34 さすがわらわを仕留めた男〜☝️
『さすがわらわを仕留めるまでに至った器じゃな! バーバ!』
バーバの奴、己の身体能力と瞬間移動のみで獣共を仕留めよった。
身体変化の術を発動をしておるから、余計な魔力は使いとうないんじゃろうが……当たれば骨の砕ける攻撃を掠りもせず、器用に立ち回るとは。
『魔人の技をあそこまで器用に使うとはのぉ。期待を裏切らん男よ』
わらわとの戦いの中でもあちこちに姿を消して、攻撃が当たらん当たらん。
範囲攻撃を出そうものなら、それごと転移させてくる。
カーノス、時間と狭間の魔人。
かつての旧友の技じゃ。
アヤツの技を盗み、使いこなす。他にも有力魔人の技を盗んでおるのじゃろう。
そういえば、シレンス、沈黙の魔人。アヤツのも使っておったな。
ふむ、どれだけ奪っとるか探るか……ほぉ、ほお! なんと!
『魔人の技を盗み過ぎじゃなぁ! じゃから蛮族野郎と呼ばれるんじゃぞ!』
魔力は共有しとるから技が分かる。
なにが英雄じゃ! 盗人の方が正しいぞ!
この様子じゃあ、バーバが殺した魔人の技は全て盗んどると思って良いな。
その上、汎人が使う技もある……コヤツは本当に戦士なのか?
『あとのぉ! バーバ! しばらく生きていけるだけの魔力も手に入ったぞ! どれだけ辛かったんじゃ? どれだけ苦しかった? 溢れんばかりの力じゃぞ、カッハッハ!』
というと視線を外された。
声は聞こえとるハズなのに無反応とは寂しいのぅ。
『たった三体の命を屠っただけで何をもの悲しそうな顔をしとる。お主は魔族を何人殺した? 協力した魔族がいるというのに、協力せなんだ魔族は殺しとる。一緒じゃ』
(一緒じゃねぇよ)
『ほお! 器用じゃのぉ! 騎士どもと話ながらこっちの声も聞き取るとは!』
(魔族は殺しに来たから殺した。話が出来ないから殺した。だけど、あの三人は殺す必要がなかった。それに……ナモーが護ろうとしていた命だ)
『だが、生かす道はなかったろう。アヤツらに圧勝せねば、戦争には招かれんかった。不甲斐ない姿を見せる訳にもいかん、ならば後悔するべきことではない』
(後悔してはないさ。やらねばならなかった。だから、つらいんだ)
『ハッハッハ! そこは人のようで安心したわ! まぁ、存分に悩め。いっておくが、慰めはせんからのぅ? そこまで協力する訳もない』
わらわはお花畑の上で花の冠を作って、自分の頭の上に乗せた。
『おおお~、バーバ、みてみぃ。魔王の冠じゃ! そうじゃ、姪にも見せてやろう』
魔力を操り、姪にだけ見せるようにして手を叩くとこっちを見てきた。
『どうじゃ! 魔王の冠! 凄いじゃろう!』
誇った顔をしてやると、アヤツも辛気臭い顔をして頭を下げてきた。
なんじゃ、つまらん!!
『獣を数匹殺した程度で何を悲しむことがあるんじゃ、バカモーン!!』
◇◇◇
勇者様が復活をして、憧れの勇者様を目の前にして、戦う姿も見て。
心が踊った。
だって、幼い頃の夢が叶ったのだ。
でも、事情を知ってしまっているからこそ、心から喜べない。
冷静なフリをしている姿だって、声援に応じる姿だって、全てが苦しく見える。
見てるだけで苦しくなるんだから、叔父様はもっとつらいんだと思う。
「……」
獣王国に着くまではエルフさんと私が叔父様の同乗者になった。
あれから食料も水もあまり取っていない。だが、皆は勇者の姿に浮かれてそのことに気づいていない。……気づいているのは私だけ。
「叔父様、獣王国なんですが……残る城は1つのみのようです」
「…………そうか」
雑談ができないかと思ったけど無理だった。
隣のエルフさんも呼吸の音すら立てないようにしてるし。うわ、顔色も悪い。
こういう時は何をしたらいいの……!? えーい、私の頭の中のせんせー教えて! 人と円滑にコミュニケーションをする方法を教えて下さい~。
場の空気を変えるためには何が良いって書いてたっけ、えーと、えーと! 思い出せ、ガルー! 頑張れ~っ……! あ! 思い出した!
