第八話:馬車の中の尋問と、街道に響いた少女の悲鳴【後編】
出立してから、半日ほどが過ぎた頃だった。
なだらかな丘陵地帯に差し掛かったところで、馬車の速度が急に落ち、やがて完全に停止した。
「どうした!」
イザベル隊長が鋭く叫ぶ。
御者席に座る彼女の部下である騎士が、緊張した声で答えた。
「前方で襲撃です! 一台の馬車が黒装束の集団に襲われています!」
俺たちの馬車の扉が外から開けられた。そこに立っていたのは、既に馬車を降りて状況を確認していた、ギデオン殿だった。彼の表情は、ただの剣術師範ではなく、王立騎士団の指揮官のそれに変わっていた。
「野盗のようです。馬車が襲われています」
イザベル隊長が、冷静に応じる。
「ギデオン師範。我々の任務は、ライル殿を王都へ無事に連行することです。面倒に巻き込まれるのは得策ではありません。ここは引き返すべきかと」
イザベル隊長の冷静な進言に、ギデオン殿は厳しい目で前方の惨状を見据えたまま、静かに答えた。
「イザベル隊長。わしは騎士である前に、アークライトの人間だ。我らの祖は、民を守るために剣を振るった。目の前で無辜の民が襲われているのを見て……背を向けることはできん」
その時、剣戟の音に混じって、甲高い子供の叫び声が聞こえた。その声は、襲われている馬車の方向から聞こえる。視覚では確認できない。だが、俺の感覚ははっきりと捉えていた。幼い子供の極度の恐怖の気配と、それを取り囲む粘つくような悪意の『濃い』気配を。
師匠の最後の言葉が、頭の中で響く。
『その力を使うのは、人を守る必要がある時だけだ』
「ライル殿!? 何を――!」
セレスの制止の声が聞こえた。だが、俺はもう止まれなかった。ためらうことなく外へと飛び出す。背後で俺を呼ぶ声がしたが、俺は速度を上げていた。
(第八話 了)
お読みいただき、ありがとうございました。
「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。
次回は明日の11時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。




