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46 vs古兵


 天候は豪雨。

 肌に直撃する雨粒が重く感じる。

 いや、これは疲労だろうなぁ……。精神をすり減らして戦い続けたツケが回ってきた。

 

 ──そんな状況で、今からコイツと戦うって?


 暗雲立ち込める中で一箇所だけ仄かに光る場所。

 光源を地面に打ち立て、その中央で動かぬナモーに俺等は近づいていく。


「武器を構えよ、旧時代の遺物よ」


 アルベルトは馬の手綱を連れてきていた従卒に渡し、腰に差していた剣を抜いた。


「なんだ。もう、良いのか?」

 

 ナモーは成人男性よりも太く長い剣を軽々しく担ぎ上げた。

 

「こちらの戦力は未だ健在。このままではお前たちの軍は負けることとなるが」


「無策でもお前らに勝てる。あれはほんの腕試しだ」


「……愚将なのだな、貴様は」


「……なに?」


「戦力も準備も足り得ていないというのに、前に突き進む判断を取れる。嘆かわしいことだ」


 ナモーはアルベルトの姿を鼻で笑い、スッと俺に目を流す。

 

「そこの鎖髪の汎人がいなければ、既に貴様らは地面に転がる肉塊となっていた」


「……」


 同意を求めるように鎌首をもたげるナモー。俺は黙したまま。


(……ナモー)


 かっこいいなあ。

 クールなナモーも非常に良い。


 あー、今直ぐ抱きしめて頭をヨシヨシしてやりてぇ……。少し嫌がりながらも頭を押し付けてくるナモーを揉みくちゃにしてやりてぇよ。毛並みフカフカしてんだよ、ナモーは。汗かいてもいい匂いするしよぉ……。


 いかん、情緒がぐちゃぐちゃになってる。

 こんな近いところにナモーがいるのに昔話の1つもできんとは。ああ、クソ! コイツら邪魔だなぁ……。


「コイツのことを知らぬのか? 貴様のかつての友であり、貴様が裏切った──勇者ロイだぞ」


「あ、お前……」


「ロイ……貴様が?」


 あーあ、終わった。

 わざわざ俺は伏せてたのにさ。


「ほぉ…………それはそれは」


 ──ゆら。

 ナモーの柔和な声色に怒気が滲んでいく。


「そうか、ロイか、貴様が。……貴様のような軟派な男が──」


 ナモーは俺の友。かけがえのない親友だ。

 俺がそう思っているということは、ナモーはそれ以上に俺を思っている可能性がある。

 自意識が過剰という訳ではなく、獣人はおしなべてそうなのだ。

 

「友であり、同胞である英雄バルバロイと──貴様が?」

 

 獣人(アンスロ)は己の縁者と故郷を尊ぶ生き物だ。そんな奴の前で、偽物が現れ、友の名を騙るとどうなるか。

 

「────。」


 目があった。

 これ、来──


 衝撃。


「ッ〜!?」


 なんだ──なにが起きた──今、なにをされた!?

 気がつけば──俺の体は宙を舞っていた。

 咄嗟に覆った魔力の鎧のほとんどが削られた。

 

「クッ──」


 ナモーの場所を目で追う。

 光源の場所にいない。

 なら何処に──刹那、白い雷が視界の暗闇を貫いた。


「──っ!?」


 俺の体に雨が一瞬触れなかった。

 頭上へと飛翔した5mを超える戦士の存在によって、遮られたのだ。

 振り被る。


(バーバ!! 構えよ!!)


 クディの声に応じて構えたが、直感した。

 ──受けたら死ぬ──


時間の狭間の魔人(カーノス)の権能──座標移動(テレポーテーション)


 地面に転移すると、宙が震えているのが皮膚越しに伝わってきた。

 ナモーが空中を蹴り上げ、俺に真っ直ぐ突っ込んできたのだ。


時間の狭間の魔人(カーノス)の権能──座標移動(テレポーテーション)


 木枝の上に転移すると、目の前に迫る斬撃。

 

時間の狭間の魔人(カーノス)の権能──座標移動(テレポーテーション)


 アルベルト達の元へ戻り、数秒の間の死合で乱れた呼吸を整える。

 光弾を吸収してなかったら俺は魔力切れで死んでたな……。


「よく動く。偽るだけの実力はあるようだが──」


 音もなく背後に着地したナモー。

 俺が武器をかち合わせ──アルベルト達の剣もソレに重なった。


「勇者ッ! 押し返せっ!」


「分かってる……!」


 やっとナモーの一撃を抑えられた。

 5人でやっと──それも剣聖4人と俺で──


「やっと、動き出したか。肉塊」


 その言葉と共に、ナモーは空いていた片手を剣柄に添えた。


 グンッ――と力が強まる。


 これ、押し負けるっ……!!

