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27 エルフは知らない



「…………それは」


 なぜ、メルトンが話すのを躊躇したのか。


 アラムは同胞の解放を条件にして魔王を倒した。


 魔王を倒した時は皆が自分の種族が解放されると喜んでいた。アラムもだ。

 追放され、いい思い出がないと語っていたアラムが、喜んだのだ。

 本来ならば、アラムは自らの種族を解放するために命を捧げた英雄と称されてもおかしくない。

 だが、


「……まぁ、そうか。そうか……そうなるよな……エルフは知らないのか」


 歴史は『アラムが俺を裏切った』となっている。

 そして、エルフもアラムに対しての『正しい情報』を知らない。

 なぜなら、アラムはエルフの里から追放をされているからだ。


「勇者を裏切ったとしてエルフは聖王国に追い立てられ、領土を奪われ、農業や酪農の場となっています」


 エルフ側からしてみれば──追放された奴が勇者を裏切ったせいで、エルフの里が危険に晒された、ということ。


 改竄をした歴史を元に人間はエルフへの扱いを劣悪にする。


 劣悪な扱いに対し、エルフもアラム1人を悪役に仕立てあげて難を逃れる。


「……ひどい話だ」


 アラムが魔王を倒しに行った理由もエルフは知らない。

 それが『人間たちからの解放』を掲げていたということも。

 彼らは知らないまま英雄を殺そうとしているのだ。


「…………バルバロイ様はこの街にどのような道で来られましたか?」


「山道を駆け上ったが……」


「山奥への物資の輸送は金がかかります。他の国と比べ、この国は金がかかる」


「だから、自分達で賄おうとして──エルフの国を襲い、領土を奪ったと」


「異人種への戦争は犯罪ではなく、むしろ褒められるものですから」


 くそったれ。本当に、くそったれだ。


 だから、戦争を辞めることを条件につけてアラムへの捜索、もしくは何か技術の提供などを要求した……ということだろう。


「自分たちが殴りかかって、殴られたくなかったら金を寄越せ、か」


「それができるから、大陸の支配者なのですよ」 


 そうだな。人は善人面をしながら平然と惨いことをする生き物だ。

 

「……王宮にエルフの付き人がいたんだが、アレもそれ関係か」


「私は長らく里を離れております故、正確にはわかりませんが……里から代表者を送ったとの話は聞きました」


「表じゃあ、人の知識を学ぶために……とか言われてそうだな」


「ですな」


「……蛮族め」


「ですから、娘の情報はありません。少なくとも森の中にはいません……どこか遠いところか、誰かに匿われているか」


 情報があったら困るというのはそういうことか。汎人だけでなく同胞からも恨まれる。三人の中で状況が一番まずいのはアラムだ。


「……アラムは大丈夫だ」


「なぜ言い切れるのですか」


「一番魔法が上手いし、隠れるのが得意だからな。むしろ、俺が探せるか不安だ」


 これは楽観的なものではなく、確信だ。


 ナモーもノアラシも一緒だ。一緒に旅をしたからこそ、強さを知っている。


 最初の居場所がバレたのは魔王のせいだと聞いた。だから、次は大丈夫だ。


「ですが……」


「魔王もアラムの魔法にやられてたんだぞ? 攻撃を全部弾くんだ。アレはメルトンが得意な防御術だったな。アラムがいなかったら、魔王は倒せなかったよ」


 懐かしむようにそう話すとメルトンは立ったまま唇を噛んでいた。


「オレがアラムを必ず助ける。だから、これからも協力をしてくれ」


「…………娘は魔王を倒すのに、役に立ちましたか」


「もちろんだ。よく出来た娘さんだよ」


「そうですか……。そうですか……っ」


 涙を流すメルトンを見て、俺は持ってきていたハンカチを差し出した。


 それで鼻を噛んできたから小脇を小突いてやった。コイツめ。



 

