39 パンツ見えんかのぅ
目指すは山の城、いざ行かん!
というテンションで向かっている。遠足かな?
山頂で皆でプレースマットでも広げて皆でお弁当でも食べましょうかね。
「やはりここは徒歩の方が良かったですな。道も狭く、森の中を駆けてダメにするわけにはいきませんし」
「山の1つや2つを消し、平坦にした方が良かったのでは?」
「ハッハッハ。武器ではなく、スコップでも持ちますかな。それは名案だ」
「万が一の時には馬を駆けさせますとも。そのために引き連れてきているのです」
なんて楽しそうな声も聞こえてくる始末。うーん、緊張感。
俺が来たせいでただでさえ緩んでた雰囲気がもっと緩んだ気がする。一部士気があり得ないくらい上がった奴らもいたか。勇者様に勝利を捧げるのだ~なんて言ってたな。
そのこともあってか、俺の周りの警備は堅い。
ジル、カロリーヌ、ノルマンの三人を中心にして、第二王子らも近くにいる。
「魔法部隊が上方から警戒しております故、何かあっても問題はありません」
こそと耳打ちをされ、俺らの上を飛びながら警戒している魔法使いを見上げる。
周囲の警戒、並びに魔力の探知を兼ねてるのだと。さすが、魔法の時代、だな。
(下穿きはさすがに見えんかのぉ)
体内にいるエロババアに苦笑い。
そんな反応をしてしまうあたり、俺も緊張感が足りてないな。親友に会いに行くような足取りだ。まぁ、事実そうではあるのだが。
「それで、だ。ソラ王子」
「なんでしょうか、勇者様」
「あの資料館とやらを建てたのは貴方だと聞いた。驚いたよ」
「ええ。あの資料館は子どもの時、父が作ってくださったものです」
ガルーから簡単に説明を受けてたが、ここ数年で出来た物らしいな。
「各地に散らばっていた勇者様の資料をまとめようとしたのです。幾らか反対はありましたが、黎明国は勇者様の生まれ故郷であり、始まりの地ですので」
適当な理由をつけて、強引に推し進めたってことだな。
これだけ勇者ってのが広まってるなら「勇者が訪れた村!」とか「俺が倒したモンスターの剥製」やらを宝のように持ってる場所もあるのかな。さすがにないか。
「としても、元々は憎きエルフから封印石を取り返したことが始まりです」
「アラムか。その際には、兵の多くを失ったと聞く」
「魔王を打倒した者の一人です、見通しが甘かったと言わざるを得ません。千戦戴冠のナモー、金剛暴君のノアラシ、不壊大盾のアラム……弱い訳がない」
おもしろ、なにその二つ名。え、え、ワクワクするんだけど。
「私にもそういう二つ名ってあるのかな?」
「勇者様は勇者様ですよ」
つまんねぇ……。なんかもっといい名前はないのか。なんだよ、勇者って。
黒髪で戦闘スタイルは軽戦士みたいだから、えーと、えーと、黒い……稲妻とか。
いや、こういうのは自分でつけるのはアレだな。恥ずかしくなってきた。
『前線から通達』
その時、耳元に付けられた魔道具に連絡が飛んできた。
部隊長同士の連絡に使用する奴だ。連絡前に簡単に立ち位置と名前を言う決まりだと教わった。
話によるとコレを斥候に持たせなかった理由は魔力探知される可能性があるからだと。こうやって堂々と行軍する時には使っても良いらしい。
ちなみに、俺が借りてる理由は第二王子が気を利かせてくれたから。こんなの付けてたら感覚が狂うから外したいんだがな……周辺の音が聞こえにくい。
『前線に向かわせていた斥候の死体を発見。血文字でメッセージが書かれています』
『なんと書かれてある』
『立ち入るな、と』
そこまで話すのかね。見たまんまの情報を流してくれてるらしい。
その後は死体処理の話をしていたんだが……念の為、話しておくか。
第二王子に話していいか? という合図を送ると頷かれた。
「失礼する。中央右翼にいるロイだ。少し良いか?」
『ハッ! 勇者様!』
「死体には触らないでくれ。罠の可能性がある。魔力探知に引っかからない古典的な罠も考慮して、訓練をしている者に対処させてくれ」
『わかりました』
さすがに死体にすぐに駆け寄って「うおおおおお!」と泣き叫ぶ奴はいないだろうが、念の為にな。魔族と汎人がよく使う手だ。煽るような文章も添えてるのは、こちらの冷静さを欠くためだろう。
『獣人がそのようなことをするとは思いませんがね、ハハハ』
人が死んでもなおその反応か。頭が痛くなってくるな。
『死体を辱めるなど、やはり畜生だな。このまま進めるぞ』