 本能的に俺達は受け流すことへシフトして──アルベルトがそのままナモーの懐に入り込んだ。

 

「巨漢なら動きが鈍いだろ──ッ!!」


「愉快っ」


 アルベルトの攻撃を宙に舞うことで避けたナモーは、流されたばかりの剣を既に構えていた。


「貴様らが矮小なだけと気付けんとは!」


 アルベルトに振り抜かれた剣。

 それに掠めたのは俺の足。

 アルベルトを押しのけ、俺は泥濘んだ地面に手をついて体をはね起こした。


「ほぅ……やはり、貴様が組織の要か。鎖髪」


「ハァッ……ハァ……ッ……」


「勇者、おまえ……」


 ヤバいな、ヤバイ……マジで。

 ナモーに勝てるビジョンが見えない。

 あと剣聖って──もっと──強い存在じゃなかったか!?


「お前らッ! ナモーは魔王を倒した戦士だぞ!! 油断するな!!」


 アルベルトを庇いながら、俺は剣を構える。

 ナモーが呆れたような目を向けてきた。

 俺だってこんなことを今更言いたくねぇよ! 戦争中に油断すんなって言葉をよぉ! だけど、コイツらは明らかに油断をしてやがる!

 

「死ぬなら死力を尽くしてから死ね! ナモーはお前らが戦ってきたどんな相手よりも強い!」


「うるせぇよ、クソ勇者!」


 俺の肩を持ち、前に歩み出るアルベルト。


「お前こそ、俺らを舐めてんだろ──てめぇら、やるぞ」


「ああ」


 剣聖どもが剣を握り直し、目つきを鋭くさせた。


 剣聖に限らず、戦士達は武技を使うことができる。直接攻撃をするような武技もあれば、己の魔力を一時的に高めることができる武技もある。


 俺が戦った三体の獣人(アンスロ)も行っていた名乗りもソレだ。だから、コイツらもソレをする。


(やっとか……)


 呆れながらも少し安心をしていると、

 

「「「オレオルの剣神──レイントールよ! 邪悪な者を討ち滅ぼす力を与え給えッ!」」」


「…………は?」


 オレオルの剣神? 

 レイントール??

 俺らを鍛えたあのクソ剣聖と同じ名前じゃねぇか!?


(アイツ、いつの間にそんな偉く……)


 いや、そんなことよりも、冗句かと思った名乗りだったが、一応は何かの符号ではあったようだ。


 彼らの魔力が増している。

 伯爵級だった奴が侯爵級に、アルベルトは公爵級以上に。


「テメェの皮を剥いで、コートに仕立ててやる」


「鹿の首のように壁の装飾にするのはどうでしょうか」


「そうだな。黎明国の資料館にでも送り付けてやろう」


 これなら、一気にナモーの分が悪くなった。

 公爵級1人、侯爵級1人、伯爵級1人。

 これを相手取るとなると、さすがに俺がカバーをしなければ――


「邪悪な者とは」


 ──チリッ。


「よく言えたものだ」


 なんだ。

 空気に淀みが見えた。

 今のは、一体──


『…………コヤツ。あの時より強くなってないか……?』


 クディの声で、ソレに気付けた。

 大剣の刃先の位置。

 その先端に乗っている──首。


『わらわも見えんかったぞ……化け物め……』


 俺も全く気づかなかった。

 周りの剣聖達はまだ気づいていない……隣の立っている人物の姿に。


『剣を振り抜き、剣王の息子の首を切りよった』


 空気の淀みだと思ったのは魔力の爆発だった。

 一時的に、誰も気づけぬほど瞬間的に高めた魔力を纏い――振り抜く。

 そして、鞘に収めるように魔力を戻す。


『何が戦士じゃ』


 一撃必殺とはまさに。


『剣士以上に剣を扱える戦士がいてたまるか』


 ――ドサッ。

 80kgそこらの肉塊が無抵抗に倒れる音で男たちは気づく。

 

「わ、若っ」


「アルベルト……様?」


 声掛けは届かず、アルベルトだったモノは茶褐色の地面にどくどくと朱色を足していく。

 

「あ、ああっ」


「お前──若様を──ッ」


 憤る剣聖達を前にして、ナモーは口角をぐにゃりと上げる。


「我が名はナモー。ヴァリアントの国主であり」


 ナモーの魔力が揺らぐ。


「我らに仇をなす外敵、友の名を騙る不埒者を射殺す者である」


 揺らいで、大きく、巨きく――


「我が同胞、戦の友よ。我に力を与え給え」


 俺こそナモーの実力を見誤っていたのだ。

 彼はこの世界で魔王と張り合える定命(モータル)であり、戦乱の世で全戦全勝の古兵。


「────さぁ。征こう、鏖殺だ」


 先の時代の伝説が殺気を放ちながら、緩慢と歩き出した。


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