20 文句はねぇよな?
ああ、そうか。良かった。
お前らが、敵で良かった。
汎人類は298年経っても変わらない。
それが分かって良かった。
「そうですか。ありがとうございます」
笑顔を貼り付け、将校にお礼をすると嬉しそうな顔をしていた。勇者からの礼だ。ありがたく受け取ってくれ。
「私からしたら彼らは仲間であり、友でした。先の話を聞いても信じられない思いが今でもあります……しかし、敵であるならば屠る。それが、勇者である私の使命です」
決意表明のような言葉を聞き、大人たちの背筋が伸びた。
そうだ、コレは裏切った異人種を倒すと公言したのも同義。
勇者が大好きなんだろう? なら、そのように振る舞おうじゃないか。
「罪の精算も是非、私にやらせてください。私以上の適任はいないでしょう」
その言葉を聞くと表情が強ばったのが見えた。
「では、依頼書を生存状態でとしますか。それか、目撃情報だけとして、直接手は加えないように」
「彼らは強い。私がよく知っています。そちらの方がよろしいかと」
「そうですな……手配しておきましょう」
「ハッ、感謝いたします」
(殊勝じゃのぉ。昔のお主なら一瞬で皆の首を刎ねることができただろうに)
体内から聞こえるクディの声に、内心笑いながら頭を下げ続ける。
軽い腰を動かし、頭の中でイメージ。……そうだな。確かにそうだ。全盛期ならば、できただろう。
(だけど、お前の力を得るためにはこれが必要だ)
それに……コイツら、そこらの魔族よりも多い魔力を持ってる。
貴族階級は魔力がないとなれない。あのガルーの言葉は嘘じゃないみたいだ。
(強いな。少なくとも、今は勝てない)
(だが、いずれかは)
(ああ)
いずれその首を取る。そして、その首を槍の穂先に吊るし凱旋してみせよう。
「──頭をあげてください、勇者様」
「ハッ」
「確認をさせてください。異人種の現在の扱いをどう考えますか?」
「当然の扱いかと。魔王との戦う私の背中を傷つけ、後退を不可能とさせました」
「同意見です。ならば、その者達が不穏な動きをしていることに心当たりは?」
なんだその話。初めて聞いたぞ。
「……私の封印が解けるタイミングを彼らは知っているのではないでしょうか? それに合わせて何かをする予定なのかもしれません」
「ふむ。各地で姿を見せているのは何かの準備……。なぜこのタイミングでと思いましたが……そういうことか」
「詳細はわかりませんが、おそらくは」
「では、勇者様を今度は確実に殺しに来る……と考えた方が良いですな」
何いってんだコイツ。肘置きで頬杖を着くな。あとクディは笑うな。
「あの日、封印された日です。あの者共は勇者を魔王に殺してもらおうとした……だが、そこで想定外なことが起きた。魔王を斬り伏せてみせ、魔王を倒した。結果として、殺すことができなかった彼らが封印後にすることとなれば……」
王は従卒達に目を向けて、何かしらの合図を送る。何名かが謁見室を出ていく足音が聞こえ、俺は王を向き直した。
「聖王国へ行く準備は整っています。身体が小さければ戦いづらいでしょう」
「寛大なご配慮、誠に感謝いたします。体を動かしてみましたが、違和感が大きかったので」
にこりと笑ってやった。
(しっかし、これが王となれば、魔人は安泰じゃな。勘違いばかりしよる)
(同意見だ。だが、なにぶん汎人類は数が多く、存外頭が回る。厄介だ)
(お主は自分が汎人類であることを忘れておるのか?)
(汎人類だとも。だが、俺は汎人類にはなんの思い入れもない)
気持ちの悪い笑顔を浮かべ、
俺達の屍の上でふんぞり返り、
功績を全て懐に入れて私腹を肥やし、
その欲望のまままた俺を利用しようとする。
閉じていた目を薄っすらと開き、視界に映る人間どもの顔に印をつけた。
(ああ──滅べばいいのにな、こんなクソ種族)
(恐ろしい男じゃな。仲間の種族を救い、自らの種を滅ぼすだのと……フフ)
(それも裏切りになるだろ?)
(もちろんなるとも。ワクワクするほどのな)
みんなを探すために、まずは力をつける必要がある。
王に頭を下げるのは癪だし、遠回りに思えるが……必要だ。
(俺はコイツらを裏切るために、お前らの良き友となり、信頼のできる兵となろう)
裏切る。
そのために汎人類に取り入り、協力者を募る。
都合の良い勇者として振る舞おう。資料館で見た皆の希望になるような姿で。
そして、情報を集めつつ、仲間たちや同胞を救うように立ち回る。
そして、時期が来れば──汎人類を裏切り、力を得る。
だから、今日、この日から俺はバルバロイではなく、勇者ロイになる。
汎人類を救った英雄として、ふさわしい存在として、伝説の勇者として。
「では、魔王の呪いを聖王国で解呪してまいります」
先に裏切ったのはそっちだからな。
俺が裏切っても文句は言えないよな?
1部2章はここで終わりです!
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