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51 自国民を潰すのか


 魔力がなくなった。

 転移魔法をあんな大勢にしたのは初めてだった。

 動く対象を数百人単位で飛ばすのなんてできる訳もなかったんだ。


「ハッ……はぁー……っ、疲れた」


 場所を固定し、その間に殺されてしまわないように防御で固めて、転移で砦へ飛ばすなんて。

 いやはや、自分も出来るとは思ってなかったよ。

 これも……飛ばす人間を厳選したから出来た技だな。

 負傷した奴は転移の対象から外した。転移しても動けないだろうからな。

 

「──勇者……なぜ、俺を転移させなかった」


 だから、片目を怪我をした最後の剣聖も当然残っている訳だ。


「オイ! なぜだと聞いている!? 俺は時間を稼いだだろう!?」


「そうだな。これからもまだ稼いでもらうぞ」


「ふざけるな! 貴様ッ……俺を助けると言っただろう!?」


「はて、勘違いでは?」


 そもそも剣聖を助けるとは一言も言ってねぇよ。お前らには「時間を稼げ」としか言ってないぞ。


「ふざけるなッ!!」


 剣を振り回し、泥を跳ね上げる剣聖。その泥が付いた頬を拭う。


「……ふざけるな、か。まるで、俺のせいのような言い方だな」


「ハァッ!? 何を」


「貴様ら剣王国の人間が戦争を起こし、これだけ多くの兵を殺した。相手の力量を測り間違えたからだ」


「何を馬鹿なことをッ、我々は!」


「レイントールは無念だろうなぁ。彼の意志を継ぐ者らが手柄に目が眩み、悪戯に兵を殺す馬鹿だとは」


「貴様ァッ……! それでも――」


 視線を切り、歩き出す。剣聖の恨み言が聞こえるが気にしないでおこう。

 自分の失敗なら自分らで取り返してほしいものだ。

 そして、それはアイツだけじゃなく、コイツらにも言える。


「勇者様……私どもも……なぜ」


「お願いします! 死にたくないのです!」


「まだ、私は──っ」


 口々に助けを求める負傷兵──剣王国の者たち。

 コイツらは獣王国に攻め入ることを決めたクズ共だ。

 剣王の息子(アルベルト)に着いて来て獣人(アンスロ)を虚仮にする。……誰が生かして帰らせるか。


「勇者様!! どうかっ!」


「なぜ、助けてくださらないのですか!!」


 貫かれた腹から血液を零しながら俺の足元へ来る男騎士。

 顔面を爪で抉られながらも、俺の元へ歩いてくる女騎士。

 

「お願いですっ……どうか、どうかっ!」


 どれだけ泣き叫べど、俺は助けないし……獣人アンスロは武器を振るう。


 領土に踏み入った者を彼らが許す訳もない。


「やめっ」


「ああああっ!? 勇者様っ──」


「痛いッ! 痛いっ!! やめてっ、助けてッ!」


 悲鳴を耳の裏に置いて、俺はナモーの元へ歩み寄っていく。

 皆が武器を構え、ナモーがそれを下ろさせた。

 