      ◇◇◇




「それで、勇者様の解呪との話ですが。魔王の呪いというのは」


 眼鏡を装着したメルトン。手に紙を挟んだ黒色の板を持ってやる気の様子。


「ああ、いいよ。解呪じゃない、コレ」

 

「……? では、なぜ……」


「ココに来た理由はメルトンに会いたかったのと、ナモーを助けにいくためだ」


「アンスロの……彼もいま、劣勢だと聞いています」


「ああ。ここで勇者の本来の姿を手に入れて、ナモーを助けに行く」


「本来の姿……というと背丈ですかな。確かに幼子のような姿では」


「違う違う。金色の髪の毛にして、目の色も変えて、もっと大きくするんだ」


「????」


 混乱している様子のメルトンを前にして、クディを呼ぶ。だが応答がない。


「オイ、起きろ。出てこい」


 心臓の反対を叩きつけると眠りこけていたクディが現れ、床に腰をぶつけていた。


「ぐぬぅううううっ!? バーバ! お主! なんのつもりじゃ!」


「……っ!?」


「身体を変化させる。やり方を教えてくれ」


 服を脱ぐ。はち切れたら申し訳ないし。あと、高そうだしコレ。

 

「バルバロイ様……その出てきたのは……それにそれは魔族の刻印……」


「コイツ、魔王なんだよ。俺の身体を魔族にした奴でな。刻印もソレのせい」


「なっ!?」


 身構えるメルトンをつまらなさそうに見つめるクディ。


「取って食ったりせんわ、耳長よ」


「なんか俺の体を乗っ取ろうとしたらしい。笑えるよな」


「笑える……ようなことではないと思うのですが」


「おい、バーバ。脱ぐ必要はないぞ」


「え? そうなの? ズボンを脱ぎかけた所で言うなよ」


「魔族がその都度服を変えとると思うとるんか?」


「うん……」


「ンな訳なかろが。服も自由に着れるし、どうせその姿に戻る時があるじゃろう」


「もしかして、服ごと身体を変えれんの?」


「じゃな。そら、着なおさんか」


 そういう話はもっと早く言ってほしかった。

 エルフさんに用意してもらった服で良かったぁ。着直すのもまだ楽だ。

 

「待ってください。バルバロイ様……あなたは何をするつもりなんですか」


「なにって……仲間を助けたいだけだよ。あと、見てたらわかる」

 

「身体を変化させとる間は魔力を消費する。それを承知で行うんじゃな」


「はーい。じゃあ、頼むよ。なにをしたらいい?」


「やり方は知っとるハズじゃ。魔法名を唱え、魔力を消費」


「魔法名は?」


「身体に聞いてみぃ。分かるハズじゃ」


 なんだソレ。身体に聞くってなんだ。えっと、身体を変えたいんですけど~。

 そんなのでできる訳がないか。身体って言いながら、魔王の核にだよな。

 …………。ああ、すごい。魔王の魔力から力を感じる。こういう感じか。

 

「分かったか?」


「ああ。凄いな、お前の使ってた技が色々分かったぞ」


 うわ、すっご、本当にすごいじゃん。


「え、今の一瞬でコツを掴むとは……」


「本当に色々と分かったぞ。本当に……すごいんだな、お前」


 本当にアイツが使ってた技が分かる。

 うわ、わわわわ、コイツこんないっぱい技もってて負けたの?

 え、わっ……わぁ……わぁ、わっ! こんな技も……すごい……!


「…………」


「なんじゃ、人を悲しい生き物のように見つめてきおって」


 いや、こいつ本当になんで俺達に負けたんだ?

 こんなにいっぱい技持ってたら負けないというか、全員殺せると思うんだが。

 まぁ、消費魔力がエグいから今できないのは除いて、だけどさ。


「じゃあ、やるぞ」


「おい、話を逸らすでない。さっきの目はなんの目じゃ貴様──」


「【身体変化】!」


「──なんの目じゃったんじゃ貴様!!」


 魔法名を唱えると魔力が身体を補完していくのが分かった。

 よし、このままあの姿になるぞ……!!

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