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42/60

42 接敵



「で、だ」


 各部隊からの被害報告を聞きながら、俺は空を見上げた。


(さっきの攻撃は……見たことがない魔法だった)


 手始めに相手の動きを確かめるために大技を仕掛けるのはナモーのやり口。


 それを対処したら「やるじゃん」と評価され、対処できなかったら死ぬ。


 耳元で『あのような技は何発も撃てまい。攻め時だ』という声も聞こえてくる。


 ここまで攻め込まれているから勝ちを急ぎ、渾身の大技を放ったのだろうと。


 だが、ナモーが考えたやり方なら──次は絡め手が来るハズ。


「……ン」


 前線の奴らと共に行軍していると、雲の色が変わっていっているのが見えた。


 先ほどまで青色が見えていた空が徐々に閉ざされていく。


 肌に布が張り付くような感覚。

 髪の毛が重たく感じる。

 これは……天候が変わっていってる……?


『魔法兵の隊列を変更する! 地上の魔法兵も上空の支援へ迎え!』


『魔力探知を怠るんじゃないぞ! もうじき城に到着する!』


『気を引き締めろ! 我々は勝ちに来たのだ!』


『前方観測隊から連絡! 城が射程距離内に入りました! ですが──』


 隊長らの声に意識を向けずに、俺は空を見上げていた。


「これ……もしかして」


 灰色だった雲が暗く色を変えていく。一気に空気が冷え込んできた。

 呼気が白く濁る。

 天候が変わっていってる。魔法で変えたのか?

 いつ、どうやって、そんなタイミングなんて無かっただろう。

 いや、

 

「……最初の魔法……」


 最初の光の柱。あれほどの魔力で攻撃魔法では無かった。

 アレで天候を操ったとでもいうのか!?


「くそ……アイツ、どんな戦略立てて──」


『城の前に大柄の獣人(アンスロ)を確認しました』


『白い毛。右目にある傷跡──照合完了です』


 飛び込んできた情報に俺は耳を疑った。


「白い毛、右目にある傷跡……?」


 魔王討伐の時、魔王の魔法攻撃を右頬を掠めていた男の姿。

 そして、前線の俺達にその姿がハッキリと見えた。





『──ネームド:千戦戴冠。国王級の魔力を有する獣人です』





 地面に無造作に光源を突き立て、仄かな明かりを下から浴びながら佇む影。

 背丈は離れていても大きく見え、全身を黒鎧で固めている白毛の獅子獣人。

 汎人よりも大きな大剣。そして小回りの効く剣を地面に刺している。


「ナモー…………」


 旧友の姿が見えて、思わず身体の力が抜けた。


「お前……変わってないな」


 付けてる鎧は見たことがないが、その顔は昔のまま。

 今にも走り出して、お前と思い出話をしたい。

 だが、それは叶わない。


「アレが……獣人(アンスロ)の王」


「何故、あんなわかりやすい場所に……」


『進め! ここからは各隊ごとに分散せよ!』


「ハッ!!」


 アルベルトの指示通りに各部隊ごとに分かれ、襲撃に備えながら進軍を開始。

 先のような攻撃に一網打尽にされる可能性があるから部隊ごとに分かれるのか。

 となると、俺は、中央右翼に戻ることになるのか?


『勇者さまは前線の黎明国(わがくにの)軍と共に動いてください』


 おお、ソラ王子。痒い所に届く指示だな。


「いいのか? 隊列を乱すことになるかもしれないが」


『我々も合流をいたします。事前に準備はしておりますので問題ありません』


「勇者さま、こちらへ」とオジさんがやってきた。


「ああ」


 抜かりないな。俺の勝手な行動も想定済みってか。


 ──ぽつ。


「……雨……?」

 

 オジさんの肌に落ちた1滴を見て、俺は苦い顔を浮かべて。


(とうとう始まったか……)


 そして、次第に強まる雨足。

 太陽は暗雲に遮断され、世界が暗闇に染まる。

 そして──目を開くのでさえ困難な雨が俺たちに降り注いだ。


『天候を変えただと!? そんなことができるのか!?』


『だが、なんのために──』


 なんのために? そんなの決まってる。

 目を開けて情報を得るにも雨が邪魔をする。

 耳から情報を得ようとしても雨音が邪魔をする。

 これを意図的に作り出したということは……。


土砂降り(コレ)が、獣人(アンスロ)の戦いやすい環境ってことだろ」


『戦いやすい……? これでは向こうも何も見えますまい。鼻も効かんでしょう』


 こんな状況でも変わらん阿呆を無視し、俺は武器を抜く。

 魔力探知に全身全霊を注いだ。

 阿呆の言う通りで視界も聴覚も役に立たん。

 なら、魔力で探るしか──


 ──ズッ。


「っ!?」


 超高速で崖上から飛来した魔力に武器をかち合わせる。

 鋭い金属音の次に繰り出された体術に俺の体は吹き飛ばされた。

 盾持ちにぶつかりながら泥のような地面に小さな山を作る。


「グッ──なんっつー力だよ……!」


 今、構えなかったら死んでたぞ……!


「勇者様!? 大丈夫ですか!」


「俺の事はいい!! 来るぞ! 備えろ!!」


 襲撃に備え、盾持ちと戦士たちが構える。

 俺が吹き飛ばされた方向には何も見えない。

 だが、隠しきれないほどの魔力がそこにはある。いる。


「この馬鹿力、ナモ──」


「今ので仕留めれなかったかあ」


 俺の予想を裏切り、聞こえてきたのは若い男の声。

 そして、見えない理由もわかった。闇に溶け込んでいたその体は闇より黒く、


「いらっしゃいませ。クソ人間ども」


 黄金色に光る瞳を除き、全身が黒色の獣人(アンスロ)だったのだ。

 そして、


『後方部隊から連絡──中央右翼に──中央左翼──獣人(アンスロ)が現れました!』


 全部隊から聞こえる報せに、俺は口端を歪ませた。

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