「い……い、一発芸します!!」
「……?」
「エルフさんが!!」
「ええっ──ごほっげほっ! へぇっ!? わ、私ですか!?」
初めて聞く大きな声に叔父様も興味が湧いたのか、エルフさんの方を見ていた。できませんと表情で訴えかけてきたので、手を合わせてお願いをする。
「この前読んだ本に空気を変えるには一発芸が良いって書いてて……!」
「そ、そんなこといわれましてもぉ……っ……!」
「私つまらないから! お願いっ!」
ううう、と泣きそうな顔になったエルフさんは震える手で耳を抑えた。
どうしようかと目を泳がせて、キュッと目を瞑っていて。
「エルフの一発芸します~……!」
「おおー! ヨイショ! いいぞー!」
エルフさんは抑えた長い耳を顔の前まで持ってきて、ゆらゆらと動かす。
「エルフの耳はなんで長いんでしょお……はっはっは、それはね──」
動かしていた耳を急にパカッと開いたかと思うと、
「ダウンジングマシンだから! 宝物みっけ! な、な、なんちゃってぇ……」
涙声のエルフさんの声を最後に、室内の空気は凍った。
「はい、面白くないですよね、すみません、殺してください」
私は叔父様と交互に見やった。
わ、わたしは面白いと思ったけど、えっと、叔父様には……。
「ふ、ふふふ、はははは! なんだそれ、めっちゃ良いじゃん!」
「あはは……よかったです……」
「じゃあ、俺も」叔父様は三つ編みを前に持ってきて「一本釣り」
「「……」」
ひょいひょいとソレを動かして、こっちの反応を見てきた。
これは面白いというか、意外性というか、えっと、感動というか。
「エルフさんの方がセンスが良いみたいだ。負けたよ」
「いえ! もう! 面白かったです! ね、エンペリオ様!」
「そりゃあそうです! 何が釣れるんでしょうね~? 気になるなぁ~?」
「ハハハ、俺、落ち込んで見えた?」
「え、いえ、そんなことは……」
薄っすらと開けられた藍色の瞳に私は唇を結んだ。
「はい……少しだけ」
「はあ~、出さないようにしてたけど、まぁ、そうだね。落ち込んではいる」
「ゆ、勇者様が……ですか? なぜ」
「298年後の世界で、人を殺す感覚を味わうとは思わなかったってだけさ」
エルフさんはボヤけさせたその話を不思議そうに聞いていた。
私には言ったのに、エルフさんには言わないんだ。それって……えっ。
喜んじゃいけないことなのに……! ちょっと、浮かれてる私がいる!
えっ! 叔父様! そんな立ち回り辞めてください! 勘違いしちゃいますよ!
「落ち込むのはやめよう」
腹内の感情を全てリセットするために一度大きな息を吐く叔父さま。
その時に長い睫毛越しに見えた瞳の色が綺麗過ぎて喉が詰まるかと思った。危ない、直視しないように目をギュッと瞑っておこう。
「それで、獣王国の話の詳細を聞きたいんだが、具体的な場所とか分かる? 地図とか持ってたら嬉しいんだけど……ガルー?」
「っはあっ! え、あ、地図はないですが、紙とペンならあります!」
「逆になんで持ってきてるの?」
「叔父様のサインをもらおうと思ってて……」
というと、叔父様はぷっと吹き出して笑ってくれた。
嬉しい。このまま勢いで大道芸人にでもなれそうな気がする。
「ざっとで良いから、周辺国をまとめてくれないか」
「はい、お任せください」
「き、協力します!」
ともあれ、叔父様の雰囲気が戻って良かった。