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10 酒の匂いがする練兵場



 ガルーに案内を任せ、王宮近くの練兵場へ向かった。


 移動する際、王国に連絡をしようとしていたので通信魔道具とやらを取り上げておいた。すると「報告義務があるんです……」と泣きだした。報告したら手合わせで遠慮されるかもしれないだろ。


「これは、エンペリオ嬢ではないですか。どうされたんですか」


 練兵場から出てきたのは大柄でワインレッドの髪の色をしている男。


「あ、えっと……その……」


 こっち向かれても分からん。話を進めてくれとお願いする。


 その時、むんっと届いた匂いを片手で散らした。


(昼間から酒か。良いご身分だな)


 ガルーとは事前に俺は『エンペリオ家と親交がある少年』という体にした。


 つまり、俺は騎士の皆さんに手合わせをしてもらう内部関係者の連れだ。


魔力無し(アンマナド)の坊っちゃんに騎士の昇格試験を受けさせてほしい。……エンペリオ嬢の話をまとめるとそう聞こえるんですが……」


「はい……」


「こりゃあ驚いた。魔力無し(アンマナド)は騎士にはなれんのですよ? そのことくらいエンペリオ嬢もご存知でしょう?」


「でも、このロイさ──んは強くて、それがどこまでなのかっていうのを、その」


「はあ」


 ワインレッドの頭髪の男は頭を掻いた。


 そして、俺の方に目を流し、つまらなさそうに片方の口端だけを持ち上げる。


「わかりました。エンペリオ家にはお世話になっていますので、中にお入りください」


「! ありがとうございます! ロイさ──ん、行きましょう!」


「ああ」


 ガルーは舐められてるんだな。


 この呑兵衛から「エンペリオ嬢」という家名でしか呼ばれていない。


 そして、お願いを通した時に【エンペリオ家】にお世話になってると言った。これは、貴族や騎士達が好きな言い回しだ。


 まぁ、俺の知ったこっちゃないと思って練兵場に足を踏み入れて……すぐに帰りたくなった。


『雰囲気が汚いのぉ……王国軍と聞いていたが、この程度か』


 同意はしないが、俺も同じ感想を抱いたのは事実だ。


(酒の匂いを振りまく男がいる時点で、想像はついてたが……)


 練兵場で皆は素振りと打ち合い稽古をしていた。それは別に不思議なものじゃない。


 だが、その様子がなんとも言えなかった。

 

(なんのために鎧を着て、武器を振るうのか。惰性で動いてるように見える)


 動作を繰り返し、ただ大きな声を出しているだけ。そこにはなんの意味もない。命令されているからただやってるだけ……と言った様子。


 面白そうな相手がいないな。適当に手合わせをしようと思っていたが、適当な手合わせすらしたくない。

 

「それで、坊っちゃん。どいつが良いですか?」


「ここにいるやつらは本当に騎士なのか?」


「ここにいるのは第3騎士団の奴らだけでね。見習いや騎士になりたてのガキばかりです」


「ああ、だからか」


 というと、案内人の男から微量な気を感じた。


魔力無し(アンマナド)なのに力量が分かるんだな、将来有望だ」


「そうか、そりゃ良かった」


 嫌味の言い方が貴族のそれで嫌だなあ。それに、一丁前に一般人がビビる程度の魔力を放ちやがって。


 でも、雰囲気の崩れの理由が分かった。練度の低さのせいなんだな。


(それ以外にも理由がありそうなもんだが……)俺は呑兵衛を見上げる「適当に相手を見繕ってくれ」


「坊っちゃんの相手ですかい。こりゃあ困ったな、怪我させちゃならんから……オイ! エルトー!」


「はっ、はいっ!」


「こっち来い」


 新兵らしき男が駆け足でやってきた。そちらを一瞥し、空いてる場所に向かう。

 

「じゃあ、場所を借りるぞ。エルトーだったか? 手合わせしてくれ」


「は、はぁ……」


 一区画を借りて、箱に投げ込まれていた木剣を取り出した。


 ぶんっ、と振って、回す。こんなもんか。体が小さいから扱いにくいな、短剣がある。ならこれで。


「なんだなんだ、手合わせ?」


「グラム教官が誰か連れてきた」


「アレは勇者家の3女じゃなかったか? なんでこんなとこに?」


 こっちを見てくる人間が増えてきた。


 酒飲みのおっさん(グラム教官というらしい)が連れてきたガキってだけで、気にはなるか。


「おい、手加減してやれよエルトー。その坊っちゃんは魔力無し(アンマナド)で、エンペリオ嬢のご友人だ。怪我でもさせちゃあ大事だぞ〜」


「はい! わかりました!」

 

 ただの注意喚起。だけど、それ1つとっても腹の底の色が透けて見えるな。練兵場に聞こえるような声量でいうことでもねぇだろうに。


「坊っちゃんは短剣で良いのか!」


 声掛けに武器を掲げるだけで応える。眉が跳ねるのが見えた。


「じゃあ始めろ。俺が辞めというまでな」


「では、行きます」


「ああ、よろしく頼むよ」


 そう言い、俺は緩慢に歩き出した。

 困惑した様子の若い騎士(エルトー)。武器を握る手に力が入る。

 

「あの! もう、始まって」


「わかってる。ほら、間合いに入るぞ」


 若い騎士は長剣を振りかざし、それ以上入ればたたっ斬るという気迫を見せた。

 それを無視し、俺は短剣の間合いまで入る。


「あの!」


「──何をしてるエルトー!! 戦え!!」


「〜っ!」


 教官の命令に体が動き、俺の脳天目掛けて振り下ろされる武器。

 このままいけば頭がかち割れる。

 その瞬間――下から振り上げた短剣で中心線を奪った。

 滑り落ちる騎士の剣は地面を抉り、俺の剣はそのまま上へ。


 ──ピタッ。


 若い騎士の眉間に俺の短剣が触れた。


「──っ!」


 そのまま少し軽く押し込み、顔を傾けて笑いかけた。


「実践なら今ので死んでたな。手合わせは終わりだ」


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