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病弱だった俺が謎の師匠に拾われたら、いつの間にか最強になっていたらしい(略称:病俺)  作者: 佐藤 峰樹 (さとう みねぎ)
第一部【王都クーデター編】

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第八話:馬車の中の尋問と、街道に響いた少女の悲鳴【前編】

 馬車の中は、気まずい沈黙に満ちていた。

 セレスは、時折何かを話したそうに俺を見るが、その度に、俺の向かいに座るイザベル隊長の冷たい視線に阻まれて、口をつぐんでしまう。


 そのイザベル隊長は、鎧こそ脱いでいるが、背筋をまっすぐに伸ばし、その手は常に腰のレイピアから離れていない。彼女は、ただじっと、俺を観察していた。やがて、彼女が口を開いた。

「……ライル殿。あなたは、武術をどこで学ばれたのですか?」


 この時点でイザベル隊長は俺の戦いを一度も見ていない。彼女の質問は、報告書に基づいた、事実確認の響きを持っていた。

「……山の師匠に、教わりました」

「その師の名前は?」

「名前は、教えてくれませんでした」

「師が弟子に名乗らない?……そんなわけがないでしょう?」

「普通はそうだと思うのですが、師匠は『名前なんかどうして知る必要がある?』と言って……。結局、俺の名前を呼ぶことも、最後までありませんでした」


 俺は、問われるままに、山での生活をぽつりぽつりと話し始めた。

「師匠は、いつも俺を『おい』か『お前』と呼びました。会話も、ほとんどありません。稽古は、『こうしろ』と教わり、しばらくいなくなる時は『これをやっておけ』と書かれた紙を渡されるだけ。食事も、師匠が時々持ってきてくれる、そば粉やひじきを水で練って食べるだけでした。火も、使いませんでした」

 俺の話す内容が、目の前の女騎士にとって、いかに常識外れなものかは分かっていた。だが、それが俺の五年間だった。

 俺は、最後に付け加えた。


「……最初は、辛かったです。でも、だんだん慣れてくるとともに、あれほど虚弱だった体も、人並み程度にはなってきて……。それに、鳥の声や、風の匂い……あの山の雰囲気が、好きになっていきました」


 俺がそう締めくくると、馬車の中はさらに深い沈黙に包まれた。

 イザベル隊長は、それ以上何も尋ねなかった。ただ、彼女の視線は、それまでの「嘘つきを見る目」から、もっと深く、得体の知れないものを見るような、分析的な目に変わっていた。彼女は腕を組んで深く考え込んでいる。その沈黙が、先ほどまでの尋問よりも、俺を居心地悪くさせた。

 隣に座るセレスは、俺が語る山での生活に、驚きに目を見開いたまま、固唾を呑んで聞き入っているようだった。

お読みいただき、ありがとうございました。

「面白い」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、ブックマークや、ページ下の【★★★★★】から評価をいただけますと、大変励みになります。


次回は本日の21時の更新を予定しております。またお会いできると嬉しいです。

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