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07 誰だよ、コイツ




「遠い昔、私達と魔族は元々一緒の存在だったの!」


 勇者資料館に案内人の女性の声と少年少女たちの声が響いていた。


「神様に逆らおうとした人達がいてね。そんな悪いことを考える訳がない! これは何かおかしいって神様が思って、その時の悪い感情と人達を分けたの。その悪い感情が今の魔族になったんだけど」


 案内人は話を聞いている子どもたちの顔を見て、ふふんと胸を張った。


「魔族はとっても強いの! 勇者様でも倒すのが難しかったのよ! だから、良い子の皆にも倒すのを協力してほしいんだ」


「おれ達が協力……?」「わたしが……?」

 

 不安そうな子どもの顔を見る。想定通りの反応だ。


 1部の子どもは「やってやる」と意気込んでいるが、大半は不安そうにしている。


「な、なにをしたらいいんですか?」


 勇気を振り絞った質問に案内人は指を1本立てた。


「悪い感情は魔族の力になる。だから、みんな良い子でいること! 良い子でいたら、魔族もへっちゃら。騎士のみんなが倒してくれるよ」


「はーい!!」


 ド定番の決まり文句が決まったと女性係員は密かに笑った。


 この資料館には勇者にまつわるものが全て保管されている。


 勇者がどのようにこの大陸を歩いたのか。

 どんな都市に赴いて協力を募ったのか。

 文献。子孫の名前。武器。装備。

 今まで倒した魔族の数、死者数。


 そして、勇者が魔王領への出立に際して当時の国王と結んだ約束状まで。


 勇者が遺した功績を称え、後世に伝えるために作られたこの資料館は学童教育の「歴史教育」の一環として使用される箱物だ。

 

「こんなの倒したの……すごい……」


 とある少女はガラスの向こうに展示された羽の生えた魔族の彫像に恐怖した。


 残された伝記を元に再現されたそれらは当時の壮絶さを物語る。こんな奴らに勇者は勝ったんだ。そして、平和を作り出したんだと教えてくれる。


 目を横に動かしていくと、勇者の精緻な彫像。


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 面持ちに青年らしさが残る彼の姿に、初恋を奪われた少女は多い。


「ふぁあ……すごい……」


 そして、この子の初恋もこの勇者像に奪われたようだ。


「すごいでしょ、かっこいいよねぇ~」


 少女の横にスッと現れたのは、桃色の瞳をしている金髪の少女。


「は、はい! お姉さんも勇者さまのこと好きなんですか?」


「うん! 大好き! いや、好きどころじゃないな……もう、尊敬というか、讃えてるというか」


 後ろの黒髪の少年の方の反応を確認するように少女はそういう。


 だから、そういうことなのだ、と理解した。

 

「お兄さんも勇者さまが好きなんですね!」


 話題を振られた少年はそのまっすぐな瞳を受け、


「……そうだな」


「ですよね! 勇者さまカッコいいですよね!」


 老若男女問わず好かれる存在。それが勇者なのだ。


「じゃあ、お兄さんは勇者様が復活したら何をしたいですか!」


「復活したら……か」


 その少年は勇者像を見上げ、目を細めた。


「……、あの」


「──おーい、次の場所に行くよ〜」


「あ、はいっ」


 少女は頭を下げ、そのままの勢いで起き上がって他の子ども達のもとへ向かった。

 だが、ふい、と立ち止まって勇者像を見上げたままの少年を振り返る。


(なんで……あんな目をしてるんだろう……。あれは)


 尊敬や憧れの色はそこにはなかった。

 そこにあったのは嫌悪感。


(まるで嫌いな人を見るような目……)



     ◇◇◇



「コイツが勇者か。カッコいい見た目してんだな」


『そうかのぉ? 黒血に塗れたお主の方が好みじゃがのぉ』


(てめぇの意見なんて聞いてねぇよ)


 勇者ロイ。稲穂色の髪を長く伸ばして3つに編んでいるのがトレードマークの英雄。


 異人種達と共に魔王討伐の旅に出かけ、有力な魔族を次々に討ち滅ぼした。


 魔族に襲われている都市に赴いて戦争に参加し、多くの人々を救った。


(まぁ、どう見ても俺じゃあないな)


 少女に「勇者が復活したら何をしたいか」と聞かれた。


(……なにをしたい、か。まずは皆に会いたいのはそうだなあ。あとは、人里離れたところでゆっくりしたい……ってのは求められてないんだろうな)


 そう考えながら、勇者資料館を見渡す。


 子どもが多い。入るのに入館料とやらを取られた。人の情報を見るのに金を払うのってどんなだよ。


 展示されている内容物はガラスの向こう側にある。


 少し、勇者資料館を歩くことにした。


『お主、こいつも倒しておったのか!』


(強かったな、コイツ。俺が傷を負いすぎてなかなか次に進めなくてなぁ)


『コイツも! 姿を見んと思っておったら……』


(仲間もろとも滅ぼした。アラムは容赦ないからなあ)


『ほお。この年齢で既に魔族を打倒して……さすが彼方の民(ヒト)の希望と言われるだけある』


(最初の魔族は運が良かったな)


『ああっ! この剣! 憎たらしい……ヒゲモジャ(ノアラシ)が打った魂の一振りじゃな!』


 ガラスに頬をベッタリとつけて睨みつける魔王を見て苦笑いを浮かべて……次の展示物の前で足を止めた。


 ここだけ封鎖されてる……?


 ──【魔王の叡智により封印されし勇者の魂。ここへ眠る】──


 その説明書きを撫でた。

 俺の魂……。


「ここでロイ叔父様は目を覚ましたのですよ」


 後ろのガルーは応える。


「……ここから?」


「そうです!」


 俺はここで目を覚ましたのか。足で地面を小突く。この石床。たしかにこんな場所だった気がする。


「どうですか叔父様! 展示しているものに嘘偽りはありません! ここに展示されているものはすーーーべて! 勇者様のものです!」


 じゃーん、と手を広げて紹介し、


「あ、コレはレプリカですけど……ハハ」


 剣を見て後ろ頭を掻く。


「……そうだな。……どれも俺がやったことばかりだ」


「ですよね! 集めるのに苦労したって聞きましたもん! 妥協はしてません」 


 ガルーの言う通り、ここ書かれてあること、置かれているモノ多くは確かに俺のものだ。


 それは間違いない。


 ──違和感──


 間違いないんだが……だったら、アイツはなんなんだ?


 俺は踵を返し、来た道を帰る。


「叔父さま……?」


 翼の生えた魔族の彫像は伯爵領で戦った奴だ。武器もそう。レプリカだとしても精巧に作られてる。この戦争も覚えてる。これもだ。これも──……。

 

 だが、コレは――コイツだけは。


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