48 連れ出してやる
「連れ出すって……」
困惑するソラを無視し、ソラの耳の魔道具に触れた。
「部隊長、前線に人を集めろ」
『ハッ──』
「質問は応じない。生き残りたければ隊列を維持したまま前線に来い」
それだけ伝え、魔道具から手を離す。
これで前に来たやつだけを助けたら良い。あとは知らん。
「勇者様、一体何を……」
まだ困惑しているソラを無視。
「オイ! 俺らを護れ。それくらい出来るだろ」
すっかりと闘志を失いかけている剣聖達に声を掛ける。
だが、反応が鈍い。……プライドだけ高いやつは本当に扱いにくいな。
「……家畜と罵った相手に正面で負けた気分はどうだ?」
「──ッ!?」
「勇者様それは──」ソラの心配そうにかける言葉を遮る。
「そのまま死ねれたら、こんな屈辱を味わなくてすんだのにな。体が重くなり、必死に頭で言い訳を考えて……これで生きて帰ったら、二度と胸を張って街を歩けないだろう」
「……なにが言いたい」
「貴様も我らを馬鹿にするのか」
死んだ目をしていても、プライドだけ高いまま。
そういう奴の扱い方は……知っている。
「俺の師の剣聖レイントールの言葉を借りると──敗北ほど良い経験はない」
この一言で剣聖の目に光が宿る。
「レイントールを師匠としていた……?」
「……勇者、お前っ」
そうだよな。お前らは知ってるものな。
俺がお前らが信奉する『剣聖』に稽古をつけてもらっていたことを。
「汎人としての誇りがあるならば、剣聖としての誇りがあるならば――戦え」
「……っ」
「勝利することは相手を打ち負かすことではない! 戦いが終わり、生きて祖国へ帰ることである!!」
そうしないと俺が死ぬんだ。だから、まだ戦ってもらうぞ。
「お前らはまだ負けてはいない! 立て! オレオルの剣よ! レイントールの弟子である私が貴様らを肯定してやる!」
動く。
折れていた剣が再び、輝きを取り戻す。
「我らはまだ……負けてはおらぬ」
「護衛任務なぞ、飽くほどしたとも」
「ああ。まだ、我らの剣は輝いている」
よし、もう下を向く馬鹿はいないな。
剣聖ならば時間は稼げる。元気がなくとも腕があるなら剣は振るえるだろう。これで、ひとまず準備は整ったか。
「──で、ソラ」
そう言い、強引に手を握った。
「お前の魔力を貰うぞ。良いな?」
「は、ひ……」
「一度に多くの魔力を奪うとお前が倒れるかもしれん。だから、時間はかかる」
「ひっ……」
「それでもいいか?」
「あ、う……」
なんか歯切れが悪いが大丈夫か? だが、同意は得たな。
「何をするつもりだ? 鎖髪」
「戦争を終わらせるんだよ。長引いても面白くないだろ?」
「戦争を終わらせる……? 一斉に腹でも切るか?」
「298年前にもそんなことする奴いなかったろ?」
小首を傾げるとナモーの口角が弧を描いた。
「そうだな。貴様らがするわけもない──」
瞑目したナモーは、予備動作なしで剣を振り抜いた。
瞬きすら許さない。空気が歪んで見えるほどの速度。
それに合わさるは1つの剣。
「馬鹿力め……ッ!」
剣聖が弾き、返ってきた剣に合わさるは2つの剣。
「ギッ……圧されッ」
「力では敵わん! 弾き、逸らすのだ!」
汎人の3倍デカイナモーの一撃だ。
龍は尾を振るだけで10の兵を轢き殺すと言うが、まさにそれ。真横から成人男性ほどの大剣が空を裂きながら向かってくる──死ぬのは避けられないだろう。
「まだ戦うか、剣士どもよ」
「当然だ。我らはレイントールに誓った! 故に我らは貴様を殺す剣となる!」
進撃を止めるためには正面で戦うのは愚策。数で圧倒するしかない。彼らも剣聖として成長をしていっているようだ。
「ふぅっ……」
さて、ここからが正念場だ。
たった数分。されど数分だ。戦争での数分が短いわけもない。それも、ナモーが目の前にいる状況で最前線。
『何人死ぬかのぅ~?』
(大勢死ぬだろうな)
俺も死なないとは限らない。だから……。
(協力頼むぞ、クディ)
『クディタスじゃ。わらわの体でもあるんじゃぞ? 言われるまでもない』
魔王を頼るのは癪だが……仕方ない。一緒に全神経を研ぎ澄まして、なんとしてでも生き残ってやる。