32 友だからこそ
「このっ……裏切り者が──ッ!!!」
白毛のアンスロが声を荒げ、先陣を切る。
栗毛と紫毛のアンスロもそれに続き、連撃が始まった。
「偽りの歴史に騙されて、我らが王に仇なすなぞ!!」
「友人であるならば、あのお方が裏切る訳がないと何故思わない!」
剣が軽くて、重たい。
これは雑念が俺の中にあるからだ。
「友であり、仲間であるならば! 何故! 協力をしないのだ!!」
彼らは戦争に先駆け、砦を強襲した。
アンスロという種族は足音を消して高速移動ができる種族だ。だから、強襲から離脱が得意。あの巨体でそれをされたら汎人はどうすることができない。
だが、誰しもができる訳ではなく、未熟なモノはが完璧に足音を消すのは不可能。
「ああ──」
君たちは勇敢な兵士であり、未来のある若者だ。
これからもっと強くなり、多くの敵を屠れただろう。
だというのに、俺の剣は淀みなくその生命を狙うのだ。
──血しぶきが舞った。
俺の胴よりも太い足を切り飛ばした。
顎から落下した紫毛のアンスロの上に飛び、剣で首の繋目を狙い、切断。
「一体目」頬についた血を拭う「身体の調子は良いな」
強襲を狙っていたアンスロ。三人で戦うときの常套手段だったのだろう。
二人が一気に魔力を発して走ったのに合わせ、気配を消して背後に回る。
魔力の高い紫毛のアンスロが強襲をすることで成功率を上げて、一撃で仕留める。
悪くない。だが、良くもない。
「主を護りたいのだろう? この程度か」
剣の血振るいを行い、顔を恐怖で強張らせている二人を見やる。
「この程度かと言った」
「……ッ!」
「ナモーはどんな状況でも諦めなかった! 自分の力で打開してきた! お前らはどうだ! なにをしている!」
「俺らは……」
「誇り高い種族なのだろう! 全力でかかってこい! 相手をしてやる」
栗毛が走り、隣の白毛のアンスロもソレに合わせる。
栗毛は素手、拳闘士か。白毛は剣を持っている。
ああ、良い連携だ。栗毛の攻撃を避けたら白毛の攻撃に当たるな、コレは。
「我々は! ナモー様の剣となる──」
鉤爪の横ぶりを弾き、もう片方の手も弾く──横から白毛の蹴り上げ。
腰が入ってないな、アンスロと言えどもまだそこまで戦い慣れてない。
地面に剣を差し込み、白毛の趾に剣が刺さった。
「グゥウウウウアアアアアア!?」
その剣を反動を使って抜き、そのまま白毛のアンスロの身体の前に飛び──栗毛のアンスロの横殴りが目前に迫る。
咄嗟に仲間を助けようとして放った攻撃。
だが、俺が喰らわねば仲間に当たる位置だ。
【時間の狭間の魔人の権能──座標移動】
殴られる寸前で、一秒前の位置に戻ると白毛の首元に拳が突き刺さった。
「なッ──!?」
騎士たちの元に飛んでいくほどの威力。すげぇ力だ。
だが、その後に拳を引かないのは油断しすぎだ。
困惑して伸びたままの手首に剣を差し込み、切り落とした。
「グヌッ!?」
痛みによろける栗毛に追撃をしようとして。
「貴様ァアアアアア!」
白毛のアンスロが飛びかかってきた。
顔面から血を流しながらそんな威圧を放てるなんて。
(将来は、本当にナモーの剣となれただろう)
だが──それは叶うことはない。
俺は持っていた剣を上に放り投げ、そちらに視線が一瞬だけ向いたのを見て──座標移動を使用して剣を握った。
「どこに……」
獣人が視線を戻した時には俺の姿はなく──首筋に向けて一直線に落下する俺の身体。
そのまま一人目と同じように首を切断した。
頽れる身体と共に地面に降りると、拳を切り落とされた栗毛のアンスロと目が合う。
「きさま……きさまは……」
「なんだ? 何を驚いている」
剣を思いっきり振り抜き、血振るいをする。
「私は魔王を倒したのだ。アンスロの若造を屠ることなぞ造作もない」
「っ……!! クソオオオオオオ!!」
残っている方の腕で殴りかかってきたのを捌き、顎下から頚椎を貫く。
「──お前らの死は無駄にしない」
「……っあ」
涙を流すアンスロに刺した剣をそのまま横方向に抜き去った。
頚椎を貫いた時点で死んだだろうが、首から血が溢れて倒れ込んだ。
三体全員を倒したのを確認すると、監獄長に目を向けた。
「倒したぞ。練習台を用意してくれて感謝する」
「え、あ、ええ……」
「では、獣王国に向かおう。駆動輌を用意してくれ」
剣の刃をハンカチで拭い、鞘に収めると──ようやく観客が理解したらしい。
息を呑んで見守っていた彼らが一気に場が割れるほどの歓声を上げた。
「「「勇者様っ! 勇者様っ!! 勇者様ッ!!」」」
その歓声を背に血がついた上着を脱ぎ、ガルーに渡した。
囲むようにして賛辞を飛ばしてくる人間の顔を見て、微笑む。
俺は、今、正しく笑えているのだろうか。
(……ああ、嫌だ)
殺す間際の栗毛の表情に全てが詰まっている。
よくも我々を裏切ったな。
貴様はナモー様も裏切るというのか。
仲間じゃないのか。苦楽を共にした、仲間なのだろう。
「仲間だからこそ、俺は……戦うんだ」
そのつぶやきは宙に溶けて消えていった。