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13 親父に教わったんだ



 俺は力を使おうとした。すると、違和感を感じた。


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 本来ならば死んでいる状態。だが、俺は動いている。その理由を探ると──もう1つの心臓からエネルギーを供給されていることが分かった。


 いや、これ心臓じゃない。

 エネルギーの凝縮体だ。


 形が歪。だが、身体に馴染んでいる。だから気づかなかった。


『ふっ』


 心臓の反対を抑えていると、後ろで笑い声が漏れた。


「……クソ野郎が」


「──ウオオオオオオオッ!!」


 クソの心臓から俺の心臓へエネルギーが供給されている。

 人の体を勝手に住みやすいように作り変えた(リフォーム)のだと思っていた。だが、これは完全な乗っ取りだ。

 最早、魔族の体に俺の意識がある状態──生まれ変わり、転生ってのが近いな。


「あとで覚えてろよ、紫ベロ野郎」


 そう言い、俺は戦闘に意識を戻した。

 するとそこには魔力の鎧を纏って地面を蹴り上げ、俺の脳天を狙う男。

 必死に顔を歪め、苛立ちから口端から蒸気を燻らせている。

 その気持ちに応えるべきなのだろうが……興冷めだな。


「もういいや」


「なにをっ――」


「楽しかったよ」


 お前のおかげで自分の身体の調子が分かった。

 昔よりも、動体視力が良くなってる。

 身体も軽いし。魔力も感知しやすい。身体が小さいのがマイナスだけど。


(情報は周りの浮かれてる奴らに聞けばいいとして──)


 男の振り下ろしを避けた。


「魔力を物量で押し付けるのがお前らの戦闘スタイル(やりかた)か? まるで魔族だな」


「グラアアッ!」


「そんな戦い方をする奴が新人や魔力量の少ない奴に教育を敷くって?」


 ぶんまわしを斜めに蹴り上げ、相手の懐に入り込む。


「冗句にしてもヒドイ」


「黙れッ!」


 振り上げた剣を馬鹿力で戻し、真下の俺を狙って武器を振り下ろした。

 ガンッと地面を割った攻撃の反動で、グラムの持っていた剣が折れる。

 するとその武器を手放し、殴りかかってきた。


「舐めるなよ、クソガキィイイイイイイ!!」


「舐めてるだのなんだのと、子犬みたいなプライドを持って――」


「クソがアアアアアッ!!」


「口舌はせんか。了解した」


 その拳をそのまま引っ張ると、ガクンッとバランスが崩れた。

 それだけで男の身体は前のめりになり、転けそうになって、

 ──バチンッ。

 男の額に向けて、俺は指を強く弾いた。


「──ッ~!??」

 

「じゃ、コレで俺の勝ちね」


 白目を向いたグラムのマントを外し、見届けていた新米騎士(エルトー)に渡した。


「騎士の等級は確かマントの色かなんかだろ? この等級で騎士にしてくれ」


「え、あ、え」


「じゃあ、勝利宣言もお願いするよ、エルトー」


 ペコと頭を下げると、思い出したかのように俺の手を握って高く上げた。


「勝敗が決しました! 勝者はえーと」


「バルバロイだ」


「バルバロイー!」


「勝ったぞー!」


 片方の手を挙げると、見物客も野太い声で喜んでくれた。思ったより好反応で笑えてきた。本当に嫌われてるんだな、コイツ。


 こんなんで本当に騎士爵を貰える訳ねぇんだけどな。

 

「すげぇな坊主! どうやったんだ!?」


「あの一瞬で場所を変えるのはなんの武技なんだ!?」


 うげ、魔族の技を盗んだって言っても信じてもらえないよな。

 

