った方は八人。リーダーらしい男を含む五人が馬車を囲み、残りの三人が周囲を固めている。傍から見ればひどい乱戦だろうが、俺の目には、無数の線が交錯する空間だった。襲撃者たちから放たれる、殺意に満ちた「攻撃しようとする線」が、蜘蛛の巣のように張り巡らされている。俺はその中に、今まさに強い攻撃戦で相手を捉え、殺そうとしている一本の線を捉えた。なんとか抗っていた最後の一人に黒装束の男がとどめを刺そうと剣を振りかぶったその瞬間。


 俺は、その男の背後へと音もなく滑り込むと無言のまま、その首筋に剣の柄頭つかがしらを打ち込む。男は声も上げずに崩れ落ちた。


「なっ!?オマエ、どこから……!」


 目の端で捉えていた通りすがりの子供が、わざわざ近づいてくるとは思っていなかったのだろう。仲間が倒されたことでようやく事態に気づいた別の男が、誰何すいかしつつ斬りかかってくる。その殺意に満ちた剣筋が、俺にははっきりと「線」として見えていた。俺は無言でその剣を剣の峰で受け受ける。いや、『ずらす』。力の流れを逸らされた男が、前のめりに体勢を崩す。そのがら空きになった鳩尾みぞおちに、俺は再び剣の柄頭を、静かに、しかし深くめり込ませる。


「ぐふっ……!」


 馬車にたどり着くまでに、俺はさらに一人を無言のまま倒していた。

 俺の動きに、攻防らしい攻防は存在しない。水が固い岩を避けて流れるように、相手が攻撃したいと意図することで現れる線の方向と、その発信者の意識の粗密を感じて、その僅かな隙間の『薄いところ』を進む。滑らかな生地を俺という(はさみ)が針が進み、切り裂いていくのだ。その結果、俺が通り過ぎた後には、静かに崩れ落ちる男たちが残るだけだった。


 遠くの馬車から見ていたセレスやギデオンたちには、俺が何をしたのか、ほとんど理解できなかっただろう。ただ、黒装束の男たちが、まるで操り人形の糸が切れたかのように、次々と倒れていくようにしか見えなかったはずだ。


 俺の乱入によって生まれた、ほんのわずかな静寂。

 その中で、俺は歩みを止めることなく、襲撃者たちの中心で、小さな女の子を人質に取っている、リーダー格らしき男の姿へと近づいていた。

お読みいただき、ありがとうございました。

「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は本日の21時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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