25 解呪のツテ
案内された場所は魔法庁という所。
周りの建物と比べて、一際縦にも横にもデカい建物だ。
魔法を研究してる国の魔法庁か。一番厄介そうだなー。
来賓室で待機しておくように言われ、全員分の紅茶を用意された。
で、異常事態が発生した。
ズモッ、と体がソファに沈み込んでしまったのだ。
(やばい、えっ、えっ、えっ?)
ほぼ埋もれてるんだが? やばい、立ち上がれない……! 皆真剣な顔をして話をしてるから救援要請もできないし、紅茶飲みたいのに手が届かないし……。
「解呪を担当している人間は実は少なくてですね、ご期待に添えるかどうか」
「魔王の呪いともあれば、解呪にも十分気を付ける必要がありますし」
「教会に依頼などはしましたでしょうか? 何か情報などは」
「我々としてもぜひ聖王国の方々にご依頼したいと思っていまして」
これは「勇者の解呪という恩を売れる」っていってた部分だな。
「それは、大変嬉しいお話です。我々ほど魔法に精通している者はいませんから、必ず勇者様の呪いを解いてみせましょう」
代表が手を組みながら笑顔を向けてきた。俺も笑顔で返す。まぁ、それどころじゃないんだがな。もはやソファに体を喰われちまってんだ。
ガルーに首で合図して後ろに来てもらった。その腕を掴んで脱出成功。
ふぅ。さぁて、本題を切り出すか。
「すみません、よろしいでしょうか」
「どうされました? 勇者様」
「個人的に解呪の専門家にツテがありましてですね」
そう言うと代表は少し眉を動かした。流石に皺は寄せんか。
「魔法庁に在籍をしているかはわかりませんが、封印される前からの知人で、旧コード法国の司教を勤めていたメルトンという人物です」
旧コード法国とは昔の国名だ。
ちなみに、まだこの国にいるということはガルーに事前に聞いている。
ガルーも案外情報通なんだなーと関心した……って話はいまはいいか。
「メルトン……。ですが、勇者様……あの者は」
「298年も眠っていたら、知人はもう全員死んでいてね」
と、寂しそうな顔を浮かべておいた。ついでに指を遊ばせて見せるか。
葛藤をするように代表の顔が歪み、チラと立っていた者に目線を送る。
「……わかりました。そうですね、メルトンであれば解呪も可能かもしれません」
「ありがとうございます」と笑みを浮かべた。
後ろにいたガルーが心臓を抑えていた。どうしたんだよ。
使用人らしき人物が部屋を出ていくのを見送る。しばらくしたら来るだろう。
「勇者様、メルトンという人物はどのような」
「私の知人さ。それ以上でも、それ以下でもない」
これで意味を分かってくれ。分からんのか、外交官。
後ろにいるエルフさんとガルーはなんとなく気づいてる様子だぞ。
え、本当にわからないのか……? 298年前の知人だぞ。
「メルトンはエルフの研究者ですね。勇者様に救われたとよく話をしています」
代表がそう言い、外交官はハッとしていた。やっと分かったか。遅いぞ。
そう、メルトンはエルフで治癒魔法に秀でている魔法士で呪術の第一人者だ。
「メルトン様をお連れいたしました」
「入れ」
部屋に入ってきたのは、太陽に好かれそうなブロンドの頭髪を後ろに長く伸ばし、同じ白ローブに袖を通しているエルフの男性。
几帳面らしさを残し、はっきりとした物言いをしそうな顔だ。昔と変わらんな。
「久しぶり、メルトン」
そう声をかけると、メルトンは胸に手を当てた。
「勇者様、ご復活おめでとうございます」
あー、所作が相変わらず綺麗。
「このメルトン、再び勇者様に会えることを夢見ておりました」
「私もだよ」
エルフの中でも格が上の上位森人。それがメルトンだ。
エルフと協力をして魔族を撃退した際に、なかなか良い立場にいてな、よく話をしたんだ。だが、それだけがメルトンと俺を繋ぐ縁ではない。
「じゃあ、早速解呪をしてもらいたいんだが」
「魔王の呪いなのでしょう。ここでは難しいですね」
そういうとメルトンは使用人に合図を送る。
「地下室を用意します。仕掛けがあっても被害を最小限に抑えられるでしょう」
「ありがとう。密室であれば嬉しい。服は付き人にもたせている」
と言うと、何かを察した様子のメルトン。
さすが察しがいい。どっかの国のお髭外交官とは違うなぁ~!! なぁ!!
「そうですな。解呪によって服が開けるので……そのようにしましょう」
「勇者様の裸体は男女問わず刺激が強いでしょうからな、ハッハッハ」
と外交官のおっさんが笑い、部屋内の女性の視線が揺らいだ。ほら、おっさんが冗談を言うから皆気まずそうじゃん。こんなクソガキの裸なんて目に毒だろうさ。
「では、ご案内いたします。それと、部屋の外で控える付き人と……もし解呪の際に何かあった時に動ける方が二名程度──」
「私がいきます!」「俺が行きます!!」
ノルマンとカロリーヌが挙手し、ジルがヨシと頷く。
異論はないらしく、エルフさんとガルーと一緒に後ろについてくることになった。