「時間稼ぎか?」


「ああ、アイツらには生きてほしいんでな。そういうお前は追わないのか?」


「貴様さえいなければ、あの者らは既に両足で立ててはおらぬ」


「俺を殺せば、何度だって返り討ちにできるってか」


「そこまでは言ってはおらぬとも」


 ナモーはぐにゃりと──上機嫌になった時の癖だ──口角を上げた。


「だが、貴様がすぐに死んでしまえば……敵を欲して向かっていくだろう」


「……そーかい」


 コイツは本当に変わらないな。


獣人(おまえら)の領地を踏みにじったのに、俺等の都合に合わせてくれるのか」


 ナモー言い分は、俺さえ生きていれば、追わないということ。本当なら全員殺したいだろうに。……律儀だな、相変わらず。


「どうすればそう聞こえるのだ?」


「事実そういうことだぞ」


 俺はナモーを見上げていた視線を落とし、腰を折る。


獣人(アンスロ)に敬意を表そう。君たちこそ本物の戦士であり、誇り高い種族であると」


 その反応に周りが驚くのが分かった。


「我ら汎人は貴殿らの実力を低く見積もっていた。そして、勝てる見込みのない戦を仕掛けた。……汎人を代表し、謝罪をさせて頂きたい」


「……お前は誰も殺してはいないだろう。血の匂いがしない」


「ここに来るまでに若い獣人を殺した。白毛、栗毛、紫毛の若い戦士達だ」


「……そうか、アイツらを」


 獣人(アンスロ)は仲間思い。どれだけ仲間思いかというと……全員の名前と顔を覚えている。

 だからこそ、俺が誰を──どこに生まれ、どうやって育ち、誰の子どもを殺したのかが分かる。

 殺気が漏れ出ているのが数人。知人か……もしくは家族か。


「聖王国に捕らえられていて、戦争に行く前の練習として戦った。――彼らは獣王国のために動き、王の剣となると言っていた素晴らしい戦士達だった。それを私は手にかけた。決して、綺麗な手をしてはいない」


「私の子を殺したのか、貴様は」


 獣人(アンスロ)の中から声が上がる。紫毛の狼人だ。

 

「ええ、殺しました」


「……どうしてそのような態度でいられるのだ」


「殺さなければならない状況でしたので。殺さなければ、私はこの戦争に参加ができなかった」


「貴様が参加したから、我々は多くの汎人を取り逃がしたのだぞ……!」


「私がいなければ、この戦は大勝を収められたでしょう。それは間違いありません。ですが──」


 俺は視線を他の獣人(アンスロ)に流しつつ。


「あなた達こそ、汎人を舐めている。彼らは大陸の覇者でありながらも無限に子を生む種族だ。一度勝てたからなんですか、二度目も勝てるかも知れません。では、三度目はいかがですか?」


「何度だって我々は勝利できる!」


「戦士の皆様はそうかもしれません。ですが、国はどうですか?」


「……それは」


「こんな都市部の目の前で毎回戦争がある。国民は気が気ではないでしょう。食糧問題はどうですか? いつ攻めてくるか分からない相手を警備する精神的な摩耗は考えておられますか? 一方で汎人はどれだけ時間をかけても良い。このような小国を急いて攻め入る必要がないですから。私が戦略を考えるならば、ここの国主が死んでから攻めます。そうすれば、簡単に陥落できるでしょうから」


「では、こちらから攻めれば」


「無限に湧いてくる敵が素直に正面から戦ってくれると?」


 獣人(アンスロ)は腕が立つ。だが、戦闘狂すぎるのだ。

 実力があるというのに大陸の覇者でいられない理由はソレ。

 政も三流、商業も三流、全てが根性でどうにかなると思っている。


「だから、私は彼ら三名に手をかけてでもこの戦争に参加する必要があった」


「貴様が参加してどうにかなる訳でもあるまい」


「戦争を終わらせることができる。俺は勇者だ。影響力がある」


 ナモーを目で射抜く。

 お前が頑張って政を回しているのだろう。だが、持久戦になる可能性を考慮していない。


「お前の真名はなんという。なぜ、ロイの真似事をしている」


「真似事なんかじゃないさ。俺はロイ。魔王をぶっ倒したバルバロイだ」


「…………そうか」


 ナモーは体を起こし、武器を握り直した。


「武器を構えよ、偽物の勇者、汎人の殿よ」


「…………、」


「貴様の話は真であろう。だが、我々はこの日のために備えてきた。我らが負けることなぞ有り得ぬ」


「……戦争をして自国民を潰すつもりか?」


「2年も経てば友が目を覚ます」


「──、」


 ナモーの言葉に俺は立ち尽くした。


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