59 強い自分
「鉱山……? あそこに鉱山など」
「情報として残ってはいませんか? 三日月国が難攻不落であった要因の1つです。その鉱石が手つかずの状態で残っている可能性が高い。剣王国が鉱山を手に入れたら、武器の大量生産が容易となる。そして、攻めにくく護りやすい城を手に入れられる。一気に脅威が増します」
実際に鉱山はあった。現在どうなっているかは知らん。あったとしてどうやって情報を得たかもしらない。ただ、過去の文献なんて探れば情報は出てくるはずだ。
「私はただの実績作りのために攻め入ったとは思えないのですよ、陛下。現剣王の嫡子であるアルベルトと戦前に話してみましたが、準備に準備を重ね、慎重にコトを進める戦略家という印象でした」
『嘘じゃの』
(嘘だとも)
あのクソ馬鹿ならマジで「獣の王国倒せたら父上に認められるぴょっ!」とか言って戦争を仕掛けてそう。オレオルの剣となる! とか言ってたけど、脳みそまで剣になっちまったんじゃねぇか? ハハ。
「そして、剣王国の意図に気づいたかどうかは定かではありませんが……ソラ王子が」今更だが、王太子殿下とか言わなくていいよな? カジュアルでいいよな?「牽制をしに向かわれました。一国の手柄だと言わせぬため、同盟国であるという立場を上手く使って立ち回る。その手腕は素晴らしいものでした」
「そうか……ソラが出向いたのは……」
『お主は適当をそれっぽく言うのが得意じゃなあ』
(そらそうよ。それで生きてきた人間だからな)
貴族相手に立ち回ってたんだぞこっちは。昔は異人種とは口すら利きたくないって奴らばかりだったから、俺が代表者になってた。その時にしこたま鍛えられたんだ。
「話は分かったが……なぜ、獣人を治め、王女を娶るという話に」
「単純です。剣王国への牽制としてこれ以上ない措置だからです」
「そんな措置をしてしまえば……」
そうだよな。お前達の立場がないよな。
だって、魔王を倒した褒美が「異人種の国」で「まだ統治すらできていない国」だったら……なぁ? 恥ずかしくて外に出られないだろ。褒美すらまともに送れないカス国家と謗られるのは必至だ。
「ですが、陛下。私は魔王を倒し、この国に帰ってきました」
嘘の約束だったとしてもあれだけ公にしてるんだ。「守らない」はないよな? な? 念押しだからな? コレ。
「ただ、この国をいただく訳にはいきません。それに王女もまだお若い。私のような年増と結ばれるのは気の毒です」
頭を抑えながら唸る王様。なんか微妙な反応だな。俺、これでも通算300歳は越えてるぞ。意識ない期間が298年間あるけどさ。
「ただ、ソレを公にすると不都合が多い。そのため、獣王国には外交目的で行きます。あくまでソレは将来の話です」
「ですが、勇者様……休戦ですぞ?」
「……はい?」
ん? あ、え?
…………ああ、そういうことか。
コイツら、勘違いをしてんだな。
「それは剣王国との話です。黎明国と獣王国は直接戦争をしていないこととなっています。あくまでソラ王子が独断で兵を率いて参加した。獣王国側にもその理解は得ております」
大人たちの目が開かれる。
だから、お前ら渋い顔をしていたんだな。そりゃあそうか。
休戦状態の国に勇者が向かい、王女と仲良しするって意味わからんもんな。
「剣王国との戦争を休戦とし、獣の王が魔族化していたのを見破り、鎮圧。私はその功績が認められ、獣人側に優位に立てています。それに王女の話はあちら側からの要望でもあるのですよ」
そこらへんも書いてあったと思ってたんだが……。後出しだと思われてるの嫌だなぁ。後で読んでね、ちゃんと。
さぁ、共通理解を得られたことで……畳み掛けるか。
「獣人の立場は揺らいでいます。そこを立て直すことで、黎明国と獣王国は良い関係を築くことができるでしょう。それに私は獣人のことを理解している。彼らを飼いならし、自国の兵として鍛え上げることもできます」
胸元に手をおき、にこりと微笑んだ。
「陛下、なにか問題があるでしょうか?」
頭を抑えながら小太り王はゆっくりと俺の目を見つめる。まだ事情を飲み込みきれてないみたいだな。そんな太ってるのに、食事以外は喉を通りにくいってか。
「なぜ、そこまで……」
「陛下。私は国と民のために魔王を殺したのですよ。獣を伴侶にする程度、魔王を倒すのと比べれば些末なものです」
「勇者様……」
「ですので、富国が成った暁には正式に国をいただきたい。それまでの練習として、獣王国をまずは自国の増強戦力として育てあげましょう」
周りの貴族の同意も得られたみたいだな。
だって、コイツらには悪いことなんてないもんな。
対外的に「異人種と仲良くする国」としてレッテルを貼られるくらいだ。
それくらいどうだって良いよな?
「黎明国に栄光を。微力ながらお供いたします」
お前らは強い自分たちが何よりも好きなんだから。