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31/60

31 悪役らしく



「はっ……」


 力を貸すって。

 おい、まて。

 こんな状況で、俺が、お前らにできることなんて──


「勇者様のお力があれば、我々はここから抜け出すことが出来ます」


 グググッと力を込められ、ジリッと足を後退させる。

 観客の眉が潜められ、俺の身を案ずる声も聞こえてきた。


(くそっ……!)


 決意が揺らぐ。視線が泳いでしまう。

 俺だって、ナモーの同胞を傷つけたくない。

 護りたいよ。だって、そのために、戦ってきたんだ。

 だけど──俺は──できないんだ。


「悪いな、その相談には乗れない」


 後ろに引いた足を軸足にして、アンスロの身体を持ち上げた。


「っう!?」


 驚いたアンスロはドスンッと足を地面に着き、身体を跳ねて距離を取る。

 小さな手に握りつぶされそうになったんだ、驚くよな。

 

「あなたは勇者様なのでしょう!? ならば! 我々に力をお貸しくだされ!」


 大声で話すアンスロに皆から様々な反応が示される。

 騎士たちは嫌悪感を示し、監獄長は呆れながら頭を掻いている。

 他の二人のアンスロは動いていない。俺と戦うことを事前に聞き、計画をしたのだろう。

 

「我々と戦う理由はないはずです! ナモー様のご友人であれば!」


「…………」


「力をお貸しください! ナモー様の国が汎人に襲われているのです!」


「俺からもよろしくお願いします! バルバロイ様のお話は聞き及んでいます!」


 栗毛のアンスロも頭を下げてきた。


 コイツらは……俺なら救ってくれると信じていたのか。


 ナモーの友である「バルバロイ」という男なら、こんな場所であっても同胞には手を出さないと。俺に希望を見出して……。


「……」


 俺は構えていた刃先を地面に落とす。


(バーバ、それはならん。分かっておるのだろう)


 肩で息を繰り返す。


(ナモーとやらを助けるのだろう。そのために、)


(分かってる……分かってるさ)

 

 ああ、判断が鈍る。鈍って、仕方がない。

 ナモーを助けたいから、俺は勇者のフリをしている。

 アンスロもドワーフもエルフも仲間だよ。

 大切にしたいさ。

 だけど、ここで俺がお前らを倒さないと──ナモーを助けに行けないんだ。


「仲間であるなら! 手を貸してください!」


「ナモー様の友人であり、仲間であるあなたなら可能なハズです!」


 そうだよな。

 お前たちも同じ気持ちなんだよな。ナモーを助けたいんだよな。


 ナモーから俺の話を聞いてるんだろう。

 一緒に魔王を倒した俺の……俺達の話を。

 汎人みたいに嘘で塗りたくった歴史ではなく、ナモーが実際に体験した話を。

 汎人を嫌うナモーだから余計、俺は良い奴だって思われてるんだろう。

 

「バルバロイ様! 我々と共にナモー様を──」


「ナモーは良い奴だよな」


 俺は傾けた武器を地面に触れさせ、そう言った。

 周りがざわつき、アンスロ達に戸惑いが見えた。


「俺、アイツに一対一で勝ったことないんだ。強いだろ」


「……勇者様? なにを」


 カロリーヌの言葉をジルが止めていた。


 すまん、少しの間、昔話をさせてくれ。


「お前の言う通り、仲間だよ。友達さ」──ああ、どこまで話していいんだっけ。ガルーが心配してる顔が思い浮かぶな──「だって、魔王を一緒に倒そうとしたんだ。10年間もの間だ。いつ死んでもおかしくない魔王領(ばしょ)で、毎日戦ったよ。魔族に殺されそうになった時、ナモーが身体を張って助けてくれたこともあった」


 俺を庇ったせいでアイツの腹を剣が貫いた。それで軌道が逸れて、俺の頬を掠めた。

 俺に影を落としながら『大丈夫か、ロイ』ってさ。痛いだろうに心配させないように痛そうな素振りすら見せずにさ……。


 男として惚れたよ。

 カッコいい奴だよ、アイツは。


 最初は俺のことも嫌いだったって言ってたけど、旅をしていったら仲良くなって。

 だから、俺も、アイツのこと……すごい、好きなんだよ。


「だったら尚更、その力をお貸しくだされ!」


「なぜ、迷うのですか! 友であるならば──」


 助けたいからだよ。


 汎人共から、ナモーを助けたいんだ。


 でも、そんなこと言えない。まわりに目が多すぎる。

 だから、ごめん。

 俺はバルバロイじゃない。勇者ロイ。汎人の英雄であり──


「アイツが俺を裏切ったからだ」


 異人種に裏切られた人間なんだ。


「友だと思っていたのは私だけだったのだろう?」


「それは違います! ナモー様は!」


「なにが違う?」


 俺は眼圧で彼らを怯ませた。


「ナモーが私を裏切ったから、獣人(アンスロ)はこうして虐げられているのではないか?」


「──ッ!」


 ああ、俺、最低だ。

 とんだクソ野郎だ。

 アンスロ達の顔が歪むのが見えた。

 ごめんな、ごめん。


 ──お前もそっち側なんだな、と顔に殺意が差し込んだのが見えた。


「さぁ、話は終わりだ。アンスロの(わっぱ)共」


 剣を掲げ、名を名乗る。

 相手に躊躇いを持たせぬよう、毅然とした態度を示せ。


「我が名はロイ。魔王を打倒した勇者ロイである!」


 稲穂色の髪を靡かせて名を名乗り上げた。


「この戦いに勝利し、貴様らの王であり、我を裏切った旧友を打倒しに行く者なり」


 アンスロ達の願いは叶えられない。


「止めたくば止めてみせよ。救いたくば救ってみせよ」


 だから、せめて、


「我が屍を踏み倒し、その願いを果たしてみせよ!」


 悪役らしく、振る舞ってみせよう。

 俺への希望を打ち消し、大事な王を脅かす存在として認めさせる。

 これが、俺ができる最大限の思いやりだ。

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