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17 神を"裏切った"



 自慢げに寝台の上で立った魔王を見上げる。

 なんだコイツ、肌着姿でそんな上に立ちやがって、色々見えてるぞ。


「はんぎゃくのまじんか」


「そう! 同族を殺し、仲間たちを裏切ることでわらわは力を付けてきた訳じゃ!!」


 と言う魔王は両手を広げてパタパタとしている。拍手でも求めてそう。絶対しないけど。

 

「ガルー、拍手しなくていいぞ」


 両手を構えたガルーを制しておく。


「いえ……あ。でも、そこまで合ってるとは思ってなくて……感動して」


 そう言いながら三回くらい音のならない拍手を送って。


「魔人は()()()()()()()()()()()()()()()()と言われてまして。つまり、魔王はその……」


 ああ、そういうことか。


「神を裏切った、という最も許されない行為がコイツってことだな」


 叛逆の魔人。魔王。


 寛容な神が最も許さなかった行為、感情、事象。それが「裏切り」ということか。


「如何にも。姪っ子は優秀じゃの。わらわからも拍手を送ろう」


 そう言い、音のならない拍手を二回送られていた。嫌味ったらしい人間みたいなことすんなよ。


「おい、クディ」──「クディタス!」──「おまえの言いたいことは分かった」


「分かったのか。話が早くて助かる。ならば、まずはあの耳長を殺せ。そうすれば、10年は生きながらえることができる。さぞ甘美な魔力が流れてくることじゃろう!」


「はは、馬鹿言え。そんなことする訳ないだろ」


「はァ!? 話を聞いておったのか!? わらわは叛逆の魔人! 裏切ることで」


「別に裏切ることは仲間以外でもできるだろ。それに、仲間を裏切るくらいならそのまま寿命を迎えて死ぬさ」


 何も分かっとらん! とキーキーうるさい魔王を無視。


 当初の計画を修正をする必要があるな。


 ナモーと会うために協力者を募り、国外に出る……その方向性は間違っては無いが……全くの第三者を仲間にするのは無しだ。


 裏切る……裏切るか。

 ってことは、やるべき事は1つだな。


「クディ、俺の身体はもう魔族のソレって言ったよな?」


「クディタスじゃ。……そりゃあ、もうズブズブよ。見た目をそのままにしておるのは、敵味方を油断させるためじゃな」


「じゃあ、姿を変えられるってことだよな?」


「できるぞ。思うがままの姿になると良い」


「え、魔人って……姿を変えられるんですか?」


「しらんのか。コイツが封印されとる間、人に化けた魔人が見に来ておったぞ」


「へー、アイツら見に来てくれたのか」


 魔人が見に来てたってことは誰だろう。アイツらとも会って話したいなぁ。


「まってください! 勇者資料館にですか!? 王国には魔人は入れないハズ」


「強大な魔力を有する者を弾く結界じゃろ? 馬鹿馬鹿しい。言うたろ、欺けると」


「……っ、そんなこと」


 わお、298年後の人類はまだ魔人に及んでいないらしい。文明が発展しても、実力の差は縮まらんか。


「ガルー。魔人の中には良い奴もいるぞ? コイツを倒すために協力してくれた奴もいる」


「えっ」


「コイツくらいじゃ。魔人に協力してくれなどと頼む奴は」


「えっ」


「だって正攻法でお前に勝てると思ってねぇもーん」


 命を捧げ、魔人たちと協力をして、この結果なんだがな。全滅はしなかったが、なんともまあ奇妙な帰着点だこと。


「……ほんとうに、叔父様は魔人と協力して、魔王を倒したのですか?」


「そうだよ。異人種の皆とも協力したし」


「そんな……」


「アイツらと俺は仲良しだよ、親友なんだ」


「……」


 お、信じられんって顔だな。


「で、でも、魔王に封印されたのは異人種の裏切りで。エルフが後ろから叔父さまの背中を刺して──」


「アレは俺のドジ。ハハハ、お恥ずかしい……」


「…………へっ」


「ハハ」


 笑ってごまかすとガルーは目をギュッと瞑っていた。涙でも我慢してんのか?


