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22 ただの少年みたい



 眠りについた黒髪の勇者を若い男性騎士、ノルマンは見つめる。


「寝顔はただの少年みたいですね。めっちゃ無防備」


「そりゃあ、人間は寝てる間が一番無防備だからな」


 その先輩女騎士であるカロリーヌは寝顔を見ながら答える。


「勇者様は約300年も封印されていたが、話によると魔王を倒した後すぐに王城に連れてこられたように感じたらしい」


「ということは、魔王を倒して……体感で2日目ってことですか」


「ヤベェ……」


 騎士たちは関心をしながら、警戒の気を緩ませない。


 ただ、その警戒はバルバロイが思うところの警戒では無い。


 バルバロイは『信用されてない』と感じていたが、そのようなことは全くないのだ。


 むしろ、汎人の期待通りの結果となり、信頼度は増している。


『勇者様は、異人種を恨んでおる。根絶やしにすると仰った』


『魔王を倒したあとは、異人種の勢いを削ぐつもりだ』


『やはり、勇者様は汎人の栄光と、大陸の完全統治を望まれている』


黎明国(メルヒェン)の繁栄を、かつての力を取り戻すのだ』


 広間での勇者の言葉は、王族並びに貴族らに高く評価されている。


 本人は『自分以外に危害を加えられるのを避けたい』という意味を込めたとしても、そんな思いが伝わるわけも無い。


 よって、勇者の警備が手厚くなった。


 異人種が勇者を殺すつもりなら、警備が手薄な今は絶好の機会。聖王国への移動に合計で10輌の駆動輌で移動をしているのもそれが理由だ。

 

「この旅が終われば、ノルマンとカロリーヌは勇者様の付き人になるかもな」


「めっちゃ光栄っす」


「ジル隊長はなる気はないんですか?」


「魔王を倒した英雄の付き人なんぞ、気が気ではないからな。その命が下れば従うまでだが」


 老年のジルはそう言いながら外を見る。


「どの道、アンスロとの戦の後だ。我々は勇者様を警護する任を受けているから、手柄は立てやすいだろう」


「過剰なまでに戦力を集めていると聞いていますが」


「皆手柄が欲しくてたまらんのでしょう」


「戦功のことを考えると、我々は蛮族の王と直接戦える可能性が高いな」


 その言葉を聞くと二人は目に光を宿した。


 蛮族の王。つまるところ、獣人(アンスロ)の王。ナモーのことだ。


 歴史に名を残している二人の戦いを見れて、参戦ができるときた。


 まだ若い二人にとって、これ以上のない機会だ。もちろん危険ではあるが、それ以上の見返りがある。


「媚の売り方を学んでおくべきだったス」


「勇者さまはそういうのお好きじゃないでしょう」


「先輩の初恋の相手っすもんね? 媚なんて受け付けないか」


「それは初耳だな、カロリーヌ。おまえもちゃんと女らしい所があるんだな」


「騎士とは思えぬ発言をせんでください。私にも少女の時代があります」


 腕を組むカロリーヌに男性騎士二人はハハハと笑う。





 騎士たち様子を魔王は面白くなさそうに見て、かつての仇敵の頬を撫でる。


 つつつ、とそのまま首まで行き、掴もうとして、スカッと透けた。

 

「わらわの前でよく眠れる。そういう所があの阿呆共にも好かれたのかの」


 すぐに心を開き、頼る。それは同種にとどまらず、異人種から魔族にまで。


 魔王を倒すために魔族の……それも魔将に協力を仰いだ男だ。準備に準備を重ね、魔王が開いた宴に乗じて総攻撃を仕掛けてきた。


「本当にキサマは面白い男じゃよ、バーバ」


 自身を殺した相手を褒め、そして哀れみを含む目を向けた。


「じゃが、お主は歩む道を間違えた。素直にエルフを殺せば良かったものを」


 汎人類に取り入り、異人種達を解放するために動く。


 そのためには、己を殺し、汎人類の旗を掲げねばならん。


 そして、異人種への差別意識の元根本は【勇者を裏切った】という嘘の事実だ。

 

「お主は仲間を救うために、仲間を裏切る必要があるというのに」

 

 勇者として成るには、異人種を差別し、殺すということ。


 それが出来ないのならば、勇者は勇者ではない。


 この300年もの間に刷り込まれた勇者という存在がどれほど大きいのか、裏切った異人種というのがどれほど大きいのか、バルバロイは知らぬのだ。


 勇者として成り、差別を辞めましょうと叫んでも元には戻らない。


「友を作り、友を滅ぼし、仲間を救おうとして、仲間に手をかける」


 どう転ぶか楽しみじゃと魔王は勇者の身体の中に消えていった。



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