38 バヒュン
サプライズとかはするもんじゃないな。全然話が進まなかった。
一頻り騒いだ後は大人たちと簡単な挨拶をした。復活したという報せは聖王国くらいにしか伝わってなかったからか、最初は疑われたが、黎明国の騎士たちが説明をして理解をしてもらった。
会議の邪魔にならないように席を外すと、第二王子がとことこついてきた。
「勇者様!」
「どうされましたか? 兵たちに情報を聞きに行こうと思っていたのですが」
「私がご説明をいたしますので、なんなりと」
お前、会議に出席しないとダメだろ。そこらへんは緩いのか?
「……兵の数は」
「約3,000。その内、騎士が500となっております」
「そんなにいるようには見えませんが」
「分散して配置をしております。また、占領済みの砦にも幾らか残していますし、別経路から攻め入る部隊もいますので」
城に正面から攻める部隊とは別に部隊を用意してるのか。
たしかに、一方向から攻めるには攻めにくい場所だ。
だが、そんな考えをするなんて……。
「それは誰の発案ですかな」
「私です」
コイツか。
「アルベルト──剣王国の王太子殿下と呼んだ方がわかりやすいですか。彼は獣人を舐めている……いえ、彼だけではない。少なくとも、私以外はこの戦を勝ち戦だと考えている節がある」
「そのようですな」
「勇者様を裏切ったとはいえ、これから攻め入るのは剣の時代に終わりを告げた一人。生ける伝説です。彼が弱い訳がありません。そして、獣人も傭兵としての功績も平均として高い。彼らは飯喰らいと評価をしておりますが、一人で五人以上の働きをするとしては安く済む」
……コイツ、勇者オタクだと聞いてきたが厄介だな。
冷静に物事を見れるタイプだ。
「それで、なぜ発案者を聞かれたのですか?」
おっと、不審に思われたか。
「あの城は私が生きていた時代から攻めにくい城だと名高い場所でしたので」
「そうですね。ここは古来から難攻不落として名高い城だと聞き及んでいます」
ナモーを舐めていない。その点は評価が高い。下調べもしっかりとしている。
ガルーから『勝ち戦だと喜んで戦争に来た』と聞いていたが、正しくは『剣王国の動向に違和感を感じて制しに来た』だな。コイツの助言がどこまで反映されているかは分からないが、幾らかは戦いにくい相手になっているだろう。
(話を深堀るのはやめておいた方がいいな)
何かに気づかれて、獣王国に損耗を出す訳にはいかない。話を逸らすとしよう。
「こんな森の中に軍幕を張るなんて、さぞ大変だったでしょう」
「いえ、獣人側はなにも仕掛けてきませんでしたので。泳がされてる可能性も考えて、警戒網を敷いております」
どの程度まで獣人のことを評価してるかはわからないが、正解だ。
森の入口とはいえ、ここは襲撃されやすい。もっと見晴らしの良い場所に立てるべきだ。ここから城までの道のりが遠いから、ここでも位置的には遠いといえば、遠いのだが……。
どれくらい危険かと言われると、目の前に施錠をし忘れた猛獣の檻がある感じ。
この場所が補足される可能性もある。というか、おそらく、補足されている。
今はタイミングを見計らわれている状況だ。
日が暮れた時、ないしは人が少なくなった時、タイミングはいつだって良い。
──ここに残る奴らは死ぬ。
ガルーとエルフさんを砦に置いてきて正解だな。ここに連れてきたら死んでた。
「それで、いつ頃向かわれる予定なのでしょうか」
「斥候を送ったのですが、未だ帰ってきていない状況です」
死んだな。それか、何かメッセージ付きで送り返されるか。
昔なら爆弾を括り付けて目の前で爆破した奴がいたな。さすがに獣人はそこまではしないだろうが。
その時、バヒュンと宙に何かが上がった。
「アレは?」
「斥候に持たせていた信号弾です。緑色ということは、安全と判断したのでしょう」
オイオイ、298年経ってるのに、まだアレを使ってるのか。
もっと、こう何か、通信魔道具的なアレでできないのか?
そういうのは対策されているから、古典的な方法になってるのか?
「では、向かいましょうか。勇者様」
(鋭いと思えば、こういう部分は気にならないのか)
あれだけ派手ならアンスロに気づかれる。開戦の合図のようなものだ。
(奪って打ち上げられた可能性もありそー……)
どのみち、安全ってことは絶対にないだろうな……。