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08 綴られた歴史


「誰だよ……これ」


 稲穂色の髪を長く伸ばす、汎人類の英雄を見上げた。俺達の功績を我が物顔で語り、精悍な顔を宙に向けている。


 エンペリオ家に生まれた次男。

 若い頃に当時の剣聖を師とし、その腕を磨いた。

 そして、魔王にトドメを刺したのと同時、魔王の手によって封印をされた。


「何が、あった?」


 これ、なにが、あった?


 ──いや、()()()()()()


 異人種(みんな)の名前がどこにもない。


 俺も勇者ロイという別の誰かに仕立て上げられている。


 たった数ヶ月、ないしは数年でこんなことができるのか。


「……何年だ」


「叔父さま?」


「俺は何年封印されていた」


 勇者像を見上げながら問う。


『バーバよ、教えてやろう100は経っとる。1000は経っておらんがのぉ』


「ガルー」

 

「ええっと……それは……」


『わらわが教えてやっとるじゃろう。嘘じゃあないぞ』


「教えてくれ」


「叔父様……実はその」


 言い淀むガルーを振り返り、手を握った。


「お願いだ。話してくれないか」


 たった数年でこんな箱物が用意され、資料を用意できるとは思えない。

 俺達のいた王国ならまだ分かる。だが、この国を俺は知らない。

 立ち寄っていない国が、どうしてこんなに資料を用意できたのか。


「叔父様が封印されてから……」


 魔王を倒した実績を他国の知らぬ男に横取りされてるんだ。

 そんなの頑固な王が許す訳がない。

 国同士で潰しあった? 魔王の功績を奪い合った?


「実は言うなと言われてるのですが……」


「良い。構わない。教えてくれ。2年か、3年……それとも10年──」


「298年……です」


「…………はっ?」


「勇者様が封印されてから、298年経ってます」


「──、」


 なんだ、なんといった。

 298年? 298年だと?

 頭が回らん。

 

「うそだ」

 

『うそではないとも、バーバよ』


「ガルー。だって、そんな、」


『言うたろう。お主を喰らってから100年は優に越えとると』


「おまえは黙ってろよ!」


 魔王の言葉を振り払い、ガルーの肩を掴み……ガルーの目尻に涙が見えて、口を閉じた。


「すまん、ガルーに言った訳じゃないんだ……」


 ああ、クソ。

 298年だと? なんでそんな経ってる……?


「……本当なんだな、それは」

 

「……はい」


 魔王を倒してから298年……。

 じゃあ……


「みんなは……?」 


 声が震えてきた。

 魔王を倒した時もそんなことはなかった。

 だが、聞くのが怖かった。

 

「みんな?」


「アンスロとエルフ、ドワーフの仲間がいたハズだ」


 そういうとガルーの顔が歪んでいた。

 思わず息を呑む。

 幼子が見たらトラウマになってしまいそうな形相だったのだ。

 

「ああ……あの裏切り者達のことですね」


 ついと視線を向けた先には、三人の顔を描いた絵が飾られていた。

 それを見て……目を見開いた。


「アイツらが裏切ったせいで、叔父様が魔王に封印されたので──」


 がつんと頭を殴られたような衝撃が走った。


 だって、そこに書いてあるのは──


 金額。


「懸賞金が掛けられて、国際指名手配されていますよ」


 声がでなかった。


 みんなが裏切った?


 そんな訳ない。


 そんな訳がないだろ。


 だって、ずっと一緒に戦ってきたんだ。魔王に封印されたのはアイツらが何かをした訳じゃない。

 

「……、うそだ」


 サプライズじゃないのか? 

 驚かされてるだけだよな?

 だって、あり得る訳がない。


「そんなわけない……」


 俺達がどれだけ頑張ってきたと思ってる。

 

「魔王を……倒したんだぞ、俺らは」


 平和になったと言った。

 脅威が無くなったと言った。

 魔王を倒したんだ。頑張って倒したんだ。

 なのに、こんなの、あんまりじゃないか。


「叔父様だけだったら、封印されることもなく」


「違う。アイツらがいないと勝てなかった。だって、俺だけじゃ……」


 そうだ。

 

「ガルー。約束状……あるって言ったよな」


「はい! ありますよ。えーと、確か中央に……」


 残った微かな期待に足を運ぶ。


 魔王を倒したら、異人種を解放する。たったそれだけを約束していた。

 奴隷として劣悪な環境で働かされていた彼らを解放するために誓ったのだ。

 いくら歴史が改ざんされていようが。

 俺等の功績が誰かに奪われていようが。

 最悪どうだっていい。

 だから、どうか、


「ありました!」





「────……」






「王女様と自分の国がほしい、って勇者様はなかなかな豪胆ですね〜」

 

 約束状。

 それは1枚の紙に約束事を書き、王様の押印を押し、不均等に切ったモノ。


 つまり、俺と王様の持っている約束状を合わせると内容が分かるのだ。


 だが、保管されていた物は──少し年期の感じる紙が一枚、入っているだけ。


 紙には異人種のことなんて書いてなく、俺が王女と国がほしいと書いてあるだけ。


『……哀れじゃのぉ、救国の英雄バルバロイよ』


 魔王はそれを眺め、短く鼻で笑った。


『貴様の功績は、人類の都合の良いように改竄されとるらしい』


 俺の中で、何かが崩れる音がした。

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