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47 やはり貴様らか



 歩き出した伝説。

 ジリジリと後退をする剣聖達。

 

「どうした?」


 一歩、一歩、また一歩と。

 

「戦うのではないのか? ()()()()()()()


 ナモーは空いた手で自分の胸に手を当て軽く礼をする。剣聖の剣が軋む音が数回。

 

「貴様らは剣士だろう? ほら、近くに寄りなさい。獲物の距離も分からぬ訳ではあるまい」


「……ッ」


 虚仮にされて黙っている奴らが大陸の支配者な訳もない。

 聞こえた軋む音が止み、剣先がピタリと静止した。


「家畜にもならぬ獣めッ」


「人を侮るなよ──ッ!!」


 3人の剣聖達が泥となった大地を蹴り上げ、斬り掛かっていく。それを見送り、振り返った。


(止めぬのか?)


(痛い目にあった方が成長する人間もいる)


 それに、俺はここからどうやって生き残るかを考えないといけない。

 この戦争の勝敗はもう決した。あとは生きて帰るだけ。

 それが一番難しいんだがな!


「【我らは剣! 悪を裁く剣なりッ!】」


「【剣神レイントールよ! 我に力を!】」


「【正義は我らにあり! オレオルの礎となれ──ッ!!】」


 三方向から攻め立てられ、ナモーはつまらなさそうに表情筋を垂らした。

 まるで「その程度なんだな」、「期待外れだ」とでも言いたそうな表情だ。

 俺もその戦いぶりを見て……ようやっと気づいた。


(ふむぅ。剣聖とはこれほどまでに弱い生き物だったか?)


(剣聖が弱いんじゃない。ナモーが剣聖を弱くしたんだ)


(……! 地面か!)


 腰の入っていない斬撃ほど柔いものはない──俺もかつて剣聖にそう教わった。『なんだその振り下ろしは? 赤子の頬を撫ぜているのか?』なんて言われて苛ついたのが懐かしい。

 

 ナモーは意図的に環境を悪くした。

 視界不良で、音もまともに聞こえず、踏み込みの効かない環境を作ったのだ。

 全ては──剣聖達の弱体化のために。


 ってことは、アイツは敵が戦いにくい環境を作り出したというのに、その環境に適応をしかねている敵を見て残念がっているのだ。

 善人面してやることがエグい。ありゃあ相当、剣王国の宣戦布告にキテるらしい。


「貴様らの動きを見ていると遅くて眠くなる」


「ハァッ、ハッ……クソッ」


 一歩も動かずに三人の攻撃を捌いた獣の王。

 彼らはようやく理解しただろう。

 自分たちがなにを相手をしていたのかを。

 ナモーの剣が次に何を刈り取るのかを。


(クディ)


(お主の力じゃ、存分に使え)


(助かる)


 ここから生き残るのはこの三人を生かしておく方が良い。

 無茶な突撃ができぬほどプライドをボロボロにされただろうし。

 無詠唱で身体強化を発動し、振り下ろされる刃先に向かって飛んだ──


 ──ガキンッ。


「やはり、貴様らか」


 俺はナモーの剣を止めた。

 だが、もう1つ重なった剣。俺の横にいる紺色の外套のソレ。


「ソラ!?」


「勇者様っ!?」


 2人でナモーの剣を弾き、視線はナモーを向けたまま。


「なんでここに!? あの猫は!?」


「急に消えた! 後ろはジルにまかせている! それよりも──」


 ソラは剣聖達に背中を向けたまま声を張り上げる。

 

「全軍撤退だ!!」


「なっ!? 撤退だと!?」


「ここまでされて──」


「何度も言わせるな! このままでは部隊が持たないのだ!!」


「くっ……!」


 よほどプライドをズタズタにされてるな。声が震えてやがる。

 剣聖は人の限界を越えた存在。成長の枷が外れた者達(アンチェイン)だ。

 コレの肝は……神が認めた彼らが絶えず努力するとは限らないということ。

 敵を侮り、修練を怠り、今の地位に胡座をかく。

 そうなれば、少し強いだけの人間に過ぎない。


(魔王が倒され、力を持て余すとレベルが下がるのも当然だな)


 平和になった世で欠かさず修練を積める人間ならば、獣人(アンスロ)を低く評価する訳もないか。

 

「撤退? ソレを黙って見過ごすとでも?」


 ナモーの声。俺は駆ける。

 グオンッと振り抜かれた剣を斜め下から弾いた──ソラと同じタイミングで。


「勇者様っ……さすがです!」


 ソラと目が合う。


 俺の力量で真正面から打ち合えば力負けする。だから、軌道をズラす。ただ、ズラすタイミングによっては軌道上に味方がいる可能性がある。だから──と直感で感じた最適な場所に踏み込むと、ソラがいたのだ。


 コイツ、頭が回るだけじゃない。腕も立つのか……。


「既に黎明国で簡易的な司令部を作り、隊長間で連絡を取っている!! 前線はこのまま殿となり、撤退の時間を稼ぐ!」


「勝手なことをするな! 貴様らは──」


「勝手なことをして兵が生きるならばするさ! それが将である我々の使命だ!」


 将としても、兵としても優秀。

 コイツ……生かしたら、将来的に面倒なことになりそうだな。

 剣の向きを変えて握ると──足元から何やら音が聞こえた。


「撤退できると思っているのか? その魔道具からそろそろ聞こえてくるだろう?」


 それはアルベルトがつけていたであろう魔道具。

 

『伝令ッ! 後方──司令部から獣人(アンスロ)の部隊が攻めて来ました!』

 

 その悲鳴を聞き、ソラと俺は表情を歪めた。

 剣聖どもはいつの間にか魔道具を外しているから聞こえていないらしい。

 ……って、え?……魔道具つけてない、だと!?


(まじか……こやつら……)


 そのバカさ加減にクディも絶句してる。


 お偉いさんが独断行動──それも最前線で敵将を討ち取ろうとして、その挙げ句、命令ができず、されても聞こえない状態で戦い続けようとしていたとは!!


「頭が痛くなってきたな……ったく」


「司令部を壊滅させた部隊に包囲。……いくらなんでも来るのが早すぎる」

 

 司令部に残っていた者たちは全員死んだか。


(剣王国のお偉いさん達なら倒すか、最悪迎撃ができると思っていたんだがな)


(期待をしすぎじゃ、それは)


(戦争を仕掛けた側のお偉いさん達だぞ? 期待くらいさせてくれよ)

 

「退路が立たれた……ならば、潔く散るか?」


 ナモーが意地悪く聞いてきたので、俺は腹を決めた。


「……確認だ。包囲を貫ける戦力はもうウチにはないんだな?」


「え、えぇ……」


 ならば、このまま包囲殲滅されて終わり。

 ……なら、できるかわからんがやってみるしかないな。


「ソラ。魔力を寄越せ」


 手を差し伸べると、ソラが俺の顔と手を二度見、あ、四度見くらいしてきた。


「へっ、へっ……へっ……?」


「動ける人間だけに限定し、戦争から連れ出してやる」


 

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