「あのー、ほら、あれだ。縮地って技があるだろ? 強いやつがしてくるアレだよ、アレ」


「縮地だと……聞いたことあるか?」


「いや……ない」


 なにやらざわざわとし始めた。まぁ、いいや。


「あの魔力を奪うってのは何をしたんだよ!」


「あれは」やば、なんの言い訳も考えてなかった「親父に教えてもらった」


「どんな父親だよ! なぁ! やり方教えてくれよ!」


「ああ、あれは魔力無し(アンマナド)か魔族かしかできんのだ」


「そうなのか?」


 いや、うそ。


「みんなは魔力を持ってるよな。それが外から入ってくる魔力と反発するんだ。自然の魔力と調和するのでさえ、意識を集中させるだろう?」


「確かに……特に魔族の魔力は身体に毒だし」


「アイツらの魔力は強いからな。で、魔力無し(アンマナド)は魔力がないから反発するものがない訳だ」


 我ながらよくこんなにスラスラと言葉が出てくるもんだと感心する。


「すげぇ! そんなのどこで知ったんだよ!」


「ええぇっと……親父に教えてもらった」


「どんな親父だよ!!」


 こんな反応をされるってことは、まだこの技術は見つかってないのか。まぁ、俺自身も魔族から教えてもらった技だからなんとも言えないし。

 

「まぁ、話は後だ。まずは祝勝を兼ねて酒でも奢ってくれよ。俺も聞きたい話がたくさんあんだ」


 実力は概ね理解した。


 あとは、298年経ったこの世界のことを学ぶ必要がある。



     ◇◇◇



 エルトーがグラムを救護室に連れて行ってる間に、練兵場に併設されている休憩所に案内された。


 そこには酒が用意されていた。グラムの酒もあったが知らん。騎士様だ、酒の1本や24本くらいどうってことないだろ。


 そこで、俺は色々な話を聞いた。


 この国のこと。周辺国、貴族領。きな臭い話。

 異人種のイメージ。近頃の動向。戦争の気配。

 勇者の話。魔力なしへの印象。新興国のコト。

 魔族の状況。魔王領地の取扱い。魔法や武技。

 そして──


「はぁ、戦争中だぁ? マジかよ」


「マジだよ、知らねぇのか? まぁ、学び舎じゃあ教えてもらわねぇか」


「……ナモーが国王になってんのも知らなかった」


 話に度々出てきていた獣王国(ヴァリアント)という国の王はナモーなのだと。

 アイツ、獣人(アンスロ)を護りたいって言ってたもんな。夢を叶えたんだな。

 だが、状況はあまり良くない。

 どうやら、その国に剣王国(オレオル)という国が戦争を仕掛けたらしい。

 

「一応聞くが……なんで戦争なんかしてんだ?」


「国王サンの息子さんが宣戦布告したんだよ。実績作りじゃねーの?」


「なんだそれ……勝ち目はあるのか?」


「剣王国だからな。アンスロとはいえ、剣聖らの方が優勢だろう」


「まて、まてまてまて。その剣王国ってのは剣聖が国主をしてるのか?」


「そんなことも知らねぇのかよ、腕は立つのに頭の方はからきしか」


「うっせーよ」


 剣聖、か。今もいるのかよアイツら……。


 俺が生きてた時代からいる剣聖、斧聖、槍聖、拳聖、魔法聖。


 それはその道を極めた者として扱われる。言い換えれば、成長の枷が外れた者達(アンチェイン)だ。


 生まれてからその力があるケースや、突然目覚める者もいる。見た目での判断は難しいが、人の限界を優に超えてるから戦ってみるとよく分かる。


(剣聖が治めてる国ってことなら……いっぱいいるんだろうな、剣聖が)


 絶対数は少ないが、一人じゃない。それが厄介だ。

 で、そこの息子が戦争をしかけたと。実績作りと言っていたが、詳しい話は出てこないだろう。


「エルフやらドワーフの話はないか?」


「坊っちゃんは勇者の敵討ちでもしてぇのか? あ、そっか」


 騎士は俺の横で酔っ払ってるガルーを見て、得心したよう。


「わりぃな坊主。その2つはねぇ。ありゃ教えてほしいくらいだ」


「そうか、分かった」


 その後、他のやつに聞いても同程度の情報しか持ってなかった。

 国際的な指名手配犯の所在を騎士が知ってたら、すぐさま抑えに行くか……。そりゃあそうだよな……。

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