29 どう考えてもさ……
「お待たせしました。メルトンのおかげで無事に解呪ができました」
来賓室に戻るとざわざわとし始めた。
本当に勇者だ、とか。伝説が目の前にいる、とか。
ガルーに頼って良かった。凄い評判がいいよ、この身体。
『勇者はですね! もっと顔面がしゅっとしていて、髪の毛ももっと長めで!』
興奮した様子のガルーの言うことを聞いて姿を変えていったが、本当にこだわりがすごかった。完成したかとおもったら修正箇所が本当に多くて、結構時間がかかった。
メルトンも終始暇そうだったしな。解呪すると思って準備もしてきてくれてたし。
『──よし! これで完成です! 後はこの服を着てもらって!』
『よーし、じゃあ、皆にお披露目と行くか!』
『叔父様! もっと話し口調を丁寧にしてください! 勇者は紳士で冷静で愛情に溢れた人なんですから!』
といろいろな指摘を受けて、今の勇者像が完成した。
こんな姿が皆好きなのか。こんな奴、世界のどこを探してもいないだろ。
魔王を倒したっていう功績から、世界を救った英雄の姿を都合よく考えていった結果、出来上がった男の姿。
神を見たことないが神を描いた。天使を見たことがないが天使を描いた。ソレと一緒だ。勇者はある種の神格化された存在なのだろう。
(メルトンも別れ際に言ってた。勇者は神と同義だと)
虚像に塗れ、正しくその姿を知る者はいないというのに、未だに根強く信仰されている存在。それが神だ。
神がいた時代から生きるエルフにとって【神と同義】という言葉の重みを推し量るのは、俺には難しい。
まぁ、なんとかなるだろう。出来なきゃ死ぬだけだ。死にたくはないがな!
「お体の方は問題はありませんか?」
「ええ。解呪後に私の姪に鑑定もしてもらったので」
大嘘ついた。ガルー以外に鑑定されて変なのがバレたら困る。
「では、解呪も出来ましたので、国に帰らせていただきます」
「え、ええ……」
帰国することになった。帰国と言いながら、このまま獣王国に行くんだが。
だが、挨拶をしてから代表の笑顔が引きつってる。なんでだろう。
そんなに鑑定をやりたかったのか?
「きっと、エルフが対応したからでしょうね」
ジルが耳打ちをしてくれた。
「というと?」
「我々は勇者様の解呪を任せるという恩。そして、彼らは解呪をしたという恩があります。だが、実際に解呪をしたのはエルフ。エルフの技術は我々が理解できない種族魔法が多いでしょう」
「あー……そういうことか」
汎人の誰かが担当をして、俺等へ恩を売る、ないしは実績とする。
それが異人種となればしにくいのだ。
異人種に対しての風当たりというのはここも強いだろうし。強引に聖王国の実績とできるだろうが、バレた時に「異人種を頼った」と恥をかくのは避けたいだろう。
それに、解呪という名目でこの国に拘束をしておきたかった……とかもありそうだし。
「悪いことをした」
「気にせずとも良いです。向こうがよしとしたのですから」
思ったよりもそこら辺が面倒くさそうだな……気を付けないと。
帰りのリフトに乗る時に後ろを振り返る。
雲が近く、いくつも塔がそびえ立ち、街には魔法使いが溢れていて、商人のような身なりの者達も見えた。
(なぁ、クディ)
(クディタスじゃ。なんじゃ)
(魔王派閥の魔将は三人いたよな)
(お主らが殺したがな。何を言いたい?)
──この国のこの浮遊都市は魔族の力。
(魔将は全員で何人いるんだ?)
(七人じゃの。お主についたのが二人。わしに三人。そして、中立派が二人)
これが普通の魔族にできるとは思えない。となると、魔将の仕業だ。
だが、その気配が一つもないし、疑問視をしているのも一人もいない。
「勇者様? 降りますよ~」
「ああ、分かった」
何がとは言えんが、不気味だ。
非常に、不気味だ。
(まぁ……知ったことではない)
問題になってないなら優先度は低い。
それに、今の最優先は獣王国に行くことだ。
……だというのに。
「では、これから勇者様とアンスロ達との戦いを始めます!」
なんで、こうなった。