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41 ギャップとは



 防御魔法。

 それは攻撃魔法を相殺する魔法のことだ。


 ただ張れば良い訳では無い。その仕組みは複雑だ。


 魔法にも相性がある。相性が悪い攻撃魔法を防ごうとすると信じられないほどの魔力が持っていかれるし、防げない可能性だってある。


 防御魔法を展開し続け、干からびて死んだ魔法兵なんてのもいるくらいだ。

 で、俺の魔法(コレ)はどういうモノかと言うと──何でも防ぐ防御魔法だ。


(ああ、くそ──)


 ゴリゴリと生命力が削られていく!!!

 何でも防ぐからこそ、俺のような魔法通ではない馬鹿でも使える。

 その代わりに魔力消費量がエグい。本当にエグい。

 あと2分も使えば俺が先に死ぬ────

 

「盾持ち! 後ろから押さえろ!!」


 横に展開させたヤツらと後ろの魔力を吸収し、足りない魔力を補う。

 波状的に襲う衝撃に歯を食いしばった。

 防御魔法ごと圧されるなんて初めてだ……!!


「魔法兵ッ!! 状況を知らせろ!」


 命令を飛ばすと、横の盾持ちが吹き飛んでいった。

 意識を少しでも外すと防御を魔力波が貫通してくる。

 鼻血が出てきた。

 手が震える。

 最初に立っていた位置が防御魔法の外に出たのが見えた。


「クッ──オイッ! 外はどうなってると聞いてるんだ!!」


『魔法で応戦をしていますが! 術者の特定ができません!!』


「急げ! 長くは持たん!!」


『防御魔法を展開しております! 今しばらく──』


 今しばらくだあ!? 無理に決まってんだろ!

 こっちはただでさえ魔力消費が馬鹿な魔法を横長に展開してんだ! 

 ああ、クソ! もうストックを出すことになるとは!!

 

「オイ! お前っ! 右の衣嚢(ポケット)にある魔石を取り出せ!」


「はっ……」


「早く!」


 俺を支えていた奴がゴソゴソと探り、ガルーから借りていた魔石を取り出した。

 

「コチラですか! これを一体」


「近くにもってこい!」


 目だけを横に向け、親指ほどの大きさの魔石が見えた。


「はぐっ」


 それに噛みつき、葉巻を吸うようにして「ン」と礼を言っておく。

 女騎士に驚いた顔をされたが、体裁なんて気にしてる場合じゃないんだよ! 

 魔石1つだとしても魔力量は侮れない。元々は魔獣や魔人の心臓なのだ。

 まぁ! こんな小さいからそこまでの魔力量はないんだけどな!!


「堪えろよ──あっちもコレを長く続けるのは無理だろうからな!」

 

「ハッ!!」


 魔石をガジッと噛み砕き、その魔力を充填すると衝撃が軽くなった。


「ッ?」


 波状攻撃にしては軽すぎる。攻撃を緩めた? 何のために……? 

 相手の攻撃が弱まれば魔力消費も少なくて済むが一体──

 

「いや、これ……」


 真っ白だった景色が変わっていく。

 地面が見え、焼け焦げた木が見えた。

 つまり──徐々に光線が上向きに変わっていっている。

 標的が地面の俺達ではなく、空中の魔法兵へと切り替わったのだ。


「まずいっ! 魔法兵!」


 その時、細い光線が枝分かれし、魔法兵を貫くのが見えた。


「なっ──」

 

『うわああああああっ!』


 俺たちのために防御魔法を展開していたのだ。切り替えが遅れると、その体を守る術は無い。魔法兵長の頭部が消し飛ぶのが見えた。


「っ……!!」


 浮かんでいた身体が重力という枷に縛り付けられ、地面に落下する。


 分裂した光線は対処の遅れた魔法兵を次々に襲い、その体を貫いていく。


 防御魔法で対処できた者は生き残ったが、撃墜された数も多い。特に前線の上空を飛んでいた観測部隊の半数は──


『被害報告を行え! 前線はどうなっている!』


 耳元でアルベルトの声が聞こえる。前線の魔法隊長の応答は無い。盾持ちの隊長が代わりに応答をすることに、


『前線は勇者様の防御魔法で無事ですが、上空の観測部隊の半数は撃墜されました』


 俺はそれを聞きつつ、魔力探知に反応がないことを確認。防御魔法も解いておいた。

 ……残りの生命力が感覚でわかる。


(1年切ったな)


 攻撃にドンピシャに防御魔法を合わせられたからまだコレで済んだ。最善を尽くしてコレなら……戦争中に俺は死ぬことになる。


「あの……勇者様! ありがとうございます!!」


 グイッと詰め寄られ、思わずたじろいだ。なんだなんだ。

 見ない顔ばかり。それに女が多い。剣王国の兵たちか?


「反応が遅れてしまい申し訳ありませんでした。命を助けていただいて」


 ホントだぞといいたいが、我慢だ。


「私の方こそ申し訳なかった。ああ、キミは途中衝撃で……大丈夫だったかい」


「ハッ! 鍛錬が足らないことを痛感いたしました」


「私の意識がそれたのが原因だ。その心意気は良いと思うが、私の責任だよ」


「いえ、私の鍛錬不足です!」


 じゃあそういうことでいいよ。ってか、コイツら戦争中になに悠長に……。


「あ、あのっ、勇者様はもしかして、一人称が俺……なのでしょうか」


「っすー……」


 うわあ、やべえ……。焦りすぎて勇者を演じるの忘れてたあぁ……!


 勇者って「私」っていう人物像なのだとガルーから教わってたから、なんて弁明したらいいかな……下手して疑われたら面倒だし。


「えっとだね……それは」


「すごい、かっこよかったです!!」


 ん?


「ほんとに!! ギャップというか! あ、300年前にギャップって言葉あったのかな……えーっと、なんていいかえたらいいんだろう」


「乱暴にされたいと思ったというか! かっこよくて、いい意味で裏切られたというか! 優しい男性の一面を見れたというか!」


 なんだなんだ。なんかえらい高評価だぞ。


「こら、女ども。サカるな」


 隊長に咎められ、謝罪されたが、それどころじゃなかった。

 いい意味で裏切られたってなんだ……? ギャップ……?


(ほお、そういう裏切りもあるのか……面白い)


(どういうこと?)


(勇者の清廉な印象とはかけ離れた荒々しい言葉遣いと行動に、裏切られたと感じた。じゃが、それは落胆ではないということじゃな)


(説明聞いてもわからん)


(わしも初めてじゃ。変なやつらじゃのお)


 まぁ、良い。なんだか思ってたより変な評価になっていないから良しとする。

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