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60 仲間のために必要なことだ


 

 紙吹雪が舞う中、貴賓用駆動輌に乗って民の歓声に応える勇者の姿。

 それを窓から眺める王に、付き人は声を掛ける。


「良かったのですか、陛下」


 黎明国の王は先ほど勇者とソラ王子からの提案を承諾をした。

 獣王国に外交使節団として勇者と選出した官吏と一部騎士を派遣する案だ。


「お前は、勇者様の顔を見たか」


「かお……ですか?」


「剣王国のことを聞いた時……酷く恐ろしい顔をしていた」


 ──剣王国にあの領土を取られると国力が跳ね上がるでしょう。


 伏せていた顔を上げた時、目の色が酷く冷たく見えた。

 普段の慈愛の溢れる瞳ではない。あれは、落胆。

 全てを話さないと分からないのか。そして、私がやることを信じられないのかという目にみえた。


「彼のことを理解しているつもりでいたが……まだ底までは見えていないようだ」


 魔王を倒した功績は素晴らしいものだ。だが、彼らはどこかで勇者を「298年前の古兵」と評していた。その評価は変えねばならん。変えなければ、いつか見限られてしまうしれない。


「ですが、異人種と協力するなど……」


「国のためには毒を喰らわねばならんこともある」


 それに、と王は続ける。


「最も苦しいのは勇者だろう。異人種を殺すと宣言をしながら、国の立ち位置を理解して立ち回ったのだ」


 勇者は異人種を根絶やしにしたい。だが、獣王国と剣王国の状況を理解し、自国が有利になるように立ち回った。その心象は考えるのも心苦しいものだ。

 だが、その結果、獣王国は勇者へ助けを求めた。


「そして、あちらが差し出せるものとして、王の娘というのは最大級の献上品……」


 ただ助けてもらう訳にはいかないから、人質として王の娘を差し出す。

 それを切り捨てるのは容易だが、これから道を共にしていくならば邪険に扱う訳にはいかない。故に――伴侶とすると決めた。


(餌を喰らい、糞をまき散らすだけの獣の雌と結ばれるなど……)


 このことは皆には口が裂けても公言できない。

 獣側は伴侶として献上したつもり。だが、汎人側は切り捨てることのできる使用人……今の王宮で飼いならしている女エルフと同じ扱いで問題ないだろう。

 勇者からの提案にある「王女を娶る」というのも獣側が提案した文をそのまま横流しにしたもの。

 彼とて、そうならないことは理解している。


『獣を伴侶にする程度、魔王を倒すのと比べれば些末なものです』


 あの時の顔はまさにソレが現れていた。

 獣側へのパフォーマンスとしていくらか『伴侶ごっこ』はしてやるが、あくまでそれは獣側へのパフォーマンスであると。目尻には苦しみが浮き上がりながらも、口角は割り切って上に歪む。あれはそういう顔だ。


 王は勇者の心象への理解を示しながら、苦しそうに唇を噛みしめる。


「彼に失望されないよう我々も最善を務めなければいけないな」



     ◇◇◇


 

 なんだ、この小さな紙の切れ端。

 大量に舞ってるけど、こんなの資源の無駄だろ。

 うわ、邪魔クセェ。口に入ったッ!! ペッペッ!!


「勇者様──ッ!!」


「結婚してください──ッ!!」


「大好きッ!! こっち向いて!!」


 凱旋ってこんな感じだっけ……?

 思ったより怖いんだけど……。俺、取って喰われたりしないよね。

 目を向けた方向で悲鳴が上がり、怖くて反対方向をむいても悲鳴が上がる。

 手を振るのを止めると、横にいるカロリーヌから促されるし。


『好かれとるのぅ、バーバ』


(こえぇよ、俺)


 こんなにこの体が信奉されているとは思わなかった。

 そんなに良いか? この体。


 仕立ててくれた職人も何故か同席をしていたソラもニコニコしてたし、稲穂色の髪の毛にこの貴族みたいな服は映えるだろうなあ。……おっと、まぶたが重たくなってきた。危ない。


 凱旋ってのを一回はやってみたかったが……もう良いかな。

 

(……俺1人じゃなく、皆がいればもっと楽しめたのに)


 ナモーとノアラシとアラムがいれば、まだいい思い出になっただろう。

 俺1人で、異人種のことを嫌う者たちの歓声に応えるのが苦痛でしかない。

 なぜ、友を罵る者たちに笑顔を振りまかなければならないのか。


『お主が選んだ道じゃからな』


 俺の代わりに歓声に応えるように手を振るクディ。


『上手く隠し通すんじゃぞ? 期待をしておるからな』

 

 ……そうだな。


 戦争を終わらせたばかりだが、俺はやることが山積みだ。


 獣王国とのやり取りも残っているし、この国のこういう催しにも参加をせねばならん。仲間たちを見つけるために色々都合をつけて国の外に出ないといけない。


「勇者様。この凱旋が終われば、握手会です」


 まだ理想の勇者を演じ続ける必要がある。


「ああ、そうだな。楽しみだよ」


 だから、今は、全力で彼らの声に応えよう。

 嫌いな奴らに好かれるために、心を殺そう。

 どれも、仲間を守るために必要なことだ。




 第1部 勇者の目覚め──終。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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