「恥じらう姿もかわいい……」


「なんか言ったか?」


「いいえっ……いいえっ……!」


 なんか噛みしめるように呟いてたが、聞き取れんかった。魔王が変な顔はしてる。まぁ、どうだっていいか。


「でもそんな、叔父様がドジだなんて」


「な、俺のドジだよな、アレ」


「ああ。最後の最後で油断したな。まぁ、魔力を完全に消し去ったわらわの手腕もあるが?」


「姑息なんだよ、コイツ。飛びかかってきたのも避けたら仲間に行くような位置だったしさあ」


「カッカッカ! わらわの方が一枚上手ということじゃな! このドジめ!」


「倒された人の公認きちゃったー……」


「何じゃと小娘!!」


 ガルーも復活してきた所だし、話し合いはここらへんにしておくか。飛びかかろうとしていた魔王の首根っこを掴んでおく。


「じゃあ、口封じの魔法をガルーに使うけど良いか?」


「口封じ、ですか?」


「これから王国と俺らのパイプになってもらうからな」


 というと、ガルーは寝台の上で膝を畳んで座った。


「や、やさしく……お願いします……」


「ああ」


 今日何度目かわからんが、ガルーの頭の上に手を置く。すると、上目遣いで涙を流すガルー。


「痛くも痒くもないよ。【沈黙の魔人(シレンス)の権能:口外を禁ずるオルヴィネ・ディ・バブリオ】」


 手から光の尾がいくつも立ち上り、ガルーの金色の髪に沈んでいく。

 よし、これで口封じの完了だ。


「お主は魔人の技ばかり使うのぉ。昼間の件もそうじゃが」


「そりゃあ使い勝手がいいからな~。汎人の魔法よりできることが多い」


 手をぱっぱと払った。


「喋ろうとするとそこの記憶だけが曖昧になるから。俺といる時に思い出す感じ」


 ごめんね? と言うと、ガルーは首を横に振った。


「するべきだと思います……私も叔父様の立場なら何かすると思いますので!」


 座ったまま、膝をぎゅっと掴む。


「むしろ、してもらった方が! 私は叔父様が生きていてくれるだけで良いので! もう、私のせいで叔父様に不利益なことがあったら私はもうどうしようもないので! むしろ、してくれてありがとうございます!!」


 勢いよく言われた言葉に俺と魔王は目を丸くした。


 なんか、コイツ、分からん奴だな。

 本当なら魔王にビビるか、俺を疑う所だろうに。

 ……まぁいいか。


「じゃあ、王城に案内をよろしく!」


「は、はい!」


 怖いからあまり入りこまないでおこう。



      ◇◇◇



 彼女の名前はガルー・フォン・エンペリオ。


 エンペリオ家の三女で、魔力無し(アンマナド)。王宮の第二書庫の管理者と王宮内の様々な検査を任されている。


 そのこともあって、298年の封印から目を覚ました勇者様(おじさま)の警護人に選ばれた。

 

 その結果、争い事に巻き込まれそうになっているのだが……。


(…………)


 ガルーは後ろをついてくる勇者と、その横で摩訶不思議に浮かぶ褐色の魔王を横目で見る。


 汎人類史に残る最強の2人の計画に巻き込まれた。


 普通の人間ならばその重圧に耐えきれないだろう。


 だが、この女は一味違う。

 

(叔父様、かわいいなぁ……睫毛なっが……本当に食べちゃいたいくらいきゃわだ……黒い髪の毛もさらさらなのに、癖っ毛で。え、昨日封印から目覚められたんですよね!? なんでそんなキレイなんですか!? 若返ってるのもそうだし、うわーーー、肌がモチモチしてる……でも、ちょっと痩せてる。いっぱいご飯食べてほしいー……っ!! 奢ってあげたい! 牛串食べた時に目がキラキラしてたの……はああああ、カメラを新聞社の人に言って借りて来ればよかった!! 惜しいことした!! 使用人が持ってきた服もすっっっっっっごく似合ってるし! 庭で木剣で稽古してる姿とかを優しく見守っていたい……っ!)


「ガルー、どうした?」


「いいえっ! なんでもございません!」


「? そうか?」


「はいっ!」

 

 ガルーは役得だと感じていた。


「じゅるっ……」


 ヨダレを悟らぬように啜り、袖を汚す。

 

 憧れの勇者と一緒に何かできる。

 憧れの勇者に頼ってもらえる。

 すべて勇者主軸のガルーは何も気にしない。


 勇者が赤と言えば赤だし、青だと言えば青なのだ。


(ああ、本当にエンペリオ家に生まれて良かったぁ……)

 

 恋は盲目。


 ならば、そこに尊敬が入り混じっているガルーが勇者の全てを肯定してしまうのは仕方がないといえるだろう。


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